カスタムショップのサンダンス(東京都)率いるZAK柴崎氏が制作したロボヘッドエンジン搭載のハイパフォーマンスカスタムハーレーに、雑誌『ウィズハーレー』青木編集長がテストライド。車両を見るだけではわからない、その鼓動とパワー溢れるエンジンフィーリングを体験した。
●文:ウィズハーレー編集部(青木タカオ) ●写真:長谷川 徹 ●外部リンク:サンダンスエンタープライズ
鼓動感あふれるトルクフィールに酔いしれるばかり
Vツインエンジンの性能を数値上のスペックだけで競うのなら、他メーカーのほうが優れているかもしれない。いや、きっと優れている。しかし、「ハーレーでなければダメなんです。わたし自身が惚れ込んだのが、OHV/45度のVツインエンジンですからね」と、サンダンス代表のZAK柴崎氏はきっぱりと言う。
日本ではまだハーレーダビッドソンの専門店がほとんど存在しなかった1982年に、「ハーレーにパフォーマンスを与える」というアプローチで、東京・港区高輪に創業。ハーレーの機械的な極限と究極の技術を追求しようと、米国デイトナでのバトルオブツインや鈴鹿8耐といった一線級のロードレースに参戦し輝かしい成績を収めるなど、新境地を切り拓いてきたサンダンス。レースで培った技術/ノウハウ/データをユーザーに惜しみなく還元し続けている。
ハーレーでレースに出場し、前人未到の快挙を成し遂げてきた同店。ならば、手掛けるものは競技志向で速さを重視し、そこに傾倒しているのか…!? いや、それはまったく違う。光栄なことに『ウィズハーレー』誌では、ZAK柴崎氏の手掛けた「サンダンスハーレー」(あえてこう呼ぼう)を毎号のように試乗する機会を得ているが、乗っていつも思うのは、レースへ傾向しているどころか、街乗りでの速度域でより扱いやすく、普段使いで楽しめるオートバイに仕上がっていることだ。
それでいて、中高回転域のパワフルさが飛躍的に増していて、限界点がとてつもなく高いから驚きを隠せない。
エンジンだけではない。足まわりも常用速度域から滑らかに動くよう念密に味付けされ、高速クルージングやワインディングではさらなるポテンシャルを発揮するようセッティングが施されている。
走り出した途端、試乗前の緊張を解き放つのは、乗っていて感じる”楽しさ”や”心地よさ”であり、それはレーシングマシンのごとくスムーズで無駄やロスのない操作系や、軽快に思い通りに動く車体もさることながら、Vツインエンジンの力強い鼓動感を伴ったトルクフィーリングに凝縮されている。
楽しさや心地よさの正体は一体何なのかと考えると、”ハーレーらしさ”という、得体の知れぬ曖昧なものに行き着く。しかし、「サンダンスハーレー」には必ずどれもらしさ”が強調されていて、今回の「ロボヘッドエボリューション」は特に強烈にそう感じる。
アクセルを開けると、力士が摺り足とともに繰り出す突っ張りのごとく、力の塊となって大きく波のようにうねり、車体が前へ前へと押し出されていく。質量の大きな球が、弾みをつけて転がっていくかのような勢いを内包しつつ、勇ましいほどにグイグイと突き進む。
アクセルグリップを操作する自分はもう頬が緩みっぱなしとなり、このままいつまでもVツインの鼓動に全身を委ねていたいとさえ感じてしまう。
ベースは1999年まで製造されたエボリューションで、排気量は1650ccにまでスケールアップされている。代表作「スーパーXR」でも採用するデュアルインテーク方式となっているが、シリンダーVバンク間に向かい合わせで左右にキャブレターをセットしているのが、写真を見ればわかるだろうか。
オートバイという機械を超えてアートの域に達する完成度
通常、ハーレーのV型2気筒エンジンは、前シリンダーヘッドの混合気が入るインポートは後方にあり、リヤシリンダーヘッドの吸気口は進行方向を向いている。だから、前後シリンダーの間に吸気機構をひとつ置けば、インテークマニホールドを二股にし、前と後ろに振り分けることができてしまう。
前後2つのシリンダーで混合気を分け合うのは合理的ではあるが、モアパワー&より強力なトルクを求めれば、燃料の奪い合いとなってしまうのは想像に容易いだろう。シリンダーごとに独立したキャブレターをそれぞれ配置することで、混合気の供給量はもちろん、充填をスムーズに最適化でき、パワー&トルクを飛躍的に向上できる。
これまで試乗してきたスーパーXRでは、リヤシリンダーヘッドのインポートを後方へ逆転させ、キャブレターを車体の右側へ2連装していたが、このロボヘッドではシリンダー吸気口の向きを変えないままにツインインテーク化し、市販カムやノーマルのロッカーアームが使えるなど、コスト面でもメリットをもたらしている。これをサンダンスでは「Aタイプ」と呼び、差別化。スーパーXRのように後ろシリンダーヘッドのインテークをテール側に移し、片側にキャブを2連装することももちろん可能だ。
ソフテイルフレームをベースにしたシャーシに、フロント19/リヤ17インチの足まわりを組み合わせ、倒立式フロントフォークは5度より深くセット。直進安定性を増したが、ハンドリングの軽快性は失われておらず、それどころからよりクイックに応答してくれる。
高剛性で軽量なアルミキャストホイールが車体の操縦性に機敏さを加え、ラジアルマウントの6ポットキャリパーが抜群のブレーキフィールをもたらす。
湾曲とくびれが美しいバイパータンクといい、1966〜69年のル・マン24時間レース4連覇の偉業で知られるフォードGT40(オーバーフェンダーがビス留めされていたところなども再現)を彷彿させるダックテイルといい、60〜70年代のデザインが色濃く表現されているのも見逃せない。
エンジンフィールもデザインも、人間の五感を刺激する要素をふんだんに持ち合わせ、唯一無二の存在としているが、紛れもなくハーレーであることを強く主張している。ノーマルとは異なるスタイルや外観であるにも関わらず、誰の目にもハーレーだとわかり、乗れば「これぞハーレー」と唸るばかり。理想とするライドフィールがこのサンダンスハーレーには詰まっていて、ZAK柴崎氏が「ハーレーじゃないとダメなんです」という意味が、走らせれば少しずつわかってくる気がする。
ハーレーファンを読者にする専門誌にしか書いてはならない表現かもしれないが、ひょっとすると、ハーレーダビッドソンのプロダクトより、”らしさ”を持っているように思えてならない。
特徴的なエンジンまわり
レーシングマシン・デイトナウェポン譲りの、フリクションを極限まで軽減させた97mmピストンをローコンプ仕様とし、ツインカム96同等の4 3/8インチ=111.25mmのコンロッドが組み込まれるロボヘッドエンジン。
排気量は1650ccにまで拡大され、フライホイールの慣性マスを増大させるなど独自の設計が施されている。V字にならぶ前後シリンダーの間(内側)に、インポートが配置されるハーレーのVツインエンジン。
サンダンスFCRキャブレターが各シリンダーに独立配備されるツインインテーク方式が採用された。ストレート吸気で、充填効率も最適化されているのも見逃せない。アイドリングも極低回転で安定している。
プライマリーケースはオープン化され、1次ドライブベルトの伝達を見ることができる。
その他詳細
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