実質的な”無敵さ”を秘める

スズキ「シン・ハヤブサ」エンジン完全解説【数十万km楽しめるよう、内部パーツをほぼ全面刷新】


●文:ヤングマシン編集部(沼尾宏明) ●情報提供:スズキ

POP吉村も唸る”過剰品質”を想起させる、入念な造り込み

新型ハヤブサは、1340ccの排気量ほか基本構成は先代と同一ながら、内部パーツを検討し直し、ほぼすべてにメスを入れた。次の4つのテーマを満たすために、執念とも思える改修を施したのだ。

  1. 耐久性と寿命の向上
  2. 低中速域でより大きな出力とトルクをスムーズに発生すること
  3. 最新電子制御による快適性の向上
  4. 最高速を犠牲にせずユーロ5対応

まず(1)について、もともと耐久性には定評があったが、さらに力を入れて開発した。テストを重ね、ボルト1本/Oリング1本に至るまで変更。クランクシャフトなどは形状が同じでも加工法の変更等で基本的な部分から強度を上げている。
開発者が「10万、20万km、なんなら50万kmと乗り続けてほしい」と語るほどの耐久性は、かつてヨシムラ創始者のPOP吉村がスズキGS1000を評して”過剰品質”と言わしめた逸話を彷彿とさせる。

そして(2)では、ユーザーが常用する実用域6000rpm以下の出力特性を磨いた。最大トルクは微減したものの、先代に存在した中速域のトルク谷をほぼ完全に解消。右手の動きに忠実にトルクが湧き出る仕上がりとなった。しかも299km/hの最高速を維持しており、3代目はあらゆる場面で実質的に速く快適と言えるだろう。

出力特性は、1000分の1秒単位でバルブを開閉する(3)の電子制御スロットルのほか、電脳系との関連が深い。(4)については触媒を増やした新作の排気系や燃焼室形状の変更などで対応。まさに執念のつくり込みで、新エンジンは次のステージに進んだのだ。

【’21NEW】先代のエンジンを徹底研究。何度もテストを繰り返した結果、内部パーツはほぼすべて見直し、基本的な強度をアップ。摩擦によるパワーロスも低減した。

【’21NEW:中身は別モノ。超熟版だ】黄色い部分が新作。継続のチタンバルブを除く、ほぼすべてのパーツが改良されたことがわかる。外観は色とクランクケースカバー形状を変更。

スズキ ハヤブサ
スズキ ハヤブサ

【’98旧型】初代からエンジンの基本設計は不変。排気量にしては非常にコンパクトで、シリンダー前傾角は21度。さらに3度前傾して搭載された。 [写真タップで拡大]

ゼロ発進からの加速タイムを短縮。総合性能は圧倒的だ

7ps減/0.5kg-m減となったが、最大トルク発生回転数は200rpm低い7000rpmへ。実際、0-200m加速タイムは先代より0.1秒短縮。0-100km/h加速は0.2秒短縮している。トップエンドのごくわずかな領域はともかく、6000rpmを常用する公道では3代目の圧勝だろう。

従来型と同等の最高速を維持しつつ、トータル性能を引き上げた3代目。先代にあった中速トルクの落ち込みが消え、パワーも直線状に伸びている。実際にトルクが発生する”面積”(上図)を比較すれば、差は一目瞭然。あのパワフルな隼が一段と強化される…!

燃焼室はより高効率に

スズキ独自の多球形燃焼室=TSCCを踏襲しつつ形状を変更。燃焼効率を改善し、ユーロ5対応にも貢献する。機械加工で仕上げ、気筒間のバラつきも抑えた。

ひたすらに低中速と耐久性を磨き上げた

カムシャフトは、オーバーラップ量を減らし低中速指向に。作用角が減り、耐久性も向上する。カムチェーンテンショナーもブレを抑える新設計。スリッパー表面にテフロンシートを加え、摩擦ロスも低減した。

スロットルは電子化&高効率化

待望の電子制御スロットルを獲得。径や吸気管長は低中速指向としている。バタフライバルブを2→1枚とし、サブインジェクターは噴射を微粒子化するS-SFIも新採用。高出力&高効率化を実現した。

ピストンとコンロッドは軽量化&剛性アップ

大端&小端部の幅を狭めて3g軽量化しつつ、アーム部の剛性を上げたコンロッド。振動軽減と耐久性向上の効果がある。

鍛造ピストンは、燃焼室の改良に伴いトップ形状を変更。26gの軽量化も達成した。ピン穴には応力を軽減する機械加工を施す。

R1000譲りのオイル通路

クランクシャフトのオイル経路を変更。GSX‐R1000譲りの技術で、ポンプに手を加えず、流量と圧力を54%もアップ。

冷却効率も約8%改善

外装の変更で、ラジエターへのエアフローも改善。冷却ファンの間隔を広げ、カバーの小型化なども相まって冷却効率が高まった。

アシスト機能付きのスリッパーに

従来からスリッパークラッチを採用するが、3代目ではクラッチレバーの握る力を軽減するアシスト機能付きに。

ミッションも一段とタフ

メインシャフトを支持するニードルベアリングローラー長を11→13mmとし、耐久性を高めた。

排気系全体で2kgのダイエットに成功

エキゾーストパイプに連結管を追加し、低中速の出力を改善。左右マフラー内にも触媒を配置した。またエンジンの変更でマフラー容量を削減でき、排気系全体で2054gもの軽量化を実現した。

吸気効率を改善し、迫力の吸気音も実現

電子制御スロットルの採用でスペースに余裕が生まれ、エアクリーナーボックスの容量を10.3→11.5Lに増大。内部支柱の排除などで良質な吸気音も実現した。

ラムエアダクトは開口部が縦に伸び、通路も拡大。より圧力損失を減らし、加圧流量を増やす形状になった。迫力ある吸気音にも貢献。


※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

最新の記事