●写真:磯部孝夫 ●文:青木タカオ ●取材協力:SUNDANCE
ハーレーダビッドソンのスペシャリストとして、国内はもとより本場アメリカでもその名が広く知れ渡っている「サンダンス」。代表作のひとつにSUPER XRがあるが、今回紹介するのは伝説の「スーパーXR CR」カフェレーサー仕様だ!!
卓越したクラフツマンシップ宿る芸術品
流行などに左右されず、いつの時代に誰が見ても、文句なしに美しいと感じる唯一無二のプロポーション。スリムで軽快感があるのに、ぞっとするほどの凄みを利かせ、角度を変えて見れば、ハッとするほどに艶めかしい。見るものを魅了してやまない完全無欠のスタイルである。
’77年に英国で生まれたカスタムスタイル”カフェレーサー”にインスピレーションを受けたウィリー・G・ダビッドソンは、ハーレーダビッドソンでは後にも先にも類いのない強烈な個性を持つモデルをリリースしている。「XLCR」だ。
黒で統一したボディに、ビキニカウルやシートカウルを備え、’78年までの2年間に3133台を生産。時代の先を行き過ぎたか、当時はヒットに至らなかった。
そして、ロードレースにて4サイクルツインの咆哮を復活させようと企てられたのが、市販車ベースで2気筒1000ccまでと規定した”BOTT(バトル オブ ザ ツイン)”。ハーレーダビッドソンは’83年と’84年にホモロゲ―ションモデルとしてXR1000を1777台生産。36mmデロルトキャブレターから大きくエアクリーナーが張り出し、2本出しのアップマフラーは車体の左側へ配置された。H-DワークスのBOTTレーサーは”ルシファーズハンマー”と呼ばれ、’84〜’86年にチャンピオンを獲得。今も名声が伝えられる。
サンダンスのコンプリートマシン「スーパーXR CR」は、2台のモデルをヒントにしつつ、次元を遥かに超えるブラッシュアップが施されている。’82年に東京・高輪で開業して以来、ハーレー全般はもちろん、XLCRやXR1000を数多く整備/販売し、ブランチヘッドをはじめとするリペア&チューニングパーツを多数開発/製造。誰よりも両機種を知るサンダンスZAK柴崎氏が、より良いものをユーザーに届けたいという思いから辿り着いた答えが、独自開発したオリジナルのヘッドおよびシリンダーを搭載したスーパーXRだった。
XLスポーツスター5速ミッションの腰下に、アルミ削り出しのシリンダー/キャスティング製シリンダーヘッド/軽量ピストンなどを組み合わせ、ボア×ストローク=89×96.8mmで排気量1200cc、軸出力120PSを発揮。パワー/信頼性/燃費を含むすべてにおいて、XR1000はもちろんルシファーズハンマーさえも凌ぐ。
そして、スタイルを決定づけるエクステリアにも妥協は一切ない。XLCRの外装は個体差があり、燃料タンクは形状や仕上げがさまざま。そんななかZAK柴崎氏が導き出したのが、この端正なシルエット。つまりレプリカではなく、サンダンス・スーパーXRCRなのである。
全米チャンピオンシリーズ・スーパーツインクラスにてデイトナ・ウェポンで優勝し、ハーレーでの鈴鹿8時間耐久レース完走など、過酷なロードレースでも強さを見せるサンダンスだけあって、走りが一級品なのは言うまでもない。
エンジンは神経質なところを見せず、いとも簡単にセル一発で始動し、当たり前のように落ち着いてアイドリングしている。シートにまたがると、絞りの効いた細身の燃料タンクがいっそう美しく、芸術品のように複雑な表情を見せるエッジを、女体に触れるかのように指でなぞりたくなってしまう。
恍惚とせずにはいられないのは、タンク下端のえぐりで、ギリギリと言える均等な間隔の隙間を保ちつつサンダンス/ケーヒンキャブレターがグイッと顔を出し、乾式エレメントが大胆に張り出す姿を目の当たりにすることができる部分だ。タンクの逃しにキャブが食い込む様は、職人技と呼ぶに相応しい精巧さがあり、卓越したクラフツマンシップが細部に宿っていることが感じられる。
FCRキャブレターは的確なセッティングが施され、極低回転でも力強くアイドリングし、安定しきっている。クラッチミートでも気を遣う必要はなく、街乗りで多用する低回転域もトルクが太い。日常の相棒となるスポーツスターの良さが、まったく失われていない。
本領発揮は3000回転からで、怒涛の加速が味わえる。車体は’98年式で、振動面で不利なリジッドフレームだが、不快なバイブレーションはなく、7000回転までモリモリのパワーを伴って伸び上がっていく。
軽快に操れるのは足回りや外装が軽量化されているからで、ホイールはサンダンス/エンケイ・アルミキャスト製、タンクやマフラーもアルミ製、ビキニカウルとシートカウルはカーボン製で、高い精度のモノコック製とすることで高速走行でもビビりが一切ない。
Vツインならではの鼓動感もはっきりとあり、アクセルを開けてダイレクトに駆動輪が路面を蹴り飛ばすかのような感覚は、まるで生きたモンスターの心臓がパワーをみなぎらせているかのように強く逞しい。サンダンス・スーパーXRCRを、現代の走りを得た究極のリジッド・スポーツスターと呼んで、異論を唱えるものはいないだろう。
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