リザルト以上にレース内容は良好!

山田宏の[タイヤで語るバイクとレース]Vol.32「互角に戦える確かな手ごたえを得た2006年」


TEXT:Toru TAMIYA

ブリヂストンがMotoGP(ロードレース世界選手権)でタイヤサプライヤーだった時代に総責任者を務め、2019年7月にブリヂストンを定年退職された山田宏さんが、そのタイヤ開発やレースの裏舞台を振り返ります。前回に続いて今回も、ブリヂストンのMotoGPクラス参戦5年目となった2006年のお話。その序盤と中盤は、飛躍を感じさせる内容でした。

フロントタイヤの改良が実を結び始める

前回紹介したように、2006年第7戦カタルニアGPの決勝レーススタート直後に、ドゥカティワークスチームのロリス・カピロッシ選手とセテ・ジベルナウ選手が接触して転倒。このアクシデントで負傷したことで、カピロッシ選手はシリーズタイトル争いから脱落してしまいましたが、ブリヂストンにとってMotoGPクラス参戦5年目となった2006年は、前年までと比べてかなり戦績が上向いたシーズンでした。もちろんシーズン序盤は、カピロッシ選手が第6戦までの間に優勝が1回、2位が2回、3位が1回で計4度も表彰台に登壇し、決勝のリザルトでは飛び抜けていたのですが、ブリヂストン勢が全体的に戦闘力を高めていました。

そもそも開幕戦となったスペインGPでは、予選でカピロッシ選手がポールポジション、ジベルナウ選手が同2番手、カワサキワークスチームの中野真矢選手が同3番手となり、決勝スタートのフロントローを独占。ラップタイムという部分では性能が優れていることを、いきなり証明することができました。

第2戦カタールGPの決勝は、カピロッシ選手がトップと1.494秒差の3位、ジベルナウ選手が同4.638秒差の4位でしたが、これもブリヂストンにとって意味を持つリザルトでした。カタールGPは2004年からシリーズに加えられ、その初年度は公式記録によると決勝の路面温度が51度、2005年は同45度まで上昇。その環境下でブリヂストン勢は、2004年はスズキワークスチームのジョン・ホプキンス選手がマークした8位、2005年はドゥカティワークスチームから参戦したカルロス・チェカ選手の6位が最上位と低迷しました。

2006年、第2戦カタールGPで走行する#65 ロリス・カピロッシ選手と、後方につける#15 セテ・ジベルナウ選手。

この当時、カタールGPは10月上旬に設定されていて、しかも現在のようなナイターではなく完全なデイレース。うんざりするほど暑かったのですが、それに加えてコースレイアウトと路面状況の問題により、カタールのコースはとくにフロントタイヤへの耐久性がメチャクチャ厳しいんです。その影響から、2004年のブリヂストンタイヤは5周も走らないうちにフロントタイヤがボロボロに……。我々はこれに対応するため、内部構造を大幅に仕様変更したタイヤを開発しました。

フロントタイヤの構造を大幅に変更するということは、フィーリングも大きく変わるので、ライダーにとってはなかなか受け入れるのは難しいのです。そのため最初は「全然曲がらない」とか「グリップしない」というコメントがほとんどだったのですが、耐久性の良さはあったので、ブリヂストンとしてはコンパウンドの組み合わせ改良などで対応。タイヤに合わせてチームがマシンセッティングを煮詰め、ライダーがタイヤの仕様に慣れてくると、ラップタイムに改善が反映され、メリットが活かせるようになっていきました。

2005年もカタールでは結果を残すことができなかったのですが、後に他のサーキットで使うタイヤも含めて、この構造が主流となっていきました。2006年のカタールGPは4月上旬に開催が移され、公式記録によると決勝の気温が26度で路面温度は41度と、以前ほどの暑さはなかったのですが、苦戦が続いていたカタールGPで表彰台に登壇。そしてこのフロントタイヤ改良が間違っていなかったことは、後で紹介しますがこの年の第11戦アメリカGPでも実証されます。

第2戦カタールGP、予選では11位につけた#71 クリス・バーミューレン選手と13位だった#21 ジョン・ホプキンス選手。決勝ではともにリタイア。

まだまだコースによって成績の上下はあった

リヤ16インチタイヤの開発など、あの当時はかなりいろんな試行錯誤を繰り返しながら、アップデートに次ぐアップデートを継続。ちなみにリヤ16インチは、何年だかは忘れてしまいましたが、中野選手をはじめとする数名が何度かレースでも使用しています。タイヤの弛まない進化と熟成により、第7戦のアクシデントで流れが変わってしまったとはいえ、ブリヂストンは2006年のシーズン序盤でランキングトップに立つことができたわけです。

しかし一方で、なかなか対処できないままのコースが残されていたのも事実。例えば第9戦イギリスGPは、スズキワークスチームから参戦していたホプキンス選手の8位がブリヂストン勢の最上位で、カピロッシ選手が9位に終わりました。これは、ブリヂストン勢としては2006年シーズンのワーストレース。当時、イギリスGPはドニントンパークサーキットで開催されていたのですが、ここは昔からブリヂストンタイヤとの相性が悪いコースでした。

路面ミューがかなり低くて、夏でも気温が上がらないことが多いので滑りやすいというのがその大きな理由。あまりに滑るからなのか、「飛行場が隣にあるから、航空機の燃料が霧状になってコース上に降ってきて、そのせいで滑りやすいんだ」なんて話までささやかれていました。そのウワサの信憑性はわかりませんが、低ミュー路面でブリヂストンタイヤの性能が発揮しにくいという傾向は確かにありました。ちなみに2005年は、スズキワークスチームのケニー・ロバーツ選手が2位になっていますが、このときはウェットコンディションで約半数のライダーが転倒リタイヤという荒れたレースだったのです。

2006年大会は7月上旬に実施。予選ではスズキワークスチームのクリス・バーミューレン選手が2番手、チームメイトのホプキンス選手が4番手、以下にカピロッシ選手、カワサキワークスチームのランディ・ド・プニエ選手、中野選手が続き、トップ7に5人という好結果だったのですが、決勝ではホプキンス選手の8位がベストと期待外れの結果になってしまいました。決勝レースは、公式記録によると気温27度で路面温度45度。例年よりどちらも上昇したにも関わらず、やはり成績を残すことができずに終わったのです。

次第に自信を深めていく

一方で、第11戦アメリカGPは、決勝最上位こそバーミューレン選手の5位と特筆するようなリザルトではなかったのですが、我々の自信をさらに深めるレースとなりました。というのも、7月下旬に開催されたこのGPは、公式記録で決勝の気温が39度で路面温度が56度と、恐ろしい暑さになったのです。ラグナセカは、毎年同じような時期にレースを開催しているのに、気温や路面温度が読めないコース。前年は、決勝こそ気温が23度で路面温度が52度でしたが、金曜日と土曜日のフリープラクティスや予選は、ほとんどの走行が気温20度以下。さらに2008年には、決勝日のウォームアップラップ時に霧が立ち込め、気温12度で路面温度14度なんてことも……。たしかこのときは、ミシュラン勢の一部ライダーが、あまりにタイヤが温まらなかったのでカットスリックで走行したはずです。

決勝レースの気温が20~25度、路面温度が40~45度という年が多いとはいえ、そこから外れたときの振れ幅が大きいのがラグナセカ。もっとも、ウィーク中に路面温度が60度前後という異常な領域まで上昇したのは2006年だけでしたが、準備の段階から悩まされるコースです。そんな過酷なコンディションになった2006年のアメリカGPで、バーミューレン選手は路面温度58度の予選でポールポジションを獲得。32周の決勝レースでも、ちょうど前半が終わる16周目までトップを走行していました。しかし17周目に2番手へ後退すると、レース終盤にエンジントラブルが発生。そして5位でレースを終えました。しかしこの決勝でもタイヤには問題がなかったことで、我々はさらに自信を持つことになったのです。

ちなみにこの年のシーズン中盤、第8戦ダッチTT(オランダGP)では、カピロッシ選手が前戦のクラッシュによるカラダの痛みによりなんとか1ポイントを獲得できる15位で精一杯の完走を果たした一方で、中野選手が決勝で2位に入賞。これもシーズン中盤までのレースでは記憶に残るリザルトのひとつでした。このGPでは、予選でホプキンス選手がポールポジション、中野選手が2番グリッドを獲得。決勝の中野選手は、一時4番手まで後退しましたが、その後は3番手を走行し、ラストラップで2番手のコーリン・エドワーズ選手が転倒したことで2位となりました。

中野選手は2004年の日本GPで3位に入賞し、カワサキに23年ぶりの表彰台登壇をプレゼントして話題となりましたが、ロードレース世界選手権最高峰クラスでの3位はヤマハ2ストマシン時代の2001年にも一度ありました。その自己ベスト記録をブリヂストンタイヤで更新してくれて、しかも我々としてはドゥカティワークスチームのリザルトには期待できない状況の中で奮闘してくれたので、ダブルの理由でとてもうれしく思ったのです。

第2戦カタールGPにて。左はリヴィオ・スッポさんで、右は山田さん。


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