
クラシックなスタイルを尊重しながら、新しい技術を取り入れて再構築する手法は、近年「レトロモッド」と呼ばれ脚光を浴びている。しかしサンダンスでは、そんな言葉すら存在しなかった80年代から、ヴィンテージハーレーの姿をそのままに魅せつつ、エンジンや足まわりを時代に即した性能へと引き上げたカスタムを生み出してきた。その名もスーパーナックル。オールドハーレーが持つ味わい深いライドフィールをさらに際立たせ、外装はとことんこだわり抜く。傑作の一台、ついにウィズハーレーに登場だ!
●文:青木タカオ ●写真:磯部孝夫 ●外部リンク:サンダンスエンタープライズ
大太鼓を打つような豪快なパルスに酔いしれる
ヴィンテージハーレーに心を奪われるのなら、まさに夢のような1台だ! リジッドフレームにスプリンガーフォーク、そしてビッグツイン伝統のOHV初代ナックルヘッド。この組み合わせを聞いただけで、マニアなら垂涎ものである。
しかし、もしもすべてが当時ものの純正オリジナルであるのなら……。
二度と手に入らない、入手困難となった貴重な部品の集合体であるのだから、それはまさに宝物であるはずだ。いかに寿命を伸ばすか、傷などが入らないように恐る恐る扱い、遠乗りするのもさぞかし気を揉むことだろう。もし雨が降れば、当たらないように軒下へ避難させて、走るのを諦めるかもしれない。
サンダンスZAK柴﨑氏はジーンズに話をたとえた。
19世紀後半に炭鉱労働者の作業服として誕生し、破れにくく頑丈なことから、世界中で愛用されるカジュアルウェアとなっていく。その一方で現代におけるヴィンテージジーンズは、その希少性からコレクションや投資の対象として高額で取引されるようになった。つまり、それはもはや本来の役割を果たせていない。
ZAK柴﨑氏は、公園のベンチに気兼ねなく座れるようなジーンズのように、日常の足として機能性に優れるハーレーであって欲しいと願いを込めて、このスーパーナックルを完成させた。
誤解しないでいただきたいので、言っておきたいのは、ZAK柴﨑氏は旧車の魅力を熟知した熱烈な愛好家であり、言うまでもなく造詣が深い。もちろん、純正オリジナルコンディションのままにこだわるファンたちを否定するわけでもない。
1947年式のナックルヘッドを自ら所有した経験があるのはもちろん、数多くのヴィンテージハーレーを手がけてきたZAK柴﨑氏だからこそ、スーパーナックルを生み出すことができたのだ。
サンダンスはショベルヘッドがまだ新車で買える1982年に、東京・高輪にて開業した。アーリーショベルやパンヘッドを含め、壊れて当たり前と言われたハーレーを次々に完調にしていく技術力の高さから、お客さんからは「ナックルヘッドはやらないのですか?」と、よく問い合わせを受けた。
もちろん、オーダーを受ければ引き受けるが、今も昔も一貫して完璧を追い求めるZAK柴﨑氏は、現代の交通事情に合わせた乗り物として満足がいくものかと考えると、納得がいくまでには到達しない。当たり前だ。ナックルヘッドは戦前の設計であり、販売されたのは1936〜47年と旧い。
しかし、旧車だから仕方がないという妥協は、ZAK柴﨑氏にはない。
今となっては性能に優れるシール材があることなどから、比較的簡単に問題を解消できるものの、当時ではヘッドの形状やブリキのロッカーカバーなどからのオイル漏れを許してしまう風潮が、プロの間にもあり、それはとうてい納得ができることではなかった。
旧いモデルであっても、現代的な技術を用いて不具合を解消し、実用性のある乗り物にしたい。ヴィンテージハーレーならではの味わい深さを損なうどころか、もっと際立つようにしてである。
つまり、理想のエンジンだ。
発進時から力強くトルクが湧き上がり、歯切れの良い排気音を奏でながら加速していく。多くのファンがイメージを抱くハーレーのVツインであり、その究極形は本物を超えてしまう。
ピンポン球やカラーボールは、動きこそ速いもののパワーは小さい。それに対してボウリングの球は、動きこそゆっくりだが大きな力を持っている。フライホイールの慣性モーメントにも、これと同じことが言えるだろう。サンダンスが手掛けるエンジンは後者だ。
重い鉄球がゆったりと動き出すかのように発進するものの、もたつきは一切ない。相撲の力士が腰を落として突っ張るかのような凄まじい力で、前へ前へと押し出されていく。そして速度が乗ってくると、あとはもう強大なパワーを伴いながら回転し続けるのだ。
ショベルをベースに、サンダンス製ビッグボアシリンダーにて1438ccの排気量を獲得したVツインエンジンは、まだ低い回転域であるにもかかわらず、高速道路のクルマの流れを余裕をもってリードできる。重いフライホイールによる回転を維持しようとする慣性によって、ロングストロークエンジンは潤沢なトルクを発揮し、心地良い鼓動感を乗り手に伝えてくるからたまらない。
以前紹介したスーパーパンヘッドとエンジンの仕様は大きく変わらないが、実際には乗り手が感じる鼓動は、より強烈である。それはリヤサスペンションを持たないリジッドフレームゆえで、エンジンの脈動や息吹、ビートがダイレクトにライダーへと伝わってくる。
不快な微振動ではなく、大太鼓を打つような豪快なパルスに、身体がこれをもっと欲しがる。ハイスピードレンジへと誘われ、ついつい右手のスロットルが大きく開いてしまう。押し出されるようにして、巡航速度が上がっていく。スピードが上がってからも、思いのほか乗り心地は良く快適だ。そう感じた矢先、大きな段差に乗り上げ、衝撃をまともに喰らってしまう。まずいと瞬時に身構えたが、車体はびくともしない。
剛性が最適化されたフレームが、適度なしなりをもって衝撃を吸収し、車体を穏やかに落ち着かせてくれる。そして、ステーにスプリングを組み込んだサドルシートが、全身を浮き上がらせた反動で何度か上下動を繰り返すと、何事もなかったかのようにスーパーナックルは悠然とまたクルージングを続けた。
スプリンガーフォークの働きが大きいことも、忘れてはならない。80年代後半にリメイクされたスプリンガーフォークをベースに、見た目こそ短めで、ナックルヘッド時代の純正オリジナルと見分けがつかないようにしながら、スプリングの巻き直しやダンパー構造の見直しなどによって、性能を飛躍的に向上している。
エンジンだけでなく足まわりにおいても妥協を許さないサンダンスは、たとえスプリンガーという前時代的な設計であっても、路面追従性や衝撃吸収力を高めるために改良を重ね、ダンパーブッシュといった消耗品に至るまで独自開発しているのだから頭が下がる。
フロントブレーキはディスク化され、制動力とコントロール性を大幅に向上。不安を解消し、走る、止まる、曲がるというオートバイの基本性能をおざなりにしないZAK柴﨑氏の流儀は、ヴィンテージスタイルであっても揺るがない。
純正オリジナルに敬意を払いながら、現代の交通事情に即した性能を備え、隣に並んでもひけをとらない存在感を放つスーパーナックルは、冒頭で触れた通りまさに夢のような一台である。
サンダンスZAK柴崎氏インタビュー動画
前号で紹介したスーパーパンヘッドでは、シャシーの下にリヤショックを水平配置するソフテイルフレームをベースに、サンダンスが改良を重ねたアクティブ・リジッドフレームが用いられていたのに対し、スーパーナックルではナックルヘッドエンジンが現役だった時代に合わせて、リジッドフレームにて車体が構築されている。エンジンはショベルヘッドをベースに、3-5/8インチのサンダンス製ビッグボアシリンダーを組み込み、排気量を1438cc(87.7ci)へとスケールアップ。S&S製クランクのフライホイールはヘビーウェイト化され、力強いトルク特性を生み出す。
スプリンガーといえども、路面の凹凸にしっかりと追従するしなやかな動きと適切な減衰力を発揮する。ノーマルでは硬すぎるスプリングも見直され、コシのある柔らかさを実現。実用性を考慮し、フロントブレーキはディスク仕様にしている。そして、分割式タンクに美しいクロームが施されたキャッツアイダッシュをはじめ、FCRキャブに組み合わされるベル型エアクリーナーや長方形のステップボード、ソロサドルシートがクラシックムードを際立たせる。精巧なアルミ鋳物製ナックルルック・ロッカーカバーが、切り欠きを設けた燃料タンクと組み合わされるのは、大きな見どころのひとつ。サンダンスでは純正を忠実に再現したパーフェクトレプリカタンクも製品化されているが、こうしたアレンジもまたセンスが光る。マフラーはショットガンタイプとし、前後18インチの足まわりではフェンダーを大胆にショートカット。往年のレーサーに通じるボバースタイルを取り入れ、軽快でアグレッシブなムードを漂わせている。OWNER:岡本大輔氏
SUNDANCE SUPER REAL KNUCKLE
サンダンスの歴史を振り返れば、旧き良き時代のモデルを現代的な技術で再現するレトロモッドという概念がまだ世間に浸透していなかった時代(80年代後半)から、スーパーナックルや前号で紹介したスーパーパンヘッドを世に送り出しているから驚きを隠せない。そしてエンジンそのものを再設計し、造り上げてしまうリバースエンジニアリングでの最高傑作のひとつが、99年に発表したスーパーリアルナックルだ。WITH HARLEY Vol.13にて特集記事を展開できたことは、たいへん光栄なことであった。
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