刷新したフェアリングでフロントマスクを新しくした、ハーレーダビッドソンCVO(Custom Vehicle Operations)の新型「FLTRXSE/FLHXSE」を、富士スピードウェイで走らせた! 新型Vツインエンジンは、可変バルブタイミング機構を搭載し、排気量を1977ccにまでスケールアップした“ミルウォーキーエイトVVT121”。倒立フォーク&ラジアルマウントキャリパーの足まわりなど、見どころの多い最高峰モデルを存分に走らせる環境が整ったぞ!!
●文:ウィズハーレー編集部(青木タカオ) ●写真:栗田晃 井上演 HARLEY-DAVIDSON JAPAN ●外部リンク:HARLEY-DAVIDSON JAPAN
富士スピードウェイ激走の試乗レポート!
新型となり注目が集まるニューCVOロードグライド、そしてCVOストリートグライド。ハーレーダビッドソンジャパンがテストライドのために用意してくれたのは、なんとサーキットであった。
最高峰グランドアメリカンツーリングをレーシングコースで走らせる。そこに一体どんな意味や狙いが込められているのだろうか。しかも、F1日本グランプリも開催されたことのある国際格式の本格派レーシングコースである富士スピードウェイ。ブルースカイヘブン2023の開催中とあって、グランドスタンドやコースサイドから見て「おやっ、新型だ!」と、気づいた人も少なからずいただろう。
新しいフロントマスクなど、遠くから見てもフル刷新されていることが一目瞭然で、その存在がすぐにわかるほど新しさに満ちあふれているニューCVOだが、ハーレーダビッドソン伝統のフラッグシップであることも、誰の目にも明らかだ。
CVOロードグライドのシャークノーズフェアリングは、デュアルヘッドライトを横長のレンズで統合し、一灯式に大型化しているが、やはりロードグライドであるとすぐに認識できるし、CVOストリートグライドのニュー・バットウイングフェアリングも、洗練されたシルエットには生まれ変わったものの、ヤッコカウルの最新型であると、予備知識がなくともすぐにわかる形状にデザインされている。
伝統を踏襲しつつ、スタイリッシュに進化していることは、実車を目の当たりにすればより感じることができた。ここで言う伝統とは、ビジュアルだけでなく、ハーレーダビッドソンならではの上質感であったり、威風堂々とした存在感、凄みの効いた迫力である。
外装はダークプラチナのペイントで、細部にいたるまで上質感が高く、明るいスモークサテンのピンストライプが施されている。フェアリングの内側であったり、覗き込まなければ見えない部分にまで手の込んだ塗装が及び、最上級機種としての気品や落ち着きも持ち合わせているから、思わず見惚れてしまう。
ただこうして眺めているだけでも、時間が経つのを忘れてしまいそうになるが、まず何はともあれ、走ってみたい。
スイッチまわりもすべてが新しくなっているが、ハンドル右にイグニッションスイッチがあるのは変わらない。操作方法を教わらなくとも、いろいろなボタンを触りつつ、面積を約400%増しにした12.3インチの大型ディスプレイを見ていれば、直感的に把握できる。
もう待ちきれないと言わんばかりにピットでエンジンを始動させると、すぐにGOサインが出た。全長4563mのレーシングコースは、誰も走っていない。目視で後方確認しつつ、ゆっくりと入っていき、コーナーをひとつクリアするたびにアクセル開度を大きくしていく。
そして、最終コーナーを抜ければ、およそ1500mも続く長いホームストレートに入る。さぁ、ミルウォーキーエイトVVT121のポテンシャルを解き放つときが来たぞ!
ボア・ストローク103×117.5mmで、1977ccの排気量を獲得。燃焼室やバルブシートを新作としたシリンダーヘッドは、楕円形の吸気ポートを持ちエアフローを向上したほか、エアインテークボックスの容量を増加し、スロットルボディも大径化。さらに、リフト量のより大きいハイカムも組み込まれている。
最高出力は5020rpmで115PSにも達し、さらに6000rpmをわずかに超えてもリミッターが効くまで回っていくから凄まじい!!
ミルウォーキーエイト117と比較し、パワーは9.5PS、最大トルクは約8%増しの183Nm/3500rpmにも及ぶ。
立ち上がりから加速は強力かつスームズで、どこからでも潤沢なトルクを味わえる。この広いトルクバンドはVVT(=可変バルブタイミング機構)の働きによるところが大きい。構造がシンプルなことから、四輪車用エンジンのVVTでも一般的な油圧式のベーンを用いた位相変化型。
回転域や負荷などに応じて進角/遅角させ、バルブタイミングを連続的に変化し最適化する。出力向上のみならず、燃費性能にも好影響を及ぼし、燃料消費量を3〜5%減らすことを達成した。
また、冷却システムもさらなる改良を果たている。排気バルブまわりを中心とした高熱を持つ領域にウォーターラインを巡らせるのは変わらないものの、水路を刷新し、ヘッド上からラインを遠ざけるなど循環路も新しくなった。ラジエターはフレーム下部、フロントタイヤの後方に配置され、冷却液は最初にリアシリンダーヘッドに送られ、次にフロントシリンダーヘッドへ送られていく。
排気システムも新作で、マフラーの直径は4→4.5インチに太くなり、排気サウンドもより迫力がある。
トランスミッションに至っては、シフトドラムとニュートラルポケットのジオメトリーが再設計され、シフトフィールが滑らかになった。
また、従来は回転数や速度などからシフト位置を車載コンピュータがCANBUS経由で読み取っていたが、より確実な機械式のギヤポジションセンサーを追加したことも付け加えておこう。
これは、VVTの搭載により各種センサーがより重要になったと考えられる。ハーレーダビッドソンの挟角45度V型2気筒エンジンは、プッシュロッドを持つOHVというオーソドックスな機構を頑なに守りつつ、早くからフューエルインジェクションを採り入れ、電子スロットルへと進化し、さらに車体姿勢を検知するIMU(イナーシャルメジャーメントユニット)搭載へと進化してきた。
これまで培ってきたセンシング技術があってこその、今回の可変バルブタイミング機構搭載へと至っている。というのもVVTは、回転数/スロットル開度/燃料噴射量のみならず、エンジンへの負荷や状況などさまざまな要因に応じるもので、あらゆる情報を検知し分析してこそ成り立つ。そういった意味では、VVT搭載は正常進化であり、パワーや環境性能などを大排気量エンジンで多角的に高い次元に引き上げるなら、もっとも現実的で賢明な選択であったと頷ける。
また、パンアメリカやスポーツスターSらの心臓部であるレボリューションマックスで、VVTはすでに実績があるため、ミルウォーキーエイトへの採用は満を持してと言っていいだろう。
さて、ニューエンジンについてだけで、ずいぶんと長くなってしまった。まだ試乗レポートは、メインストレートにさしかかったばかりだ。
超高速レンジでのクルージングも余裕そのもので、エアロダイナミクス(空力技術)を追求し開発されたフェアリングの威力は絶大。上半身はおろか、頭部への風もほとんど感じられず、コクピットと自分の体の間に安定した空気の塊を留めているかのようでさえある。風洞試験では、ヘルメットの風圧が2022モデルと比較して、平均で60%削減されている。
両モデルともそうで、フェアリングに標準装備されるディフレクター(整流板)は調整ができるよう開閉式になっていて、ライダー側から手前に引き寄せれば回転し風が通り、押せばシャットアウトできるという仕組みだ。
秀逸なフェアリングに守られている上、足まわりの強化とコンフォート性を向上したシャーシのおかげで、なんたる巡航力の高さか。オートクルーズコントロールをセットし、もっと長い直線を走り続けたいと願ってしまうではないか。
これほどに悠然たるクルージングが楽しめると分かったからには、次にピットインした時には、インフォテインメントシステムにスマートフォンを接続し、音楽プレイヤーを起動させたい。ロックフォードフォズゲートの高出力アンプとスピーカーは、高速走行であってもヘルメット越しのライダーの耳に良質なサウンドを届けてくれることはもう知っている。
コーナーへのアプローチもスムーズになっていて、狙ったラインを外さない。制動力を飛躍的に向上したブレーキは、タッチとコントロール性も上がり、ストッピングパワーをより繊細に引き出せる。
フロントブレーキは、ブレンボ製のラジアルマウント対向4ポットキャリパーに、従来型より20mm大径化した320mmフローティングディスクローターの組み合わせ。前後リンク式は従来通りで、フロントへ荷重がかかりすぎる不安も要らない。
そして、ハイスピードから一気に減速できるのは、インナーチューブ径47mmの倒立式フロントフォークがしっかりと踏ん張ってくれるからで、強力にグレードアップした足まわりの恩恵はとてつもなく大きい。サスペンショントラベルはフロント117mm/リヤ76mmで、2022年式のグランドアメリカンツーリングモデルと比較し、50%も増加している。
出力向上や、サスペンション&ブレーキ強化に対応し、シャーシも剛性を上げた。フレームの基本構成に変更はないものの、エンジンマウント部等が見直され、切り返しなどでもシャキッとした手応えで応答性を機敏にしている。アクセルを戻したときの捩れや鈍さも解消し、ステアリングフィールをよりダイレクトなものとしているのも、新型CVOにとって大きなトピックとなりそうだ。
アルミ鍛造の新作トリプルクランプは、単体で7ポンド(約3.17kg)を軽量化。フロントの接地性も高まり、フェアリングがフレームマウントのロードグライドはハンドリングがより軽い。スピードレンジが低くなると、ストリートグライドはステアリングに若干の重さを感じるものの、それはこうして両車を比較しつつ乗り込まなければ気になる範疇ではない。
従来型と比べれば、117キュービックインチ=1923ccだった排気量を54cc拡大し、さらにシャーシの剛性を高めているにもかかわらず、車体重量はCVOロードグライドが12kg、CVOストリートグライドで13kgも減らしている。
新しいフェアリングや可変バルブ機構搭載のエンジンに関心が集まりがちだが、軽量化した車体にも舌を巻く。
広いサーキットで思う存分にニューCVOの高い動力性能を味わい尽くすことができた。ゆっくりと流せば、ハーレーらしい鼓動がより力強く明確で、テイスティさも失っていない。高速道路/ワインディング/一般道を想定し、安全に疑似体験することも可能であったわけで、走行を終える頃にはハーレーダビッドソンジャパンの意図が理解できた。
こうしてニューモデルが登場するたび、初ライドは楽しみで仕方がなく、それぞれに印象に残るものだが、今回のCVOは忘れられないものとなりそうだ。
見た目のインパクト、完成度の高さ、そして将来への期待、すべてがケタ違い。創業120周年の節目に出してきた渾身の最高峰モデルだけのことはある。
ライディングポジションをチェック
ミルウォーキーエイトVVT 121エンジン:楕円形の吸気ポートを持つ新作ヘッドを採用
吸気ポートを新作し、エアフローを向上したヘッド。ウォーターラインも刷新されている。スロットルボディも大径化され、いよいよ挟角45度のスペースが少なくなってきたか、斜めにレイアウトされていることがバタフライバルブの傾きでわかる。
右側カムカバーを透明にし、可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing)の搭載を外側からわかるようにしている。ヤマハやBMWのようにカムシャフトがスライドし、低回転域用のカムから高回転域用のカムに切り替わるのではなく、ミルウォーキーエイトVVTは油圧制御によってカムシャフトを進角/遅角させることで、バルブ開閉時期を変化させる。
このタイミングでトランスミッションにギヤポジションセンサーを追加装備しているのは、VVTとの関連がありそうだ。従来はCANBUSによって、速度やエンジン回転数からシフトポジションを割り出していた。正確に可変バルタイを制御させるため、各部のセンシングが重要度を増したのかもしれない。また、ブローバイも見直しされ、環境性能を高めている。
新型FLTRXSE CVOロードグライドのディテール
12.3インチのTFTスクリーンは、従来の6.5インチBOOM! Box GTSよりも約4倍の画面面積で、鮮明で見やすく、反射防止と指紋が残らないようコーティングが施されている。
また両モデルともに、4チャンネル500ワットRMSアンプで駆動される高性能なRockford Fosgate Stage IIオーディオシステムを搭載。3ウェイ6.5インチフェアリングスピーカーと5×7インチサドルバッグスピーカーを装備する。
シート下にはヒートギア用のUSBポートを設置。こうした電装システムを支えるために、オルタネーターを48→58アンペアに出力向上している。
新型FLHXSE CVOストリートグライドのディテール
バットウイングフェアリングの内側、インフォテインメントディスプレイの下に幅約10インチ×奥行約8インチの大きなストレージがある。ボタンを押せば引き出しのように飛び出すが、減衰しながらスライドするので高級感がある。USB-Cコネクタもこの中に収められ、スマートフォンだけなく他にもまだ入り、ケーブルが折れ曲がらないのも嬉しい。
標準装備のグリップヒーターは、ハンドルスイッチまたはインフォテインメントディスプレイを介して調整できる。フューエルタンクの容量は22.7L 。サドルケースは容量を若干増やし、いずれも形状を新しくした。
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