
ホンダは、ライダーの安全運転を診断するスマホ向けアプリを開発中。宅配でおなじみのウーバーイーツと共同で、アプリを活用した実証実験をスタートした。一体どんなアプリなのか? 実際に体験してきたのでレポートしよう。
●文/写真:沼尾宏明(ヤングマシン編集部)
安全運転するほどインセンティブ増!Uber Eatsとの実証実験が開始された
ホンダは、2030年に全世界でホンダの二輪四輪が関わる交通事故死者を半減し、2050年には交通事故死者ゼロという目標を掲げている。
そこで、車両で人を守る技術開発をはじめ、啓発活動(人の能力向上)、交通エコシステムなど様々な領域から取り組んでいる。その一環として開発されたのが「二輪運転診断安全アプリ」だ。
また、ホンダとUber Eats Japan(ウーバーイーツジャパン)は、二輪パートナーの交通安全意識を高めるため、2025年から連携を開始。安全啓発コンテンツの提供などを進めてきた。
こうした経緯もあり、ウーバーと共同で二輪運転診断安全アプリを活用した実証実験を行う。期間は9月1日~28日の4週間。ウーバーの二輪パートナーから参加者を募り、抽選で選ばれた全国1500名で実施する。
積極的に安全運転へ参加してもらうために、ウーバーではスコアに応じたランキングやインセンティブ(報酬)を設けている。安全運転するほどおカネも儲かる仕組みだ。
8月31日に埼玉県で行われたメディア向け取材会では、ホンダとウーバーの担当者が出席。アプリや実証実験に関する詳細な説明を行った。
Uber Japan セーフティ部 部長の尾竹 森氏。「私たちの目指すゴールは一致しています」と話す。
スマホ向けの「二輪運転診断安全アプリ」は、人の能力(啓発活動)の一環として開発。ライダーの安全意識向上と運転改善を目的に、運転行動を分析する。
バイクならではの特性や「暗黙知」を独自に定量化
アプリは、2023年から米国で一般ユーザー向けにリリースされている四輪用の運転診断安全アプリを基に開発された。
スマホ内のGPSやジャイロセンサーを用い、配達時の運転行動を分析・診断。その結果を「アクセル」「ブレーキ」「ステアリング操作」など項目ごとにスコア化することで、自分では気づきにくい運転傾向を可視化し、運転改善をサポートする。
二輪版アプリの開発でポイントとなったのが、バイクならではの特性や「暗黙知」。クルマ向けの運転診断は他社も既に展開しているが、バイク用は少ない。その理由は、バイクならではの難しさがあるからだ。
バイクは、ハンドルだけでなく車体をバンクさせて曲がったり、路面の振動をセンサーが拾ってしまうといった様々な課題があるという。
そこでホンダは、長年蓄積してきた二輪四輪のセンサーデータを基に独自ロジックを構築。ブレーキングや車体の傾きといった動作を判別している。
さらに、ホンダの交通教育センターで安全運転を指導してきたプロインストラクターの判断や、開発ライダーの実走行データをフィードバック。こうした主観的なノウハウである「暗黙知」をアルゴリズムに入れ込み、センサーの単純な情報だけではなく、複雑なロジックで安全運転をデジタル化しているという。
アプリは、米国で若者向けにリリースされている四輪版をベースに、二輪向けに進化。
バイクならではの複雑な運転を独自ロジックや暗黙知で定量化した。
アプリを体験、「急」な操作をしっかり診断していた!
取材会場で実際に二輪安全運転診断アプリを体験することができた。アプリには実証実験版と開発版の2種類があるが、取材では後者の開発版が用意された。
実証実験版は100点満点で総合スコアをはじめ、「ブレーキ」「アクセル」「右左折」で採点。
一方の開発版は「アクセレーション」「ステアリング」「ブレーキング」の3項目をA+~Cの4段階で評価。項目ごとにより細かい内訳が採点される。また走行中、リアルタイムにコーナリングに関する音声フィードバックがある。
デモ版と実証実験版の比較。実証実験版は、音声フィードバックや地点アドバイス機能がなく、よりシンプルだ。
用意されたCB400SFでアプリを体験。ポケットにアプリがインストールされたスマホを入れ、クローズドコースを短時間走行した。ウーバーのボックスも用意され、配達員気分!?
評価の基準は様々で、急な加減速、追加ブレーキ、コーナーに対するブレーキング開始位置、スムーズなステアリング、コーナーへの進入速度など。無線接続したブルートゥースイヤホンから、走行中に英語で「コーナーへの進入速度が速い」「スムーズなコーナリング」といったアナウンスがあった。
なお四輪版と違い、バイク版は都市部での運転を想定し、運転に集中できるよう音声介入を少なめにしているという。
故意に「急」がつく運転をしたところ、診断結果はしっかり低評価になっていた(笑)。一方、模範的な安全運転をしていた参加者は高評価だったため、診断の精度はかなり納得できるものと言えそうだ。
このアプリを使えば、いい評価を得るため自然と安全運転を意識するはず。また、自分ではわからない運転のクセといった「気付き」も得られるだろう。
四輪版も体験、注意喚起だけでなく、褒めて豆知識まで教えてくれる
取材会では、開発中の四輪向け運転診断技術も公開された。前述の北米向け運転診断アプリ「ドライバーコーチングアップ」がベースで、日本向けの展開を計画しているという。
こちらはドライバーの運転評価をリアルタイムに音声でアナウンス。また、日本版ではホンダの「セーフティマップ」と連携し、テレマティクスデータや事故データ、地域住民の投稿データを活用。その地点に近づくと音声で知らせてくれる。
スタッフが運転するクルマに同乗し、四輪向け運転診断技術を体験した。こちらも日本向けに開発中のアプリだ。
音声の内容やタイミングはかなり考えられている。
「子供が急に出てくるかもしれませんよ」「このエリアは他の車がよく急減速しているようですね。何か理由があるのかもしれません」「このエリアは40キロ制限なんですよね。きっと何かしらの理由があるんでしょう」などとアナウンス。疑問を投げかけて安全意識を自ら高めてもらうことを狙っている。
いい運転をすると「歩行者や自転車に配慮していますね。社会貢献の姿です」といった音声も。ホンダの担当者によると「注意喚起するシステムが多い中、なるべく運転を褒めるシステムとしています」とのことだ。
全体的にアナウンスの頻度はかなり高いが、あまりに頻繁でもウザい。そのため、特にイベントがない時はしゃべりすぎないことを重視しているという。
また「ほうれん草のシュウ酸は結石の原因となりますが、ゴマと一緒に食べるとビタミンEがそのリスクを抑えてくれます」といった運転に関係のない豆知識もガイド。担当者によると「安全ってちょっと硬いじゃないですか。そういったものを日常の中で使ってもらう手段として、ライフハックのような情報も混ぜています」と話す。 基本的に停止中など直接的な運転がない時にこうした情報を流す。
なお、四輪版はウインカーなどの車両情報とも連携。早めにウインカーを出すことで評価につながる。バイク版もこうした連携ができれば、ウインカーの消し忘れ警告など、より可能性が広がりそうだ。
四輪版アプリの運転診断結果。ブレーキ、アクセル、ハンドルの3項目を100点満点で診断する。
今後の実用化は未定ながら、安全に効くアプリだ
二輪版アプリの実用化など今後の計画については未定。「ユーザーの継続意向や、スコアに対する納得性、使い勝手などを今回の実証実験で見極め、今後の対応について検討していきます」という。
一般ユーザーへの展開に関しても「現時点では具体的な計画はございません。この取り組み自体が非常に新しい取り組みですので、まずは今回のアプリが行動変容につながるかというところをしっかり見極めていきたい」と話す。
実際にアプリを体験してみて、安全に対する意識が変わる有用なアプリと感じた。それだけに、ぜひ一般ライダーへの展開もお願いしたいと思う。実証実験の結果を含め、今後の展開を待ちたい。
なお、ホンダは安全教育ノウハウを、ウーバーの安全啓発コンテンツに提供。世界21か国50万人が閲覧している。動画でのシミュレーションで、どんな危険が潜んでいるかクイズ形式で学べる仕組みだ。
筆者も体験したが、意外にも(?)難しい。選択言語によって各国に応じた内容となり、任意で受講できる仕組みになっている。
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