
「警察の取り締まりは実績稼ぎのノルマだろ」「ゴネれば見逃してもらえるのでは?」。運転者なら一度は抱いたことがあるだろう、警察への疑問や都市伝説。これらの疑問に対し、15年間沖縄県警の交通課で過ごした元女性白バイ隊員の宅島奈津子さんがリアルな実態を語ってくれた。組織を縛る「数字」の存在から、かつて囁かれた揉み消しの噂、白バイ隊の厳しい洗車の掟まで。綺麗事だけではない現場の「裏事情」を明かそう。
●文/写真:ヤングマシン編集部
評価のために検挙へ走る同僚と新人の複雑な胸中
交通取り締まりに対して「点数稼ぎだ」「反則金目当てのノルマだろ」と悪態をつきたくなる瞬間はある。その疑問に対し、元沖縄県警の女性白バイ隊員・宅島奈津子さんは率直にこう答えている。
「交通取締を行っている警察官に対してノルマがあるのかどうかっていう疑問がよく挙げられますが…結論から言うとある! と言えるかもしれません。ただ厳密にはノルマって言わないのかなって個人的には思っています。」
やはり、組織における「目標数値」としての数字管理が存在するのだという。
「そもそも警察という組織は、交通違反だけではなくすべてにおいて目標数値というものが設定されていて、数字で管理されています。」
実績を上げることにエネルギーを注ぐ警察官がいたのも事実。宅島さんが新人の頃に同行した先輩もまさにそのタイプで、逆らえない新人時代はひたすら検挙に付き従う毎日だった。
「ひたすら違反者を探す、という交通取締のスタンスが本当はすごく嫌でした。ただその先輩のおかげで検挙件数が高く成績優秀賞をもらったりすることも多々ありました。でも手放しに喜べないというか、本心では嬉しくないというか、そんな複雑な気持ちでした。」
成績優秀で表彰されつつも、本心では葛藤を抱えるという、実に泥臭い人間味にあふれた現場の裏事情である。
ゴネ得や美人への揉み消しは?かつて囁かれた「警察の闇」と現代のリアル
「ゴネれば見逃される」「一昔前は揉み消しがあった」という噂。宅島さん自身、警察官になる前に耳にしていたという。
「たしかに一昔前は、そういうことがまかり通っていたかもしれません。私も耳にしたことがあります。警察官に知り合いがいるとか、地位や名誉が高いとか、そういった理由で見逃してもらえていた時代がありました。ひどいものだと美人だからとか、デートに応じてくれるならといった理由で違反を揉み消していたということもあったと聞きます。」
しかし、「最悪やん!」と警察を嫌っていた宅島さんだが、現代はそんな甘い時代ではない。
「確実に言えることは今の時代、そういったことは絶対にあり得ないということです。どの分野でもそうですが、昔と比べて透明性が求められています。それは警察組織でも同じです。」
取り締まりの現場では、警察官は万が一の裁判に備え「確実に違反をしたと確信できるとき」にだけ切符を切るという。例えば信号無視なら、前輪タイヤが赤のタイミングで停止線を踏んでいるかを注視する。ゴネたり泣き崩れたりしても「お互いに時間のロスでしかない」というのが現実だ。
なぜ物陰に隠れるのか?「ネズミ捕り」という罠と悪質な違反者への心理戦
パトロールを見せるのが最大の抑止力になるはずなのに、なぜ彼らは物陰に隠れて「ネズミ捕り(※罠に似ていることから生まれた俗語)」をするのか。宅島さんも警察になる前は「堂々とパトロールすればいいのに」と感じていたが、取り締まる側になり、その「合理的な心理戦」を理解する。
「悪質な違反者を捕まえるため。なぜなら悪質な違反者は、捕まらないための運転をしています。彼らは警察官がいないところ、見ていないところであれば、違反してもいいと思っているわけです。」
「警察官がいたら停止したのに」と言い訳する違反者こそ、隠れて取り締まる必要性を証明している。普段は隠れてプレッシャーを与え、ルールを無視する者を網にかけるための、いわば必要悪としての心理戦なのだ。
綺麗事だけでは語れない、組織の「数字」と、現場の人間関係、刻一刻と変化する取り締まりの心理戦。この裏事情を知ると、街で見かけるパトカーや白バイの姿が、これまでとは違った「人間味あふれるドラマ」に見えてくるはずだ。
【協力:宅島奈津子】大学卒業後、沖縄県警察にて交番勤務を経て、交通機動隊白バイ隊に所属。約15年間の勤務において、大半を交通課で過ごし、取締りをする中で暴走行為等を働く少年たちと関わり、1000名以上の子どもたちの補導に携わった。現在はコーチングスキル、カウンセリングスキルを身につけ、警察で培った経験を基に親子関係改善コンサルタントとして活躍している。愛車はホンダCB400SF。
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