
フロント2輪という前衛的なスタイルで、バイク業界に衝撃を与えたヤマハの「トリシティ」シリーズ。残念ながら、2026年をもって日本国内モデルの生産終了が発表された。二輪の軽快さと四輪に迫る安定感を両立したLMW機構は、多くのライダーから「転ぶ不安」を取り除き、新たな移動の喜びを提供し続けてきた。本記事では、姿を消しゆくトリシティシリーズが私たちに残した革新性と、今だからこそ再評価したいその真の価値を振り返る。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真/外部リンク:ヤマハ
LMW機構がもたらした「圧倒的な安心感」
バイクの宿命とも言える「転倒のリスク」。その不安を根底から覆したのが、ヤマハが誇るLMW(リーニング・マルチ・ホイール)テクノロジーだ。2014年に第1弾としてトリシティ125が登場した際、フロント2輪が車体と同調して傾く(リーンする)その独特の動きは、多くのライダーに驚きを与えた。
独自の「パラレログラムリンク」機構により、フロントタイヤの片方が段差に乗り上げても、もう片方がしっかりと路面を捉え続ける。「雨上がりのマンホールでスリップするかもしれない」「路肩の段差でハンドルを取られるかもしれない」といった、ライダーが日常的に抱える無意識のストレスを劇的に軽減してくれるのだ。
二輪特有の軽快なハンドリングはそのままに、四輪のような接地感を味わえる。この絶妙なバランスこそが、トリシティ最大のベネフィットであった。
確かに、通常のスクーターと比較するとフロントの機構パーツが多いため、車重は重くなる。しかし、その重量感がもたらす直進安定性と、強風にあおられた際のふらつきにくさは、悪天候のなかでもバイクに乗らざるを得ない通勤ライダーにとって、何物にも代えがたい「命綱」となっていたのだ。
125/155が変えた「毎日の通勤・通学」の質
ラインナップの中核を担ってきた125ccと155ccモデルは、都市部での移動手段として確固たる地位を築いた。特に155ccモデルは軽二輪枠となるため、高速道路の走行も可能。日々の通勤から週末のプチツーリングまで、行動範囲を大きく広げてくれる。
パワーユニットには、環境性能と走りの楽しさを高次元で両立する「BLUE CORE」エンジンを採用。2023年のモデルチェンジでは、スマートフォンと連携する「Y-Connect」や、視認性に優れた4.2インチフルカラーTFTディスプレイが搭載され、ナビゲーション機能も追加された。
トリシティ300が叶えた「疲れない長距離ツーリング」
さらに、2020年に追加されたトリシティ300は、長距離ツーリングの常識を大きく変えた。292ccの水冷単気筒エンジンによる余裕のパワーに加えて、「スタンディングアシスト」機能の搭載が画期的だったのだ。
この機能を使えば、車両の自立をアシストしてくれるため、信号待ちのたびに重い車体を足で支える必要がなくなる。ストップ&ゴーが続く渋滞路や、長時間のツーリングにおいて、この「足を着かなくて済む」という機能がどれほどライダーの疲労を軽減してくれるか、想像に難くないだろう。
押し歩きも容易になり、大柄な車体でありながらも、ライダーに心理的な負担を一切感じさせない。まさに、旅を心から楽しむための「相棒」と呼ぶにふさわしい一台だった。
また、遡ること2018年には大型ラインナップ「NIKEN」も登場し話題を集めたが、LMWとしてはもっとも早い2024年に生産終了となっていた。
国内終売の背景と、いま新車を手に入れる意味
今回の発表でLMWシリーズは、日本国内においてすべて生産終了となった。トリシティ125は2026年夏、155は2026年秋に終了予定であり、300に至ってはすでに新規注文を受け付けておらず店頭在庫のみとなっている。
一方で、欧州など海外市場ではその実用性が高く評価されており、新型モデルの投入や販売が継続されるため、部品供給の面では当面不安はないと言えるだろう。「いつか乗ってみたかった」「フロント2輪の安定感を体験したかった」と考えているなら、今が本当に最後のチャンスである。
トリシティシリーズが提供してくれた「転びにくい」という究極の安心感は、これからも色褪せることはない。これからの人生で、天候や路面状況に怯えることなく、自由に駆け抜ける喜びを今こそ手にしてみてはいかがかな。
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