
●文:佐藤寿宏(ヤングマシン編集部) ●外部リンク:ヤマハ レース情報
レースは自分の人生そのもの
始まりがあれば、終わりは必ずやってくる。絶対王者として長年、国内最高峰の全日本ロードレース選手権JSB1000クラスに君臨してきた中須賀克行が、今シーズン限りでの引退を表明。東京モーターサイクルショー初日となった3月27日(金)、メディア向けに行われた「YAMAHA MOTORSPORTS MEDIA CONFERENCE 2026」にて、中須賀は自身の言葉で“今シーズン限りでの引退”を語りました。
東京モーターサイクルショーのヤマハブースで引退を発表した中須賀克行。
「私事ですが、2026年の全日本ロードレース選手権をもちまして、引退をしたいと思っています。まだシーズンは開幕していないのですが、このタイミングで発表した理由については、いろいろな事情もあります。ただ、今年が最後だと知っていればサーキットへ応援に行ったのに、と言ってくれる方がいるかもしれない。先に伝えることで、少しでもサーキットから足が遠のいていた方に戻ってきていただき、そこから新たに一人でも多くの方がレースを観に来ていただければと思いました。シーズンが終わってから引退を表明し、静かに去ることも考えましたが、長年この業界に育てていただいたので、少しでも恩返しになればと。メディアの皆さまにニュースにしていただき、新しく興味を持ってくださるお客様が増えたらいいなという思いで、開幕を前に発表させていただきました」
すでに近しい関係者は知っていましたが、中須賀が公の場で引退を語ったのは、この時が初めてです。このカンファレンスで引退を発表すると聞き、その姿を見届けなくてはと、私も足を運んできました。話す内容は事前に決めていたそうですが、実際に“引退”という言葉を口にした瞬間、こみ上げるものがあったと言います。
「子どもの頃に父ちゃんにバイクを教えてもらい、走り続けてきました。レースは自分の人生そのものですし、それがなくなってしまう。“引退”という言葉を発することで、それが現実になってしまうと考えたとき、感慨深いものがありましたね」
壇上でスピーチする中須賀は、少し涙ぐみながらも、最後まで自分の思いを伝えきりました。
再びゼッケン1をつけ、最後のシーズンに挑む中須賀。14度目のチャンピオン獲得と、通算100勝達成を目指す。
トップランナーとしてMotoGPマシンの開発ライダーも務める
中須賀はJSB1000クラスを牽引する傍ら、ヤマハMotoGPマシンの開発ライダーも務めてきました。先輩ライダーである吉川和多留氏、藤原儀彦氏は、いずれも45歳でその職を退いています。今年の8月に中須賀も45歳を迎えますが、前任の2人と大きく違うのは、今なお現役のトップランナーとしてレースを続けている点です。
「自分としては、まだまだやれる気持ちもあります。この年齢になっても最高の環境で走らせてもらえ、成績も大きく落とすことなく13回もタイトルを獲ることができましたから。ただ、どこかでゴール地点を決めないと、下から上がってくる後輩たちに対しても、自分が(勝利を)独占し続けるのは業界の発展につながらないと思うんです」
月並みですが、中須賀に「最も印象に残っているレース」を尋ねてみました。MotoGPでは、断トツで2位に輝いた2012年最終戦バレンシアGP。鈴鹿8耐では、4連覇を成し遂げながらも予選での負傷により決勝を走れず悔しい思いをした2018年や、130Rでの転倒からマシンを押して戻ってきた2012年など、苦い記憶も呼び起こされました。しかし、数多くの激闘を経て中須賀が選んだのは、2007年の全日本ロードレース選手権・第4戦オートポリスでした。
「JSB1000で初めて勝ったレースですし、YSPレーシングに入って2年目、やっとプロとしてやっていける自信がついた頃でした。父ちゃんは峠を走っていて、本当はレースをやりたかったけれど、環境が整わずできなかった。その思いから僕にバイクを勧めてくれて、親の夢を背負いながらも、それがいつしか自分の夢となり、二人三脚で戦ってきましたから。なかなか結果を出せない時期も『こいつはすごいライダーになる!』と信じて支援してくれた。プロとして勝つ姿やチャンピオンを獲った姿を直接見せることはできませんでしたが、きっとどこかで見ていてくれたと思っています」
中須賀の父・克次さんは、2004年にがんで亡くなっています。ポケバイ時代から中須賀を支え、全日本GP250時代もメカニックとして共に戦ってきました。表彰台で中須賀が必ず空を指さすのは、克次さんへの報告を欠かさないためです。最愛の父の想いを乗せて、彼は今日まで走り続けてきました。
引退後の展望を問うと、「今は何も考えていない」との答えが返ってきました。 「目の前のことに全力で取り組めば、その結果として未来も良くなるはず。今まで通りのスタイルでレースを頑張れば、いい未来が見えてくると信じています。こう見えて遅咲きで苦労人ですから、器用なタイプではありませんしね。苦楽を共にし、関わってくれた人がいたからこそ今の自分がある。最後まで全力でやり通すので、ぜひサーキットに足を運んでほしいです」
3月25日・26日に行われた事前テスト「Round ZERO」ではトップタイムをマーク。今なお日本のレース界を牽引する存在であることを証明した。
14回目のタイトル、そして通算100勝(現在94勝)への到達を目指し、中須賀のラストシーズンがいよいよ幕を開けます。全日本ロードレース選手権は、4月4日(土)・5日(日)、栃木県・モビリティリゾートもてぎで開幕します。
「引退について語るのは今日だけ。シーズンが始まったらレースに集中したいので、(引退については)聞かないでほしいですね。最終戦が終わったらまた話すので、それまでは聞かないように、って書いておいて(笑)」
最後に中須賀は私にそう釘を刺しました。その約束通り、ここに記しておきます。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(レース | ヤマハ [YAMAHA])
見直しとアップデートを重ねた2025年シーズン 進化を止めなかった並列4気筒だが…… ――足りていない部分に愚直なまでに取り組み、フレームを表面処理する時間を惜しむほど真摯に取り組んだヤマハ。それでも[…]
欧州仕様に準じた仕様でKYB製フロントフォーク、ウイングレット、ブレンボキャリパーなどを採用するR1 2026年シーズンをヤマハ車で戦うライダーに向け、サーキット走行専用モデルの新型「YZF-R1 レ[…]
ワールドスーパーバイク選手権で6度の世界王者に輝いた北アイルランド人 ジョナサン・レイがついに引退へ──。 2024年にカワサキからヤマハへと移籍したジョナサン・レイが、2025年シーズン終了をもって[…]
今年の8耐レーサーYZF-R1&1999 YZF-R7フォトブース 6年ぶりに鈴鹿8耐へファクトリー体制での参戦を果たすヤマハ。それもあってか、今年の8耐は例年以上の盛り上がりを見せている。 会場のヤ[…]
“モンスターマシン”と恐れられるTZ750 今でもモンスターマシンと恐れられるTZ750は、市販ロードレーサーだったTZ350の並列2気筒エンジンを横につないで4気筒化したエンジンを搭載したレーサー。[…]
最新の関連記事(レース)
「あいつは終盤に追い上げてくる」がライバルにプレッシャー フランスGPウィークですが、日本のMotoGPファンの皆さんが大注目している小椋藍くん(Trackhouse MotoGP Team)について[…]
転倒後に本コースを横切る……あれはナシ 物議を醸したスペインGPのスプリントレース。2番手を走っていたマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)が8周目の最終コーナーで転倒したことが発端[…]
リスクを取りつつサーキットでトレーニングする小椋藍 アメリカズGPからスペインGPまでのインターバルで、日本では「オグラアイ前線」がズンズン北上し、レースファンの注目を集めた。筑波サーキット、モビリテ[…]
レジェンド、筑波へ帰還! あの武石伸也(たけいし しんや)が帰ってくる! 2000cc+ターボ仕様のハーレーで、MCFAJ クラブマンロードレース2026 第1戦 筑波サーキットに参戦すると聞けば、足[…]
スペンサーの世界GPでの大活躍がAMAレースの注目度を高めた 旧くからのバイクファンなら、だれもが“ファスト・フレディ”の愛称を知っているだろう。1983年に世界GP500でチャンピオンに輝き「彗星の[…]
人気記事ランキング(全体)
世代を超えて愛されるスーパーカブの魅力とイベント開催概要 スーパーカブの大きな魅力は、親しみやすい造形と実用性の高さが両立している点だ。初代モデルの開発者である本田宗一郎氏がこだわった丸みを帯びたフォ[…]
原付二種の身軽さに、高速道路という自由をプラス 毎日の通勤や街乗りで大活躍する125ccクラス。しかし、休日のツーリングで「自動車専用道路」の看板に道を阻まれ、遠回りを強いられた経験を持つ人は多いはず[…]
まもなく帰ってくるぞ“パパサン”が! 空冷スポーツスター復活。そんな胸躍るニュースが飛び込んできた。米国ハーレーダビッドソンは5月5日(現地時間)、2026年第1四半期決算の発表にて、新たな成長戦略「[…]
「あいつは終盤に追い上げてくる」がライバルにプレッシャー フランスGPウィークですが、日本のMotoGPファンの皆さんが大注目している小椋藍くん(Trackhouse MotoGP Team)について[…]
いつもの退屈な道を、心躍る特別なステージに変える魔法 毎日の通勤や買い物。決まった道をただ往復するだけの時間。実用性だけを求めて選んだスクーターでは、移動はただの「作業」になってしまいがちだ。 そんな[…]
最新の投稿記事(全体)
夏の厳しい日差しや暑さに悩むライダーへ。 強い日差しやヘルメット内にこもる熱気は、長時間のライディングにおいて体力を奪う大きな要因となる。そうした不満を解消すべく、快適性を徹底的に追求して生まれたのが[…]
走れば走るほど増える維持費、なるべく抑えたい バイク乗りを常に悩ませるのが、じわじわと財布を削り取るガソリン代と維持費の壁だ。日々の通勤やちょっとした買い物で距離が伸びれば伸びるほど、その出費は馬鹿に[…]
GB350シリーズの違いは『見た目だけ』じゃありません! トラディショナルなデザインに味わい深い空冷単気筒エンジンを組み合わせた『GB350』シリーズは、バイクの原点を感じさせるスタイリングと走りで、[…]
「あいつは終盤に追い上げてくる」がライバルにプレッシャー フランスGPウィークですが、日本のMotoGPファンの皆さんが大注目している小椋藍くん(Trackhouse MotoGP Team)について[…]
ミラー位置を調整可能 本製品を装着することで、ミラー位置を外側にしたり角度を見やすい位置に調整したりといったセッティングの幅が大きく広がる。体格差はもちろん、アップハンドル化やポジション変更を行った車[…]
- 1
- 2





































