
ヤマハは二輪ロードレース世界最高峰であるWGP、そしてMotoGPに1961年から途切れることなく参戦を続ける。その知見をもってしても2025年シーズンは表彰台の中央に立てなかった……。愚直なまでに自身を見直し、できることはすべてやった。MotoGP新時代に向け、並列4気筒と並行してV型4気筒にも着手。そんなヤマハの2025年シーズンの戦いを振り返る。
●文:伊藤康司(ヤングマシン編集部) ●写真:ヤマハ ●外部リンク:ヤマハ
見直しとアップデートを重ねた2025年シーズン
画像中央がMotoGPプロジェクトリーダーの増田和宏氏。左がMonster Energyチームを担当した石井朗氏、右がPrima Pramacチームを担当した高木精一氏。
前年の2024年シーズンに続いてMotoGP未勝利、そしてマニファクチャラーランキングで最下位に沈んだヤマハ。結果を見ると非常に厳しい状況ではあるが、それが2025シーズンのヤマハの現実ではある。
しかしロードレースの頂点であるMotoGPの世界において、勝利できないのは他社と圧倒的な差があるわけではなく、わずか“爪の先ほどの差”が確実に結果に表れる。はたしてヤマハYZR-M1は、いかにして2025年シーズンを闘ってきたのか。プロジェクトリーダーの増田和宏氏を中心とする開発陣に聞いてみた。
「2024年シーズンから2025シーズンにかけてのマシンの方向性を、大別してエンジン、車体、制御の3つに分けて解説させていただきます」と増田氏。
「まずエンジンは、他チームのマシンに対してビハインドを抱えている『最高速領域』を追求してきました。何度も最高速度を上げるトライはしてきたのですが、ライダーのスロットル操作との連携にネガが出る苦い経験がたくさんありました。そのため、その部分を失わずに最高速を伸ばすというところをエンジン開発グループにリクエストし、2025年シーズンにはそれに応えたものを用意できたと思います。
車体に関しては“リヤグリップの不足”が課題にあったので、2024シーズンの終盤に見えてきた変化を、一歩も二歩も伸ばすトライをしながら開幕に臨みました。
制御においては、車体の方でリヤグリップを底上げしたものをロスなく限界で使えるよう注力しました。レースの序盤、レースの後半も持っているものを100%使い切るというコトです。
そしてシーズン中のアップデートですが、写真で見えるのでお解かりかもしれませんが、フレームの剛性アジャストを行える仕掛けを用意しました。そのためフレーム本体はシーズンを通して大きく変わっていません。アジャストするパーツを変えてみたり、得られた知見を踏まえてアジャストする部分の構成を変えるなど、フレーム本体以外のところでトライしました。
そしてエアロダイナミクスですね。エアロはレギュレーションでシーズン中のアップデートが2回、計3仕様が認められているので、フルに活用しました。シーズン中に目指したのは形状の変更によるコーナリングパフォーマンスの向上に注力しました。
そして制御に関しては、モノを作るわけではないので、とにかく無数のトライをしました。テストイベントだけでなく、レースウィークでもどんどんトライを進め、ウィーク中も各ライダーでの最新のトライ状況とその結果を随時共有しながら(ヤマハは2025年シーズンはMonster EnergyとPrima Pramacの2チーム体制でライダーはチーム各2名の合計4名)、無数にアップデートを繰り返しながら戦ってきました」
進化を止めなかった並列4気筒だが……
ヤマハの表彰台はファビオ・クアルタラロ選手が第5戦スペインGPの決勝2位で立ったのみ。ヤマハのライダーでは傑出した速さだが、残念ながら年間ランキング9位に終わった。
「エンジン、車体、制御、それぞれ狙いに沿ったものを用意して、シーズン開幕を迎えることができました。しかし、他社を凌駕するまでいけなかったのは正直なところです」と増田氏。
エンジンは最高速領域、車体と制御はリヤグリップの向上とフル活用といった方針は一度も変えることなくシーズン通年を貫きました……というと聞こえは良いですが、結局は現状を大きく打破するに至らず、最高速もリヤグリップの使いこなしも課題が残った、という見方もできます。
自分たちの1年前のデータやラップタイム、トップとのタイムギャップと比べると、2025年シーズンの自分たちは明らかにジャンプアップできているんです。しかし御存じの通り、KTMやアプリリア、ホンダ各社がパフォーマンスを高めてドゥカティとのギャップを詰めている中で、我々も去年よりは伸びているのですが、そこの相対差で他社を凌ぐには至りませんでした。
また2025年シーズンから2チーム体制となったことで、ライダー4人を有効的に使って開発を進めました。たとえばプラマックのジャック・ミラー選手は“振動”にすごく敏感なので、振動の懸念のあるアイテムやパーツは優先的にジャックにテストしてもらうなど、アイテムごとに対応を変えて、より早く結果を得られるように進めました。
2チーム体制になったことでパーツの供給は物理的に2倍になるため厳しくなる部分もありますが、4人分揃わないときはその時点でのポイントランキングの順位に応じて部品供給する方針で進めました。この方法だとより早くアイテムやパーツのフィードバックが得られ、良いと解ったアイテムを早く投入できるからです。
前出したフレームですが、2025年シーズンは最初に剛性を落としたタイプを用意し、アジャストすることで後から剛性を盛りたいところに盛れるようにしました。そして御覧の通り2025シーズンのフレームは従来のブラックではなくシルバーです。これは表面処理をかける時間も惜しかったからです(表面処理の工程で3~4日かかる)。
そして制御に関しては、巷で言われる「共通ECU・ソフトウエアの問題」ですが、変更当時は勝手のわからないところから始まりましたが、それを自分たちなりに理解して使いこなせる環境を整えてきましたから、現在はあらかた掘りつくして、全部ではないかもしれないけれど使えるようになったと思っています。
自分たちがやりたいことができないジレンマが無いわけでは無いですが、結局は決められたルールの中で競争しましょう、という話なので。誰に有利に働いたという話もありますが、我々もこの数年、できることを伸ばして進歩しています」
――足りていない部分に愚直なまでに取り組み、フレームを表面処理する時間を惜しむほど真摯に取り組んだヤマハ。それでも勝利に届かない事実が、MotoGPの壁の高さを物語る。
MotoGP新時代に繋げる“V型4気筒”誕生
2025シーズンはV4プロトタイプマシンを、公式テストライダーのアウグスト・フェルナンデス選手がワイルドカードで第16戦サンマリノ、第20戦マレーシア、第22戦バレンシアに参戦。
――そしてヤマハMotoGPの大きなトピックは、2026年シーズンに今までの並列4気筒に変わって「V型4気筒エンジン」の採用を決定したことだろう。ちなみに近年のMotoGPマシンは、ヤマハを除いては皆V4エンジンを採用しているが……。
「並列4気筒よりもV型4気筒が良い、と結論付けてはいません。ただしV型4気筒エンジンを載せた車体パッケージが、トータルパフォーマンスやポテンシャルがあると判断して切り替えることにしたのです。フレームだったり制御も含めた複合的な判断です。
V型4気筒はエンジン幅が狭いですが、たとえばエアロの視点から行くと、エンジン幅の狭さは“正義”なんですよ。決して軽視できない明らかな違いがあり、トータルで車両になった時に(パラ4とV4で)どちらに伸び代がありますか?というところでV型4気筒にありとしました。
我々は今まで頑張って並列4気筒エンジンの幅を狭くして使っていましたが、そこと比べたらV型4気筒には明らかに旨味のある変化があります。ただしそれが一番かというと、まだわかりません。期待した変化は得られたけれど、説明がいまだに付いていない部分も正直あります。V4というクルマを理解している最中なんです。
たとえば並列4気筒とV型4気筒では前後分担荷重が変わります。“それなら合わせれば良いだろう”というテストも当然行いました。ところが前後分担が同じパッケージで走っても埋められない差が合って、まだそこの説明ができないんです。そこが理解できるように取り組み中、勉強中ですね。
2026年シーズンをV型4気筒で参戦すると判断したのは2025年9月のミザノGPの後のオフィシャルテストです。GPライダー3人に乗ってもらった結果、彼らの意見に大きなズレはなく、良いところを同じように良い、課題となる部分も同じよう感じていたので、そのテストが終わった後のタイミングで、V型4気筒で進めようと決めました。とはいえ2025年シーズン中の並列4気筒エンジンの進化も止めませんでした。シーズン中に複数回のエンジンのバージョンアップをしていますから」
――MotoGPファンなら周知の通り、2027年シーズンは大幅なレギュレーション改正が行われ、排気量が850㏄になる。なぜこのタイミングでV型4気筒エンジンの決断をしたのだろうか?
「今年2026年シーズンはヤマハにとってV型4気筒1000㏄最初で最後の年です。なぜこのタイミングでやるのか?というのは当然の疑問だと思います。しかし我々としては、2026年を1年限りの区切れたシーズンとは考えていません。
当然2027年シーズンも見据えていますし、もっと言えば並列4気筒での2025年シーズン車両からV型4気筒の2026年シーズン車両へと繋がっている部分が大いにあります。
それは車体でありエアロであり、エンジンについても並列4気筒で得られた新たな要素を、そのままV型4気筒に取り入れていたりもします。2025年シーズンに並列4気筒エンジンで複数回アップデートしたアイテムは、もうV型4気筒に入っていますから。我々としてはずっと繋がっているんです。
V型4気筒のYZR-M1の開発は基本的にアウグスト・フェルナンデス、アンドレア・ドヴィツィオーゾ、中須賀克行で行ってきましたが、2025シーズンのテストで3人が違う方向を向くのを見た覚えがないですね」
――MotoGPの新時代に繋がる2026年シーズンを、ヤマハはV型4気筒で戦う。はたして1年後にどんな結果が出るのか全くの未知だが、この大英断には大いに期待したいところだ。
MotoGP RIDERS RANKING
| 順位 | ライダー | マシン | ポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | M・マルケス | Ducati | 545 |
| 2 | A・マルケス | Ducati | 467 |
| 3 | M・ベッツェッキ | Aprilia | 353 |
| 4 | P・アコスタ | KTM | 307 |
| 5 | F・バニャイア | Ducati | 288 |
| 6 | F・ディ・ジャンアントニオ | Ducati | 262 |
| 9 | F・クアルタラロ | Yamaha | 201 |
| 17 | J・ミラー | Yamaha | 79 |
| 19 | A・リンス | Yamaha | 68 |
| 20 | M・オリベイラ | Yamaha | 43 |
| 25 | A・フェルナンデス | Yamaha | 8 |
YZR-M1[2025]直列4気筒
#20はファビオ・クアルタラロが駆ったMonster Energy Yamaha MotoGP TeamのYZR-M1。エンジンは最高速領域、車体はリアグリップの向上、制御はリアグリップのフル活用に向けてバージョンアップを図る。2025年シーズンのMotoGP参戦車両は、このYZR-M1のみが並列4気筒エンジンを搭載し、他メーカーのマシンはすべてV型4気筒エンジン。
YZR-M1[2025]直列4気筒
YZR-M1[2025]V型4気筒プロトタイプ
アウグスト・フェルナンデスがワイルドカードで第16戦サンマリノ、第20戦マレーシア、第22戦バレンシアに参戦したプロトタイプのV型4気筒エンジン搭載車(写真の車両はバレンシアGP参戦車両そのものではない)。カウルの隙間から覗くと、シリンダー幅は並列4気筒より圧倒的に狭く、クランクケースのレイアウトや形状も異なる。併せてフレーム幅やカウリング幅も狭い。ホイールベースはかなり長く、目測で1500㎜ほどあるように感じる。
YZR-M1[2025]V型4気筒プロトタイプ
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