
ボンネヴィルTTスペシャルの魅力は、レースに特化したストイックな設計だけでなく、4年間の間に4千台ほどしか作られなかった希少性、そして今でも目をむくような性能にほかなりません。ボンネヴィルはトライアンフにとって特別なだけでなく、20世紀のバイクシーンにとって最も重要なポジションにいるといっても過言ではないでしょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
手に入るのは2軒のディーラーだけだった
トライアンフ・ボンネヴィルTTスペシャルは、1960年代のトライアンフが作ったスペシャルモデルの中でも最もレアなモデルとして有名です。アメリカ市場向けに特別に製造され、TT障害物競走競技(ステープルチェイス)に出場するために使われました。ステープルチェイスはフラットトラックレースによく似ていますが、各コースには右コーナーがひとつと、ジャンピングスポットが設定されていたのが特徴です。
このモータースポーツスペシャルがTTスペシャルということで、製造は1963年にスタートしています。とはいえ、初年度はわずか67台のみという少なさで、多くのプライベーターは初期ロットのTTスペシャルは手に入らなかったとのこと。なにしろ、TTスペシャルを扱うディーラーは東海岸の「TriCor(トライアンフ・コーポレーション)」と西海岸の「JoMo(ジョンソン・モーターズ)」の2軒のみでしたから、ほしいと思ったユーザーはかなりの苦労をしたのではないでしょうか。
1963年モデルのボンネヴィルTTスペシャルは、ダートレース用レーサー。とはいえ、フレームはストックのボンネヴィルと共通です。
毎年のようにチューニングが進化
そもそも、ベースとなったトライアンフ・ボンネヴィルは1959年に発売されたのが最初のモデル。言うまでもなくスピード記録で有名な「ボンネヴィル・ソルトレイクフラッツ」に由来したネーミング。1955年に、ジョニー・アレンがトライアンフエンジンのストリームライナーで達成した193mph(約310km/h)という記録を称えたもの。発売当時のボンネヴィルはトライアンフのトップエンドモデルという位置づけで、ストックでも115 mph(約185 km/h)という当時としては驚異的なスピードを誇りました。
この性能を引き出したのは649ccのツインエンジンで、46bhp/6500rpmというパワー。TTスペシャルはここに、圧縮比12:1のピストン、キャブの大型化、そして競技用エキゾーストなどを取り入れ、一気に54bhp(55~56bhpなど諸説あります)までチューンナップされました。また、ヘッドライトや保安部品、スピードメーターといった装備が省かれた軽量化もパフォーマンスに貢献していることは言うまでもありません。そのほか、点火系や17、または19Tスプロケットといったパーツもラインナップ。コースに応じたチューニングが可能とされていたようです。
左右非対称カラーのタンクやゼッケンプレートは60年代のレーサーそのもの。この姿に惹かれる方も少なくないでしょう。
ストックを改造したまがい物にご注意
もちろん、こうしたチューニングは年を追うごとに進化しており、例えば1964モデルでは圧縮比11:1へと変更されるなど細かな仕様変更は生産終了まで続けられた模様。上述のとおり、5年という生産期間で4千台ほど(1963:67台/1964-1965:不明ながら2千台程度と推察されています/1966:1304台/1967:1100台)しか作られなかったわりに力のこもった開発は、アメリカでの大人気がうかがい知れるもの。まさにダートコースでのトライアンフは無双状態だったのです。
初代ボンネヴィルに比べ、TTスペシャルの現存台数は非常に少ないとされています。また、ご多分に漏れずストックをTTスペシャルにカスタムした「まがい物」も少なくない数が出回っているとのこと。無論、きちんとしたオークションでは車体やエンジンナンバーのマッチングが確認されるものの、巧妙な偽造も後を絶たないのだとか。そんな状況の中、真っ当なTTスペシャルがオークションに出品されると8千~1万5千ドル(約124~230万円)あたりが相場。アメリカ市場では、そこそこレストアされているタマが少なくないので、お買い得といってもいいかもしれません。
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