
厳しさを増した国内第4次排出ガス規制が原付一種にも適用され、25年10月31日をもって50ccガソリン原付は生産終了となった。長年、高校生のバイク通学車両として許可されてきた“原付スクーター”や“原付カブ”も新車で購入できるのはあとわずか。中山間地での交通環境が衰退するなか、高校生の通学の足は今後どうなってしまうのか? 代替モビリティの適性などを踏まえつつ考察する。
●文/写真:田中淳麿(ヤングマシン編集部)
1. 【背景】50ccガソリン原付は排ガス規制をクリアできず
50ccガソリン原付はなぜ生産終了となるのか。それは地球環境保護という理念のなか世界的に年々厳しくなる排ガス規制値をクリアできないとわかったからだ。
熱による化学反応で有害物質を浄化するハチの巣状(ハニカム構造)の触媒(キャタライザー)。
排ガスを浄化するための触媒(キャタライザー)はそれ自体が温まらないと効果を発揮しないが、燃焼室の小さな50ccエンジンでは温まるのに時間がかかってしまい、規定時間内に規制値をクリアできなかった。これにより長年生活の足として利用されてきた50ccガソリン原付は10月末日をもってついに生産終了となった。
以降は、生産終了前に受注された市場在庫分のみが新車となるが、これも1~2年のうちには無くなってしまい、以降は中古車のみが流通することになるだろう。
2.【現状・目的】学校の統廃合が進むなか高校生の移動手段に求められる多様性
高校生の通学を含めた移動課題も年々厳しさを増している。少子化により学区の統廃合は全国的に進んでいるが、これにより通学交通環境も激変。利用者の減少や運転手不足などによる電車・バスの減便、路線廃止などにより、通学することの時間的、費用的な負担が増している。
原付通学許可校の場合、学校から2~3km圏内は自転車通学、それ以上の場合や通学路に坂道が多いようなら原付バイクを利用する生徒が多い(写真は熊本県立矢部高校)。
こうした通学環境の悪化に対して山間地、中山間地では保護者によるマイカー送迎などが常態化している地域もあるが、これも共働き家庭や被介護者のいる家庭では大きな負担となっている。
冬場や悪天候時は保護者によるマイカー送迎がいつも以上に多くなる。登下校時間にはマイカーが列を作る(写真は埼玉県立秩父農工科学高校)。
こうした家庭では子どもにバイク通学をさせたいと考えているケースも少なくないが、学校自体が市街地にある場合はバイク通学が許可されていないケースも多い。
22年4月からは民法改正により18歳で成年となり自主自律の精神が求められているいま、高校生は自身の移動課題改善に対して積極的に関わらなければ、高齢者と共に移動困難者となってしまい、部活や塾にも通えないなどQOLが低下して制限下での高校生活を余儀なくされてしまう。
これを防ぐためには、原付バイクなどパーソナルモビリティの利活用により移動課題を自ら克服するほかないが、こうした移動の多様化に対して保護者や学校、地域が理解を示すと共に、交通安全教育を施すなど大人たちが手を差し伸べることが求められる。
原付通学と安全運転教育・講習会はセットだ。許可する場合は保護者同意のうえ任意保険への加入を義務付ける自治体、学校も多い。
3. 【手法】50ccガソリン原付の代替モビリティ:新基準原付
ホンダの新基準原付モデル「Honda Liteシリーズ」。車体は原付二種のものだが最高出力を抑えることで、これまでの原付一種と同じルールで公道を走れる(写真は10月16日に開催されたHonda 新基準原付発表会にて)。
前述したように、50ccガソリン原付が生産終了となったため、その代替モビリティとして開発されたのが新基準原付モデルだ。50cc超~125cc以下、いわゆる原付二種モデルの最高出力を4.0kW以下に抑えたモデルであり、車体は原付二種と同じながら原付免許で運転できる。まさに今後のガソリン原付の主役となるモデルであり、道交法上の交通ルールも原付一種と同じ。最高速度の30km/h規制や3車線以上の交差点での二段階右折、二人乗りの禁止といった運用法も変わらない。
新基準原付の運用ルールについて説明されたリーフレット。自治体によっては車両登録の申請方法などがすでにホームページ上で案内されている。
本記事執筆時点では、ホンダが「Honda Liteシリーズ」として4車種を25年12月11日までに発売しており、ベースとなる原付二種モデルの名前の後ろにそれぞれ“Lite(ライト)”と名付けられている。
<発売中の新基準原付モデル>
中でも注目すべきは唯一のスクーターであり、多くのバイク通学実施高校の校則(オートマチックトランスミッション・スクーターのみ許可、カブは禁止の場合が多い)にも適応できる「Dio110 Lite」だ。
他のLiteシリーズ同様、ベース車両であるDio110・ベーシック(税込25万800円)よりも価格が安く、同社の原付一種スクーター「Dunk」(税込22万9,900円 ※生産終了)と比べても1万円ほどしか変わらない。
ホンダの新基準原付モデルはどれもベース車両よりも安価に設定された。「Dio110 Lite」はこれからの原付バイク通学の本命になれるだろう
4. 【効果】新基準原付のメリット・デメリット
新基準原付がもたらすメリットおよびデメリットについて、「Dio110 Lite」などホンダの新基準原付と50ccガソリン原付を比べてみた。
ホンダの新基準原付モデルのフロントパネルには「Lite」のステッカーが貼られている
メリット
1.登坂力とスムーズさ、安定感が向上!
法定最高速度が30km/hということもあって、最高出力こそ50ccガソリン原付と同等の4.0kW(約5.4PS ※Dio110 Liteは3.7kW)以下に抑えられているが、トルク重視のセッティングにより坂道を上る力や発進・加速時のスムーズさが向上。低速走行時にもふらつきにくい特性となっている。
2.排気量が大きいためエンジン内部の消耗を抑えられる
新基準原付は、50ccガソリン原付に比べて搭載エンジンの排気量が大きく、そのうえ最高出力は抑えられ、本来のポテンシャルよりも余裕のある状態で使用されるため、エンジン内部への負荷や構成部品の消耗が抑えられる。
ホンダの50ccガソリン原付「タクト」と新基準原付「Dio110 Lite」のエンジン性能曲線の比較。同じ出力を発揮する際のエンジン回転数は新基準原付のほうがかなり低く、トルクにいたっては段違い。新基準原付のエンジンは本来の設計寿命よりも長く使える可能性が高い
3.タイヤサイズが大きいため不整地でも走破性が高い
「Dio110 Lite」は、一般的な50ccガソリン原付のタイヤサイズ(10インチ)よりも大きな14インチホイールを採用している。砂利道やデコボコ道といった不整地でも直進安定性が高く走りやすい。
4.急制動時でも安心な前後連動ブレーキ
ホンダの新基準原付「Honda Liteシリーズ」の前輪には制動力が高くコントロールしやすいディスクブレーキが採用されている。さらに前後輪のブレーキが効率よく連動するコンビネーションブレーキ(コンビブレーキ)機構も装備するため、制動力と制動時の安定性が高く、急ブレーキのような状態でもタイヤがロックしにくいので安心だ。
5.スクータータイプでもサイドスタンドを標準装備
「Dio110 Lite」はスクータータイプでありながらサイドスタンドを標準装備している。いちいちメインスタンド(センタースタンド)をかける必要がなく便利だ。
6.税金や保険料は50ccガソリン原付と同じ!
排気量自体は50ccを超えているが、軽自動車税(2,000円/年)と自賠責保険(6,910円/12か月)は50ccガソリン原付と同じ。最大排気量でも125cc以下なので、保護者が乗るクルマの任意保険に付帯できるファミリー特約での任意保険加入(約1万円~/12か月)もでき、維持費も安価だ。
デメリット
1.わずかに車体が大きくなる
同社の50ccガソリン原付3車種(ジョルノ、タクト、Dunk)と「Dio110 Lite」を比べると、シートの高さは1.5~4cmほど高くなり、車体重量は14~17kgほど重くなる。こうした点にベースとなる車体の違いが表れるが、運動・身体能力が伸びざかりの高校年代ならばほぼ気にならないレベルだろう。
2.駐輪場・スペースへの駐輪、契約
デメリットというよりは注意点を。公共の自転車等駐車場の多くは“原付”区分の根拠規定を道路交通法としており、駐輪可能なバイクは「50ccまで」とされている。所管する自治体の条例や規則によるもので、変更(改正)するためには議会での手続きが必要となる。
駐輪場には一時的な時間貸しや月極め契約などがあるが、特に月極めの場合は、新基準原付が駐められるかどうか管理者にしっかり確認しておこう。
またマンションやアパートなどの集合住宅に住んでいる場合も、排気量で駐め場が指定されている場合がある。この場合は管理会社や管理組合に管理規約の改定を求め、総会にて決議する等の段どりが必要。
いずれにせよ、バイクの利用環境の多くは“排気量”で規定されているため、新基準原付を購入する前に契約駐輪場や保管場所の規約を確認しておこう。
5. 【まとめ】新基準原付はメリットの多い代替モビリティ
このように、新基準原付は50ccガソリン原付と同じルールで公道を走れるだけでなく、車体が原付二種のものになったことで、エンジン性能や走行安定性が増したモデルとなっている。
ジャパンモビリティショー2025のホンダブースにも新基準原付モデルや電動モデルが展示され、多くの来場者が車体にまたがって、その感触を確かめていた。
50ccガソリン原付と同じように手軽に乗れて安価に維持できるため、これからの生活の足として期待されている。50ccガソリン原付の代替モビリティとして、ぜひ高校生の原付バイク通学にも使ってほしいパーソナルモビリティだ。
なお、次回はもうひとつの代替モビリティである電動原付一種について説明する。こちらも電動ならではのメリットが多く、高校生の通学にもお勧めできるバイクとなっている。
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