
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●取材協力:ZEPPAN UEMATSU
既存の常識を打ち破る驚異的な動力性能
昨今ではあまり話題にならないものの、’70年代以降の2輪業界で、もっとも長く”世界最速”の称号を保持していた…と言うより、もっとも世界最速に”こだわっていた”メーカーは、Z1やGPZ900R、ZZRシリーズなどで、同時代のライバルを圧倒して来たカワサキだろう。そしてそれらの原点として、同社が初めて世界最速を意識して生み出したモデルが、’69年から発売が始まった500SSマッハIIIである。
ただし、マッハIIIの開発が始まった’67年の状況を考えると、世界最速という目標は、カワサキにとっては無謀と言って差し支えないものだった。
当時の同社のラインアップで、欧米で支持を集めていたのは2スト250/350ccツインのA1/A7ぐらいだったし(メグロの技術を引き継いで開発したW1の評価は、海外では芳しくなかった)、’60年代前半〜中盤の世界グランプリを席捲した他の日本車勢とは異なり、カワサキにはロードレースでの実績がほとんどなかったのだから。
だがしかし、同社が理想の2輪車像を徹底追求して生み出したマッハIIIは、当時としては驚異的なリッター当たり120psを発揮し、既存の大排気量車を凌駕する200km/hの最高速を実現。
厳密に言うなら、輸出仕様のカタログに記された最高速は124mph=198.41km/hだったものの、開発時に谷田部を走った量産試作車は、208km/hを実測していた。
もっともそういった数値は、同年(1969年)にデビューしたホンダCB750フォアも同等だったのである。とはいえ、2スト3気筒ならではの加速感や、車重の軽さ、価格の安さなども評価され(マッハIIIの車重/北米仕様の価格が174kg/995ドルだったのに対して、CB750フォアは218kg/1495ドル)、マッハIIIは世界中で絶大な人気を獲得。
’72年以降は兄弟車として750/350/250SSも加わり、それまでは知る人ぞ知る的なメーカーだったカワサキの知名度は、瞬く間に向上していくこととなった。
ただし、マッハシリーズがカワサキの主役だったのは’72年までで、’73年から4スト4気筒のZ1/Z2の発売が始まり、同年秋に第一次オイルショックが起こると、以後の人気は徐々に衰退。結果的に2スト3気筒の黄金時代はわずか数年で終わったものの、このシリーズが大成功を収めなければ、以後のカワサキが世界最速車の座に名を連ねることはなかったはずだ。
1969 KAWASAKI 500-SS MACH III OUTLINE & EXTERIOR
現代の視点で見れば旧車然とした佇まいの初代マッハIIIだが、量産車初の2スト3気筒エンジンと、船をイメージしたガソリンタンクは、当時としては画期的な要素だった。
【あえてバランスに配慮しない独創的な左右非対称デザイン】左右で異なるサイドカバーのエンブレムは、初期のマッハIIIならでは。当時はすでにセルモーターの普及が進んでいたが、軽量化を重視するマッハIIIの始動はキックのみ。
メーターは同時代のW1Sと共通で、回転計内にはニュートラル/チャージランプを設置。ハンドルクランプはラバーマウント式。
1969 KAWASAKI 750-SS MACH IV OUTLINE & EXTERIOR
’69年に発売した500SSで世界最速の称号を獲得したカワサキは、自社の地位をさらに高めると同時に、当時のプロダクションレースで主力になりつつあったF750規定に対応するため、’71年に排気量拡大版の750SSを発売した。
もちろんこのモデルにはCB750フォアへの対抗策、開発が遅れていたZ1/Z2が登場するまでのつなぎ役、という意味もあっただろう。 こうした兄貴分を製作する場合は、エンジンのボアアップのみを行うのがもっとも簡単な手法だ。
しかし、750SSはほぼすべてのパーツが専用設計で、あえて過激な特性とした500SSと比較すると、安定志向のキャラクターが与えられていた。とはいえ、最高出力74ps、最高速203km/hという数字は、いずれも当時のクラストップである。
シリーズの原点となる500SSと比較すると、現代に通じる雰囲気を獲得した750SS。テールカウルとフロントのディスクブレーキは、カワサキにとって初の機構だった。
後端が跳ね上がったマフラーは、バンク角を考慮した結果。下部がスパッと立ち落とされたメーターケースは竹筒を意識したデザイン。
計器は500SSとは異なる新デザイン。イグニッションキーシリンダーは現行車と同様の位置に設置されている。
750SSの海外でのサブネームは「MACH Ⅳ」だが、国内仕様のサイドカバーエンブレムは「MACH III」。このIIIは3気筒の意だとか、750も国内仕様はマッハIIIだったなど諸説あるが、門外漢にはなかなか不可解だ。
500SSと比較すると、ステップ位置は大幅に後退。同時に左右幅もかなり短縮されている。
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