
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第125回は、間近に迫りつつある鈴鹿8時間耐久ロードレースと、MotoGPにおける日本人の活躍について。
TEXT: Go TAKAHASHI PHOTO: NCXX RACING with RIDERS CLUB, Honda Mobilityland
GPライダーの参戦はやっぱり盛り上がる!
いよいよ鈴鹿8耐が近付いてきました! 7月19~21日に行われる国内最大の2輪レース、8耐は、今年もいろんな話題を振りまいています。
MotoGPファンの方たちがもっとも注目しているのは、やはりホンダのMotoGPライダー、ヨハン・ザルコの参戦ですよね! テストでは初めての鈴鹿、初めてのCBR1000RR-Rにも関わらず、さほど攻めている様子もないのにサラッと2分7秒台をマークして、MotoGPライダーの実力を見せてくれました。
MotoGPではLCRホンダに所属するヨハン・ザルコ選手。最高峰クラスではテック3ヤマハ、レッドブルKTM、アビンティアドゥカティ、プラマックドゥカティと渡り歩いてきた猛者だ。2015-2016年Moto2チャンピオン。
かつては海外からGPライダーが多く参戦し、8耐を盛り上げてくれました。でも最近はMotoGPとの日程の兼ね合いや、MotoGP自体のレース数が増えて過密スケジュールになったことなど、いろいろな要因でGPライダーの参戦が減ってしまいました。
そこへきて’15年、ヤマハがファクトリー体制で参戦し、当時ヤマハMotoGPライダーだったポル・エスパルガロが登場した時は、盛り上がりましたよね。実際、予選でのタイムアタックは強烈に速かった。エスパルガロに負けじとチームメイトの中須賀克行くんがタイムを出しに行くなど、見応えがありました。決勝でも優勝して、まさに圧巻という感じでしたよね。
レースを盛り上げるためにはいろいろなやり方があると思いますが、やっぱり「速いライダーが、素晴らしいレースを見せる」ということが1番なんじゃないかという気がします。
ちょっと話は逸れますが、僕は今、モナコに住んでいるのでレースの本場・ヨーロッパの様子が肌感覚で分かります。そういう目で見ると、やっぱり2輪レース──MotoGP人気の高さを感じるんです。その要因のひとつに、優れたライダーがどんどん現れることがあると思います。
バレンティーノ・ロッシの全盛期は、「ロッシを超える走りができるライダーは、もう出てこないだろう」と思っていました。そうしたら、マルク・マルケスが出てくる。「マルケスを超えるライダーは、もう出てこないだろう」と思っていたら、ペドロ・アコスタが出てくるんですよ(笑)。こうして次々に超級のライダーが現れるんですから、興味は尽きないですよね。
特にスペインとイタリアは、ライダーの層が厚い。MotoGPライダーは22人いますが、そのうちスペイン人が10人、イタリア人は6人。7割以上を占めています。イタリアはスペインに押され気味でしたが、ロッシがVR46アカデミーを開始して以降、若手がどんどん育ちました。今、MotoGPにいるVR46アカデミー出身者は、フランチェスコ・バニャイア、マルコ・ベゼッキ、フランコ・モルビデリ、ルカ・マリーニ。イタリア人MotoGPライダー6人のうち4人ですから、かなりの比率です。
では日本はどうかと言えば、MotoGPに中上貴晶くん、Moto2に小椋藍くんと佐々木歩夢くん、そしてMoto3には山中琉聖くん、鈴木竜生くん、古里太陽くんがいますが、残念なことに一大勢力とまでは言えません。チャンピオンは’09年250ccクラスの青山博一くんが最後で、もう15年が経とうとしています。
’93年に僕がチャンピオンになった時は、「片山敬済さん以来16年ぶり」とのことでしたが、その後は坂田和人くん、青木治親くん、加藤大治郎くん、そして青山くんと、割と続いていたのですが、今はまただいぶ間隔が空いてしまいました。
ただ、日本人ライダーの実力はどんどん高まっています。若手ライダーの練習風景などを見ると、僕のようなおじさんは「これはすごい! 敵わないな」と脱帽してしまうほど、みんなレベルが高い! ライディングの技術面で言えば、僕らの現役時代なんて比較にならないほど上手になっています。
それなのに、MotoGPでは「日本人ライダーが大活躍」とまでは言えないのが本当にくやしいところです。今年も小椋くんがMoto2でチャンピオン争いを繰り広げていますから、ぜひタイトル獲得に期待したいところですが、スペイン人、イタリア人の選手層の厚さには届いていないのが現実です。
原因はいろいろ考えられますが、僕は単純な数の問題が大きいと思っています。僕たちの頃は──などと言い出すと、本当におじさんっぽいので止めておきたいのですが──、やっぱり圧倒的に参戦者数が多かった。地方選手権でも予選が何組も行われ、そこをどうにか勝ち進まないと決勝に出られなかったし、どうにか決勝に出ても実力者たちがそびえ立っていて、勝ち抜くのはとにかく大変でした。
激しくて厳しい競争に晒されると、人は「どうすれば勝てるんだろう」と徹底的に考えます。自分とも向き合うし、人並み以上の努力もするでしょう。そもそも「勝ちたい」という強い思いを持つことが出発点ですが、そのうえで必要なのは競争だと僕は思います。たくさんの中から勝ち上がるという経験が、すごく大事なんじゃないかな、と。
では、レースへの参戦者数を増やすにはどうしたらいいか。ものすごく遠回りなようですが、僕はバイクそのものの人気を高めるしか道はないと思っています。80年代から90年代にかけてレースが強烈なブームになりましたが、その背景には、バイクそのものの圧倒的な人気がありました。レース人口は、そこから見ればごく一部。でも、まずバイク乗りという分母が大きいから、レースをやる人という分子も大きかった。その結果、勝ち上がるための競争は厳しかったし、それだけライダーも鍛えられたんです。
大本となるバイク人口をどうやって増やせばいいかは、僕には分かりません。ぜひ頭のいい方たちに考えていただきたいと思います(笑)。でもひとつだけ言えるのは、レースを盛り上げることだけを考えても、きっと盛り上がらないということです。今の世の中に、どうすればバイクは受け入れてもらえるか、バイク人口を少しでもプラスにするにはどうしたらいいかを考えることが、最終的にレースをやる人、観る人を増やすことにつながると思います。
鈴鹿8耐では、クラスは変わっても2年連続優勝を目指す!
……だいぶ8耐から話が逸れてしまいましたね(笑)。今年の8耐、僕は引き続き「NCXX RACING with RIDERS CLUB」のチーム監督として参戦します。昨年はNSTクラス優勝を果たし、今年は2連覇……と言いたいところですが、クラスがSSTに変わってしまったので、もし勝てても厳密には2連覇にはならないのが残念なところ。
でも、井手翔太、伊達悠太、そして中山耀介の3人をライダーに、「EWCではないクラスでの2連覇」を目指して頑張ります。……若くて勢いのあるライダーには「頑張りすぎるな」と口を酸っぱくして言ってるんですけどね(笑)。
6月6日のテストにて。参戦ゼッケンは806だが、テスト時は86で走った。
3人とも、速く走れるだけの実力は十分に備えています。そしてレーシングライダーですから、誰よりも速いところを見せつけたい気持ちもよく分かる。でもレースは、決勝のチェッカーフラッグをトップで受けることが最大のミッション。そのためには事前テストやレースウィークの走行セッションをフルに使って、決勝に向けての準備を進める必要があります。
「抑えることを、頑張る」。力のあるライダーほど、その力を抑えなければならないのは難しいのですが、8耐はもちろん、スプリントレースでもこれが本当に大事。7月21日午後7時半に最高の笑顔でチェッカーを受けられるように、全力で抑えていきたいと思います(笑)。
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