トライアンフモーターサイクルズジャパンは、すでに価格のみ発表されていた『普通二輪免許で乗れるトライアンフ』こと「スピード400」および「スクランブラー400X」を1月26日に発売する。その直前にメディア向け試乗会が開催されたので乗ってきた。さっそくインプレをお届けしよう!
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:編集部 ●外部リンク:トライアンフモーターサイクルズジャパン
これまでのネオクラ系400シングルを凌駕する最新設計
コイツはまさしく黒船だ! トライアンフが1月26日に発売する「スピード400」および「スクランブラー400X」は、新設計の水冷単気筒エンジンを搭載するモダンクラシックファミリーの最新作。エンジンプラットフォームから新設計した中型モデルは、リーズナブルな価格とトライアンフらしい懐の深さで走る喜びを感じさせてくれた。
日本でも活気を帯びてきたヨンヒャククラスだが、スピード400/スクランブラー400Xが搭載する水冷単気筒エンジンは、内部にフィンガーフォロワーロッカーアームやDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを採用してフリクションを低減するなどクラスを超えたテクノロジーが注入されている。クラッチはトルクアシスト式でレバー操作は軽く、ケースにはブラックパウダーコートも。最高出力は40ps/8000rpmだ。
車体は2車で基本骨格を共有しているようで、メインフレームのネックを延長したりサブフレームを造り分けたりし、さらに足まわりの設定やホイールサイズの違いなどで独自のジオメトリーとして、乗り味もそれぞれのキャラクターを際立たせている。エルゴノミクス面でも、ハンドルバーやシートだけでなく燃料タンクもスクランブラー400Xにはタンクパッドを貼付するなど細かい違いが多い。
タイヤはスピード400がメッツラー・スポルテックM9RRまたはピレリ・ディアブロロッソIIIを装着。スクランブラー400Xはメッツラー・カルーストリートだ。
制御系では、ボッシュ製のECUとライドバイワイヤースロットルを採用し、オン/オフ切り替え可能なトラクションコントロールシステムやデュアルチャンネルABSも標準装備。スクランブラー400XはABSをオフロードモードに切り替えることもできる。
神経質さはまるでなく、すぐに長く連れ添った相棒のように操れる
試乗会で用意された時間は1時間ほどで、その中で撮影と2車の試乗をこなし、集合場所まで返却するスケジュール。都内で行われたこともあり、ハイスピードや高荷重領域は試せなかったことをあらかじめお伝えしておきたい。
最初に乗ったのはスピード400だ。エンジンを始動すると、ショートストローク傾向なので重厚感はないが、規則的なビートを刻む。軽く操作できるクラッチレバーを握り、剛性感のあるシフトペダルを踏みこんで1速に入れ、発進。エンジンのフレキシブルな振舞いは印象的で、液晶メーター内に申し訳程度に刻まれたタコメーターでざっくり2000rpmあたりから普通に加速できる。
発進加速で軽々と交通の流れをリードし、高回転まで回してみると、ドラマチックな盛り上がりというよりは一直線に吹け上がる感じ。2速でレブリミットまで回したら街中でも簡単に違法な速度に到達しそうだ。ネオクラシック系400のイメージが先行して乗り始めると、少し面食らうぐらいにパワフルだ。雰囲気的にはKTMの390デュークやカワサキZ400に近い。
それでいて、低中回転域では柔らかいビートを刻みながら加速してくれるので、回転をあまり上げずにスロットルを大きく開け、矢継ぎ早にシフトアップして息の長い加速を味わうという、大型バイクのような楽しみ方もできる。そんな乗り方をしても街中で悪目立ちするような領域にはならないので、400ccクラスというのは本当に日本の環境にジャストフィットなんだなと改めて感じた次第だ。
まだド新車だったためか、シフトタッチはやや硬め。また、スロットルレスポンスも不明瞭な時があったが、これらは慣らしが進めばスムーズになっていくことだろう。
前後17インチホイールを装着するスピード400は、ライディングポジションも軽めの前傾で、いわゆるスポーツネイキッドとネオクラシック系の中間くらいな感じ。車格は400~500クラスくらいの、立派すぎないけれど小さくもないという印象だが、走り出すとグッとコンパクトに感じるようになる。これはエンジンが扱いやすく、かつ車体も一体感を得やすいことのあらわれだろう。
車重は171kgと軽量だが、ある程度エンジンのトルクを活かしながら走ると、より軽快さが感じられる。車体を左右に振ったときの反応のよさ、クイックすぎないけれど思った方向へタイムラグなく追従するハンドリングなど、思い通りになるさまは250ccの単気筒バイクかのようだ。よく動く前後サスペンションのバランスもよく、乗り心地は快適だ。
特筆したいのは、さまざまな乗り方への許容度だろう。流すような走りではおおらかに反応し、元気よく行きたければライダーの意図を汲んで水を得た魚のように生き生きとした動きを見せる。シートの着座位置にも寛容だが、普通にまたがればちょうどいい位置に収まるようになっているのはさすが。
ちなみにブレーキは入力に比例して制動力を発揮するタイプで唐突さはなく、倒立フロントフォーク(インドのエンデュランスというメーカーのものらしい)もよく動きながらきっちり踏んばってくれる。強めにブレーキをかけるとニーグリップした燃料タンクがやや滑りやすい傾向だったが、これは寒さに負けて化繊のオーバーパンツを穿いていたせいかもしれない。スクランブラー400Xはタンクパッド付きだけど。
各操作部分に安っぽいフィーリングはなく、トラクションコントロールのオン/オフなど各種設定もわかりやすい。もちろん都内の試乗ではABSもトラコンも働かせる機会はなかった。
スピード400は街乗りからツーリング、なんならサーキット走行会までストレスなく楽しめそうなロードスターだった。
自由自在でおおらかなスクランブラー400X
スクランブラー400Xは、前19/後17インチホイールを採用するとともにホイールトラベルも伸長、ワイドなハンドルバーやナックルガードなどを与えられたモデルだ。
エンジンはサイレンサーの形状のみスピード400と異なるが、それ以外の仕様はスピード400と全く同じだという。じっさい、乗ってみてもエンジン特性の差異は感じない。こちらもほぼ新車だったため、シフトタッチやスロットルレスポンスにやや硬いところが見られた。
シート高は835mmとやや高めだが、足着き性はヤマハのセロー250あたりと大して変わらない印象。幅広かつ高めのハンドルバー(ブリッジ付きでバーパッドも装着)により、上体はほぼ直立したライディングポジションになる。
こちらは大径ホイールと長めのホイールベース、ややロングストロークなサスペンションなどの恩恵で、ライダーの操作に対するレスポンスはおおらか。フロントブレーキはスピード400のφ300mmディスクに対しφ320mmと大径化しているものの、ホイール径やパッドの設定ゆえか食いつきの初期は穏やかで、握り込むほどに制動力が高まる。
エンジンのパワー感は変わらないが、前述の車体によってよりダイナミックなスロットルワークが楽しめる。旋回レスポンスはやや鈍い方向だが、これをちょうどいいと感じるライダーも少なくないはずだ。Uターンのような低速域では、特に何もせずクルリと回るスピード400に対し、スクランブラー400Xはハンドルを少し切り足してやるような感じになる。また、60km/hくらいの中間バンクで曲がるようなカーブでは、逆に少しフロントが先に旋回したがる感じも。もう少しバンク角が深まればちょうどいい感じになりそうな雰囲気だ。
長めのサスペンションを加減速でストロークさせながら走るのが楽しく、中速トルクの美味しいところを使いながら、どこまでも走っていきたくなるようなマシンだった。
ちなみに、スピード400ともども6速・60km/hでのエンジン回転数は3500rpm前後。高速道路100km/hでは6000rpm前後になると思われ、1万rpmまで回るとすれば最高速度は165km/h前後だろうか。現代の350~400cc空冷単気筒が120km/h程度で目一杯な感じになることを思えば、高速巡航でもそれなりにパワーに余裕があるといえそうだ。
空冷単気筒ネオクラシックとも、ストリートファイター系とも異なる独自路線でキャラクターを確立したトライアンフ「スピード400」「スクランブラー400X」は、これからバイクを始めたいという方だけでなく、ベテランの普段使い用にもうってつけだろう。日本独自規格のはずだった400ccクラスに、また新たな、そして強力な黒船が到来したようだ。
スピード400とスクランブラー400Xの細部を比較
TRIUMPH SPEED 400 & SCRAMBLER 400 X スペック
車名 | SPEED 400 | SCRAMBLER 400 X |
全長×全幅×全高 | 2055×815×1085mm | 2115×900×1170mm |
軸距 | 1375mm | 1420mm |
シート高 | 790mm | 835mm |
キャスター/トレール | 24.6°/102mm | 23.2°/108mm |
装備重量 | 171kg | 180kg |
エンジン型式 | 水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ | ← |
総排気量 | 398cc | ← |
内径×行程 | 89.0×64.0mm | ← |
圧縮比 | 12:1 | ← |
最高出力 | 40ps/8000rpm | ← |
最大トルク | 3.87kg-m/6500rpm | ← |
変速機 | 6段リターン | ← |
燃料タンク容量 | 13L | ← |
タイヤサイズ前 | 110/70R17 | 110/90R19 |
タイヤサイズ後 | 150/60R17 | 140/80R17 |
ブレーキ前 | φ300mmディスク +4ポットキャリパー | φ320mmディスク +4ポットキャリパー |
ブレーキ後 | φ230mmディスク | φ230mmディスク |
サスペンション前 | φ43mm倒立フロントフォーク /トラベル140mm | φ43mm倒立フロントフォーク /トラベル150mm |
サスペンション後 | プリロード調整機構付きモノショック /トラベル130mm | プリロード調整機構付きモノショック /トラベル150mm |
価格 | 69万9000円 | 78万9000円 |
車体色 | 赤×灰、青×灰、黒×灰 | 濃緑×白、赤×黒、黒×銀 |
発売時期 | 2024年1月26日 | ← |
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
「黒船」が来た! 中型クラスに異状あり! 400㏄クラスという排気量カテゴリーは、免許制度の関係で生まれた日本独特の排気量帯で、ヨーロッパでは日本で販売するモデルの500㏄版を販売するなどしてきました[…]
XR750スタイルでフレンドリーなサイズ感と価格を実現したX350 ハーレーダビッドソン待望のブランニューモデルが日本で発売された! 1970年代初頭から40年以上にわたってフラットトラックレースで活[…]
車体色はプコブルーとマットパールモリオンブラックか? ホンダは国内SNSで、インドで前日に発表したばかりのCB350の日本仕様と思われる「GB350 C」を国内で発売予定と発表した。 公開された画像か[…]
新色は『ダッパーオレンジ』と『ダッパーグリーン』 インドでホンダGB350(現地名:ハイネスCB350)を狩るという意味かと話題になった「ハンター350」に新色が登場した。現代的なカラースキームのダッ[…]
※2023年12月14日更新 16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪([…]
最新の関連記事(トライアンフ)
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
トライアンフの歴史を華々しく飾った一流スタントライダーの記念碑的モデル トライアンフ・ロケット3は、2458cc水冷並列3気筒エンジンをクランク縦置きで搭載するメガクルーザーだ。このたび発表された特別[…]
伝説のロゴが語る歴史 2024年現在でこそ、三角形にブロック体のアルファベットといった趣の、トライアンフロゴ。しかし100年以上続く、歴史あるブランドだけあって、1902年の盾型デザインに始まり、いく[…]
タイガーシリーズの快走ツアラーが新エンジンとともに トライアンフのアドベンチャーシリーズには実にさまざまなバリエーションが揃っているが、このたび新登場する『タイガースポーツ800』は、既存モデルである[…]
さらなる走行性能と所有感を追求 トライアンフのモダンクラシックシリーズは、ボンネビルを筆頭とした伝統のスタイルとディテールを特徴としている。その中でも“スピード”の名称が示すとおり、スポーティな特性を[…]
最新の関連記事(新型小型二輪 [251〜400cc])
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc 400ccクラスは、普通二輪免許を取ってから間もないビギナーも選ぶことができる排気量帯で、16歳から乗ることができる。 そんな400cc[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
43年で歴史に幕……と思ったらタイで続いてるよ! 平成32年排出ガス規制の壁、ABS義務化、そして灯火類の追加レギュレーション……。日本ではさまざまな理由から継続生産ができなくなり、2021年モデルを[…]
様々な使い方や乗り方に応える懐の深さが魅力 2024年上半期、400ccクラスの販売台数でGB350をしのぎトップに躍り出たのがエリミネーターだ。それどころか、大型バイクを含めた車検付クラスでもZ90[…]
ホンダは欧州で「GB350S」を発表。欧州では久々に『GB』の名が復活することになる。 標準モデルのGB350に対し、ややスポーティなアレンジがなされたGB350Sは、日本などでGB350S、最初に登[…]
人気記事ランキング(全体)
2025年こそ直4のヘリテイジネイキッドに期待! カワサキの躍進が著しい。2023年にはEVやハイブリッド、そして2024年には待望のW230&メグロS1が市販化。ひと通り大きな峠を超えた。となれば、[…]
一定以上のスピードの車両を自動的に撮影する「オービス」 結論から言うと、基本的にバイクはオービスに撮影されても捕まらない。そもそもオービスはバイクを取り締まるつもりがない。ただし警察にもメンツがあるか[…]
第1位:JW-145 タッチパネル対応 蓄熱インナーグローブ [おたふく手袋] 2024年11月現在、インナーウェアの売れ筋1位に輝いたのは、おたふく手袋が販売する「JW-145 蓄熱インナーグローブ[…]
新色×2に加え、継続色も一部変更 ホンダは、水冷4バルブの「eSP+」エンジンを搭載するアドベンチャースタイルの軽二輪スクーター「ADV160」に、スポーティ感のある「ミレニアムレッド」と上質感のある[…]
寒い時期のツーリング 冬はライダーにとって、本当に過酷な季節です。急激に気温が下がったりしてきましたが、オートバイに乗られているみなさんは、どういった寒さ対策をしていますか。 とにかく着込む、重ね着す[…]
最新の投稿記事(全体)
どんなUber Eats配達員でも必ず持っている装備といえば、スマートフォン。これがなければ、仕事を始めることすらできません。 そんなスマートフォンですが、太陽が強く照っている日に使うと画面が真っ黒に[…]
今シーズンに続き富樫虎太郎選手を起用、新加入は木村隆之介 元MotoGPライダーの中野真矢さんが率いるレーシングチーム「56RACING(56レーシング)」が、2025年のレース活動概要を発表した。 […]
全日本ST1000とASB1000の両カテゴリーを制す! 開幕2連勝を飾り、常にポイントリードし最終戦を待たずにチャンピオンを決めた全日本ST1000クラスに比べ、ARRC ASB1000クラスは、ポ[…]
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
ヤマハの最先端技術の結晶、それがYZF-R1だ 今からちょうど10年前の2014年11月。イタリアはミラノで開催されたEICMAにおいて、7代目となるヤマハのフラッグシップ“YZF-R1”が華々しくデ[…]
- 1
- 2