●文: Nom(埜邑博道)
補助金頼りのEV車の普及って本当に必要かつ有効なのでしょうか?
5月20日、日産の軽EV「サクラ」が発売されました。
ここで話題になっているのが、国からの補助金55万円と、東京都在住なら適用される都の補助金45万円の計100万円の補助を充当すると、同じ日産のガソリン軽自動車のデイズのエントリーモデル、Sグレードの132万7700円~に対し、サクラのSグレードだと133万3100円とこの2台の価格差は1万円弱に縮まり、同じクラスのガソリン車とEV車がほぼ同じ価格で購入できるようになったということです。
まだまだ高額な電池を大量に搭載するEV(BEV)はどうしても車両価格が高額になってしまい、そのままではガソリン車との価格競争力がなくて、普及がおぼつかないとの理由からこのような高額な補助金が適用されるわけですが、あらためてこの補助金ってなんなのだろうと考えてしまいました。
2050年のカーボンニュートラル(以下CN)の実現に向けて、2035年までに乗用車新車販売でEV車を100%とする目標の実現に向けてグリーンエネルギー自動車の普及を促進するという目的で、令和3年度補正予算として「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入触診補助金」375億円、令和4年度「クリーンエネルギー自動車導入促進等補助金」が155億円、両方合わせると530億円の補助金が今年1年分の予算として組まれています。
もちろん、この530億円は公的資金=税金で、エネルギー対策の特別会計というもので財源は石油/石炭税や電源開発促進税が充てられています。
また、個々のEV車に対する補助額も令和3年度補正予算・令和4年度当初予算から増額されています。表のように、EVは40万円から65万円または85万円に、軽EVとPHEVは20万円から45万円または55万円に、燃料電池車は255万円から230万円または55万円となりました。
国より5年前倒しの2030年に新車販売をすべて電動車にするという目標を掲げている東京都も、EVが45万円から60万円に、PHEVが45万円~60万円に、燃料電池車は110万円から135万円へと補助金が増額されています。
CO2の削減は、現代に生きるものとして待ったなしで目指さなければいけない大命題だとは承知していますが、そのために巨額の税金がEV車を購入する一握りの人のために使われていることにちょっと疑問を感じてしまったのです。
もちろんボクも、CO2削減には貢献したいと思いますが、今の生活および住環境だとEV車は選択肢に入りません。仕事で遠方に行くこともありますから、現状のEV車では航続距離が心もとないですし、住んでいる集合住宅にもEV車の充電機器は設置されていません。
以前、管理組合から要望募集があった際に、将来に向けて住宅の資産価値を上げるためにもEV車の充電設備を設けて欲しいと書いたことがありますが、まったくの無反応でした。
充電施設の設置にも補助金が用意されているので、住民側の持ち出しはそれほど多くはないのですが、そもそもEV車という存在自体が自分事になっていないのだろうと感じました。そして、そういう集合住宅は日本中に山ほどあるのだろうと。
東京都が、今後新たに建設される集合住宅や一戸建てにはEV車用の充電設備の設置義務化を検討し始めたそうですが(英政府は今年から義務付けがスタート)、果たしてそれで2035年(東京は前述のように2030年)の新車販売をすべてEV車にするという目標が実現できるのか、はなはだ疑問です。
さらには、あと8年~13年後に現在、現役で走行しているガソリン車も、まだまだ現役でCO2を排出しながら走っていることでしょうから、それはそれで新たな問題を起こしそうです。初度登録から13年、18年で自動車税に重課税を課しているように、排ガスを出すクルマにはある種、罰則的な新たな税金でも課すのでしょうか。
なかなかCNが自分事にならない無関心層の相当数の存在や、内燃機関を搭載するクルマやバイクが2030/2035年にも走り続けているだろう事実を考えると、我が国の全排出量の20%のCO2を排出している運輸部門の排出量を削減するという目標自体が、とても困難で、ある意味、絵に描いた餅のような気がして仕方ありません。
その実現が非常に難しい目標に対し、多額の補助金をジャブジャブと注ぎ込む現在の国の施策は本当に有効な策なのでしょうか。サクラに対する報道を見て、あらためてそんな思いが深まってきました。
欧州、中国の急速なEV車シフトは日本のHV潰しの政治的思惑?
そもそも、欧州や中国のガソリン(あるいはディーゼル)車からEV車への急激な路線変更は、日本が独自に発展させてきたハイブリッド車(HV)対策と言われています。
これ以上、日本発信のHV車に自動車市場を席巻される前に、まだスタートラインにあるEV車にシフトして、日本の牙城を切り崩して、さらには世界のマーケットを自分たち主導のEV車で制覇しようという思惑が見え隠れしています。
以前も書いたことがありますが、多くの系列メーカーを抱えて、自社系列の会社が作った部品で自動車を作り上げる日本メーカーに対し、とくに欧州はメガサプライヤーと言われる会社がパワートレインを含めた重要部品をアッセンブリーで自動車メーカーに提供するシステムのため、1社が開発した電動ユニットが数多くの自動車メーカーに提供されることで量産効果も発揮でき、結果的に市場でのEV自動車販売価格も将来的に下落していくことが考えられるのです。
最近では、トヨタが数年後には実用化すると言われている、発電効率が圧倒的に現在の電池より高い全個体電池を、欧州がリサイクル性に問題があるという理由で禁止しようとしているという話も聞こえてきます。
なんだか、欧州勢にとっての敵はCO2ではなく、世界市場における日本の自動車メーカーのように思えてしまいます。
型式認定を取得しないと補助金が適用されない!
今回、EV車への補助金について調べているうちに、BMWの電動スクーター、ディスコンになったCエヴォリューションと、この夏発売予定のCE04の補助金額はいくらなんだろうと思い、いろいろ調べても補助金についての情報は皆無でした。
そこで、直接BMWモトラッドに聞いたところ、両車とも補助金はないとのこと。電動バイクに関しても「搭載された電池(燃料電池を除く)によって駆動される電動機のみを原動機とし、内燃機関を併用しない型式認定を取得している車両であること」という規定をクリアしていないからだそうです。
ご存知のように、現状、BMWモトラッドはじめ、ほとんどすべての輸入バイクは日本の型式認定は取得していません。その理由はさまざまありますが、やはり大きいのは認定を取得するための労力とコストなのでしょう。
とはいえ、どの輸入バイクも日本のレギュレーションにはもちろん合致していて、ナンバーを取得して日本の公道を走ることに何ら問題はありません。
前述のCエヴォリューション、そしてこれから販売されるCE04も同様です。なのに、型式認定を取得していないから、補助金を受けられないとはあまりに杓子定規な規定だと言わざるを得ません。
経産省自動車課の担当者によるとそのクルマ/バイクの性能を担保して、補助金を適用する条件を満たしているかを判断する基準として型式認定を要件としているが、型式認定を取得していない自動車などは車検証がその代わりとなっているとのこと。しかし、EC04は日本国内では車検の必要がない軽二輪扱いなので、国が求める性能を担保する証明書がないとのことなのです。
クリーンエネルギー補助金の目的が、電動車の普及であるのなら、日本の公道を走るための法規に合致したバイクも認定や車検証の有無を問わず適応すべきではないでしょうか。
どうも、国の言っていることとやっていることのちぐはぐさを感じてしまいます。
ガソリン車と同価格・同性能のEV車の実現が基本的考え
EV車シフトが始まったころ、ある日系バイクメーカーのエンジニアが言った言葉をよく覚えています。
「ガソリン車と同じ価格で同じ性能のEV車じゃないと、誰も買ってくれません。なので、それが目標だと思っています」(ちなみに、その方は最近は「このEV車騒動は、あと2~3年で終焉して、HV車が最も有効だという話になると思う」ともおっしゃっています)
まさに同感で、いくらCO2削減が急務とはいえ、巨額の補助金が適用されなければガソリン車に対して競争力のないEV車を作っても、それは「為にする」ことでしかないと思います。
正直、ここまで書いてきてじゃあどうすればいいのかと問われても、その質問に対する明確な答えは見つかっていません。
しかし、巨額な税金が一握りの人のために(令和3年度補正予算と令和4年度予算合わせて530億円で想定されるクリーンエネルギー車購入者は6~7万人とのことです)使われる現状は、いくらCN実現への取組のひとつだとしても納得がいかないのです。
たとえば、530億円程度では意味がないのかもしれませんが、EV車への補助金ではなく、クリーンエネルギーの研究開発費として自動車/バイクメーカーに拠出したほうが、将来的には多くの国民にとってのメリットになるのではないでしょうか(実際、すでにEV車大国になっている中国は自動車メーカーに巨額の資金を投入していて、個別の車両への補助金は取り止める方向だそうです)。
あるいは、我が国のCO2全排出量の40%を占めるというエネルギー転換部門(輸入ないし生産されたエネルギー源をより使いやすい形態にする工程で、発電、コークス類製造、都市ガスの自家消費などに分類される)のCO2排出量を減らす=再生可能エネルギーへの投資をさらに増やしたほうがいいのではとも思います。発電にともなう排出量が圧倒的に多いのですから。
前述しましたが、運輸部門のCO2排出量は全体の20%にすぎません。それなのに、誰にでも分かりやすく、常に視界に入っているものである自動車をCO2排出の元凶のように扱い、だから巨額の税金を投入して排出量の低減を目指すというのが現在の国の施策なのだと感じます。
CNに向けてもっと他にすることはないのか、もっと有効な税金の使い道はないのか。
日産サクラの発売を契機にあらためて考えた次第で、みなさんにも安く買えるからいいではない、本当に国のため、国民のために有効に税金が使われているのかお考えになっていただきたいと思います。
前出の経産省の担当者も、この補助金にしても「いつかは終了します」とおっしゃっていましたから、持続性のある施策ではないのは明白なのです。
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