‘21年、ブランド復興後の累計生産台数が100万台を突破した英トライアンフが、アドベンチャーカテゴリーのラインナップを拡充。ツーリングから普段使いまでマルチにこなす、コスパ最強のミドルクラス「タイガースポーツ660」に試乗した。
●文:ヤングマシン編集部(田宮徹) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:トライアンフモーターサイクル
高価なパーツは使わないが、さすがのバランスと俊敏性
’90年のブランド復興後はアドベンチャー系として展開されているタイガーに、エントリーモデルとして加わったのが「タイガースポーツ660」だ。
まず注目したいのはその価格。世界的に知られる英国ブランドのミドル3気筒アドベンチャーでありながら、112万5000円〜という魅力的な設定となっている。
ショートなギヤ設定がもたらす意外なほどの俊敏性も魅力
開発のベースとなっているのは、タイガースポーツ660以上に戦略的な価格設定で衝撃を与えたネイキッドのトライデント660(99万3000円)。車体のデザインや各部の仕様などは専用化されているが、カタログ上のエンジン性能は同一で、660cc水冷並列3気筒エンジンは81psを発揮する。同排気量帯の他社製アドベンチャーは、基本的に並列またはV型の2気筒を採用。それらのライバルに対して、最高出力で勝っているのも長所だ。
しかもこのパワーユニットは、ギヤ比がかなりショート。レブリミットは1万500rpmで、1速なら73km/h、2速だと102km/hでそこに到達する。加速方向に振られていることで、馬力以上の俊敏性を発揮。オンオフ式のトラクションコントロールをカットすれば、1速ならスロットルワークだけで、レインモードを選択しているときですら前輪が宙に浮くのだ。
また、中回転域がトルクフルな特性は3気筒エンジンならではで、4000rpmあたりをキープしていればストレスフリーの走行性能。全体的にはフラットで山や谷が少ない味つけだが、とはいえ7000rpm以上では盛り上がりもある。6速トップギヤの100km/h巡航時は約4500rpmで、ダルすぎないが十分に余裕があるちょうどいい範囲に収まっている。
車体は、前後17インチホイールを採用した完全にオンロード寄りの設計。ただしコーナリング特性には、フロントタイヤがやや大回りするような、19インチに近い雰囲気もある。バンクさせるまでは軽いが、旋回中は重さや長さがあるバイクのような安定性も備えていて、その落ち着いた特性がツーリングでの疲労を軽減してくれる。逆に、たとえば同社のスピードトリプルシリーズのように、フロントからグイグイ曲がる感じはないが、やや多めに付く傾向のハンドル舵角を殺さないよう意識して操縦すると、小気味よく旋回する。
ライダー側のシートは後部がかなりせり上がっていて、意識していないと快適性が低い前側の細いところに座らされてしまう。フロントブレーキキャリパーはニッシン製の片押し2ポットで、制動力はそれほど高くない。ワインディングでスポーティに走らせる場面では、エンジンのドンツキが少し気になる。これらが多少のマイナスポイントに感じられたとはいえ、ベーシックなパーツを使いながら全体的にうまくまとめられている印象があり、価格まで含めて考えたら、十分に高評価されるべきバイクだと思った。
ちなみに、Uターンはかなり得意で、それほどハンドル幅が広くないためフルロックでも遠い側のグリップに手が届きやすく、そういう部分も含めて市街地での操縦性も良好。純正アクセサリーパーツを追加すれば本格派のツアラーにも発展させられるが、ストックに近い状態のまま、ツーリングから普段使いまでそつなくこなす万能系として愛用するのにも向いていそうだ。
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