BMWの4輪スポーツ最高峰モデルに与えられる「M」の称号を冠したスペシャルマシンが、2輪としては初登場した。スーパーバイク世界選手権への参戦も担うこととなったこのM1000RRの実力を、CBR1000RR-RとS1000RRを相手に全開テスト。ディテール徹底比較編に続き、サーキットテスト走行の結果&インプレッションをお届けする。
●まとめ:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:BMWモトラッド
スタイリング:チタンマフラーやビレットパーツ満載 ライディングポジション:足着きの厳しさは1番 エンジン:いずれも直4だ サスペンション&ホイール:M1000RRは足まわりもレーシー その他装備 ウイ[…]
スーパーバイク戦争の最前線に、BMWも最強版を投入だ!
1000ccスーパースポーツのマシンたちがこぞって200psの大台を超えるハイパースペックのぶつかり合いとなってから、早いもので数年が経過。日本車キラーとして同じ直4で気を吐くBMWのS1000RRも、207psのパフォーマンスでその存在感を大きく示してきた。
だが、それでも物足りないとなるのがスーパーバイクレースの世界だ。頂点に立つためにはさらなるスペックがまだ欲しい。市販車ベースというシバリがある以上、どうしたらいいか。直近ではホンダはノーマル状態でも218psというCBR1000RR-Rで我々を驚かせ、カワサキはレースベース用としてエンジンレブリミットを引き上げ高回転パワーをアップしたZX-10RRを用意。
ライバルより少しでも速く走るための努力は惜しまぬこうした流れに、BMWも負けてはいない。S1000RRをベースにしながら、シリンダーヘッド/2本リング鍛造ピストン/チタンコンロッドなどでパフォーマンスを底上げしたエンジンに、ディメンジョンを見直したフレーム&スイングアーム、サーキット走行に最適化したサスペンション。カーボンホイールまで投入し、極めつけにS1000RRになかったウイングレットも装備する究極のマシンを登場させたのだ。
その名もBMWの4輪スポーツモデル最高峰にのみ許される「M」を2輪としては初めて冠した「M1000RR」だ。MAX212psのパワーを装備状態でもわずか192kg(STD)という超軽量車体でクラス最強のパワーウエイトレシオを発揮し、そのスペックはもはや公道を走れるスーパーバイクレーサー。今回はこのM1000RRの実力を、CBR1000RR-R/S1000RRとともにサーキットでテスト。サーキットの勢力図は塗り替えられるか。いざ、スタートだ。
「M」とは、BMW最高峰のスポーツブランド
BMWの「M」とは、特別なチューニングで最高のスポーツスペックを備えたモデルにのみ与えられるブランド。4輪で名高いこの称号を2輪で初めて採用したのがこのM1000RRだ。サーキット仕様の強化エンジン/シャーシ/カーボン外装&ホイールなど、豪華な内容を誇っている。
スペシャルチューンの効果がハッキリ現れていた
今回テストするM1000Rは、BMWがこれまでレーシングマシンばりのスポーツスペックを誇る4輪のみに与えてきた「M」の称号を2輪に初めて冠させたモデル。4輪Mの例に漏れず、そのエンジンや車体はS1000RRをベースとしつつも、別物と言えるほどにチューニングしてある。最高出力発生回転数1000rpmアップに加えて、圧縮比13.5という数値は、もう我々ウィズミーがレース専用にバイクをチューニングする際に狙うのと同じ領域。これくらいカリカリにイジってしまうと、普通はメンテナンスサイクルが短くなるんじゃないかと心配してしまうが、バルブクリアランス点検などはS1000RRと同じ3万kmごと。あくまでも公道用モデルとして一般的な範囲に収めていることには驚きだ。
そんなM1000RRだけに、跨った瞬間の感触からSとは似て非なるもの。サーキット走行に合わせてセッティングされたサスペンションは硬くて沈み込みも少ないので、足着き性はSはもちろんCBR1000RR-Rよりも厳しく、重心が高い位置に移ったようなレーサーらしい腰高感が感じられる。ただトータル的に見ると、低くてタレ角もガッツリあるハンドルバーと、ここまで高くなくともと思えるステップ位置を持ったRR-Rが、3車の中ではもっともサーキット寄りに感じられることに。MとSのポジションは意外と大柄で上半身の窮屈具合も少なく、公道走行も多分に考慮されているような印象を受けた。
さて、足着き性と重心の関係でサイドスタンドを払っての引き起こしこそもっとも大変に思えたMだが、いざ走り出してみるとその軽さ感は頭ひとつズバ抜けていた。何しろ、その車重は装備状態でわずか192kg。Sとは8kg、車重201kgのRR-Rとは9kgもの違いがある。なおかつ、この軽量化にはホイールにカーボンを採用したりコンロッドをチタン製とするなど、回転物体を中心としたチューニングが行われていることもポイント。ジャイロ効果の低減も相まって、数値以上の軽さがハンドリングに反映されている。
そして、この効果は動力面にも現れていた。フリクションも含めてチューニングされた水冷直4は、レーシングエンジンのように非常に滑らかに回転上昇していくのが印象的。回しきる楽しみとしては、いかにもスペシャルマシンという感じがする。もっともRR-RやSの方でも、回す楽しみで言えば、Mにほんのわずか及ばないかなという程度で、もう十分すぎるレベル。どのマシンも200psオーバーで、ここまで来ると最後まで回しきるという場面にはなかなか出会わないのが現実だ。
足まわりについても、Mの前後サスはサーキットとの相性の良さで一歩抜け出ている。3車の中では唯一機械式で電子制御になっていなかったのだが、サーキットに絞り込んだセッティングの勝利といった感じか。それを強く感じたのがヘアピン立ち上がりにあるギャップの部分で、SがフラレるところをMはピタっと決まってクリアしていく。コーナリングの安定に関して、Mにはダウンフォースを高めるウイングレットも追加されているが、どのくらい貢献しているのか、公称では50km/hでも500g、300km/hでは16.3kgのダウンフォースを発生すると言うが、残念ながら袖ヶ浦の速度域だと不明だった。それよりもやっぱり一番締まって感じたサスの恩恵が大きかった。
M1000RRはタイヤもなかなか好印象。標準装着されているのは日本未発売で位置づけとしては欧州ダンロップのハイグリップ系最高峰となる「スポーツスマートTT」。今回が初体験だったが、粘り強さやグリップ力の高さではサーキットユーザーからの評価が高いピレリのディアブロ スーパーコルサSP(RR-RSP標準装着)と優劣付けがたいデキだった。
ということで、各部の評価でスペシャルチューニングならではの光った部分を感じ取ることができたM。ただ、それがタイム的に決定的なアドバンテージになるかは、どれもサーキット限界に近づいた200psオーバーマシンでは難しいと感じたのも事実だった。タイムアタックは、クリアラップではなく一般のスポーツ走行に混じって測定。より実戦に近い状況と言ってもいい。そこでの結果はほんのわずかな差。Mはトップスピードで最高速をマークしたものの、惜しくもベストタイムでは2番手となり、RR-Rを下すことができなかった。
逆にRR-Rはタイムでクラス最強馬力の面目を保ったという感じか。Sも速度的にはRR-Rを超える健闘ぶりだ。以前、冬場のここでテストしたときより夏場の今回はグリップも良くRR-Rの暴れん坊ぶりはいささか弱まっていたが、それでも根本的なアグレッシブさは健在。そのRR-Rと比べると、MもSも暴れん坊ぶりでは同等といった感じで、タイムアタックを終えての率直な感想は「どれも大変!」。タイム的にはほぼ横並びではあったが、それでもMは全身に散りばめられたスペシャル装備による性能の片鱗をしっかりと味わえる感が大きい。
サーキットテスト結果:それぞれ1LAP限定アタックで計測
M1000RR〈1分12秒851|最高速220.02km/h〉Sとの違いでチューニングの効果がハッキリ出た
タイヤはダンロップ製スポーツスマートTT。テスト車はカーボン外装やビレットパーツを中心とするオプションのMコンペティションパッケージが組み込まれていたが、エンジンやサスペンションなどはSTD状態のMと同じ。最高速では1番を記録し、速さの片鱗を見せてくれた。
CBR1000RR-R〈1分12秒795|最高速216.54km/h〉SS最強の218psがタイム的には1番を死守
テスト車は電子制御サスペンション搭載の上級版SP。タイヤはサーキットユーザーから絶大な支持を得るピレリ製ディアブロ スーパーコルサSPが標準だ。本気でSBレースに勝つためのクラス最強馬力とウイングも装備した進化車体で、わずかながらトップタイムを死守してみせた。
BMW S1000RR〈1分13秒245|最高速219.20km/h〉Mに迫る速さ。コスパでは一番か?
M1000RRのベースとなるS1000RRは、鍛造ホイール/レースABS/電子制御サスペンションなどが追加されたレースパッケージ車。標準装着タイヤはメッツラー製レーステックRRだ。なお電制機能の公平を期すために、SとMは”RACE”、RR-Rは”MODE1″と標準設定最強のライディングモードで走行した。
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