タイトル獲得に華を添えたレース

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.67「忖度なんか1度でもしてしまったら、もう次はない」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第67回は、タイトルを決定したクアルタラロの話題を中心に。

TEXT: Go TAKAHASHI PHOTO: YAMAHA, DUCATI

ターゲットに対してやるべき仕事をこなしたクアルタラロ

ファビオ・クアルタラロがタイトルを獲得しましたね! MotoGP第16戦エミリア・ロマーニャGPで4位入賞し、ポイント争いを繰り広げていたフランチェスコ・バニャイアが転倒リタイアを喫したことで、クアルタラロがフランス人初の最高峰クラスチャンピオンとなりました。

今シーズンのクアルタラロは、チャンピオンにふさわしい速さと強さをしっかりと発揮したと思います。いや、走りのポテンシャル自体は昨シーズンから十分にあったんですが、終盤にかけてバタバタして、どちらかといえば自滅してしまったという形でした。目の前のレースで勝つことに力が入りすぎていたんですね。

今年はそういうミスが本当にありませんでした。怒りに我を忘れてカーッと熱くなり、本能で走るようなこともなく、4位、5位、6位でも喜ぶ姿が印象的でした。うまく行かない時でもそれなりにポイントを稼ぎ、「タイトル獲得」というターゲットに対してやるべき仕事をきっちりとこなした、という感じです。

2位のペッコ・バニャイア選手に65ポイントの差をつけてタイトルを決めたファビオ・クアルタラロ選手。ヤマハにとって今年はWGP参戦60周年を迎える年であり、最高峰クラスでのライダーズタイトル獲得は通算18度目となる。 [写真タップで拡大]

レース展開を見ていた限りでは、「今回は決まらないかな」と思っていました。ポールポジションからバニャイアが飛び出し、予選で黄旗無視のペナルティを受けて15番手グリッドからスタートしたクアルタラロは中団に飲み込まれます。バニャイアに追いすがることができたのはマルク・マルケスだけ。3位以下を大きく引き離し、バニャイアとしては有利な展開でした。

マルケスがピッタリと背後に着けていましたが、それでプレッシャーを感じるようなバニャイアではないでしょう。仮にマルケスに抜かれて2位になったとしても、クアルタラロの前にいれば、チャンピオン争いの決着は先延ばしできますからね。焦りもなかったはずです。ところが、残り4周の15コーナーでまさかの転倒、リタイア……。その瞬間にクアルタラロのタイトル獲得が決定しました。

バニャイアが転倒したのは、右、左と切り返すコーナーです。最初の右でスロットルを開け、次の左へと切り返した瞬間にスロットルを戻すんですが、一瞬、荷重がかからなくなるポイントなんです。ただ、決して無理な走りをしていたわけではないので、何が起きたのか……。もしかしたらフロントにハードタイヤを選んだことが要因かもしれませんが、本当のところは分かりません。レースをしていると、たまにそういう転倒に見舞われることもあるんです。

マルク・マルケス選手を従えて走るバニャイア選手。僅差で押さえ切ったアラゴンGPの再現なるかと思われたが……。 [写真タップで拡大]

いちレースファン心理としては、バニャイアにはできるだけタイトル決定を先延ばししてもらって、あわよくば逆転なんていう奇跡も見せてほしかった気持ちもちょっとありますが、チャンピオンシップは今回のレースだけで決まることではありません。転倒が多かった今回のレースでも、最終的にはきっちりと4位につけたクアルタラロの強さが、タイトルを引き寄せたんです。

バニャイアも、来季に向けてとてもいい経験をしたと思います。レース後、ピットロードでクアルタラロを出迎え、ハグをしていたバニャイア。素晴らしいシーンでしたね。レースをしている間はバチバチのライバル関係でも、終わってしまえば健闘を称え合う。「やっぱりスポーツはこうでなくちゃ!」と、僕も感動しました。

レースで優勝したのは、マルケスです。バニャイアの背後からプッシュし続けましたね。まだ完調ではないにも関わらず、今季3勝目。しかも手負いの右手に負担がかかる右回りのコースでの勝利。さすがの貫禄です。2位はマルケスのチームメイトのポル・エスパルガロで、3位には、最終ラップでクアルタラロを鮮やかにパスして表彰台を奪った、エネア・バスティアニーニが入りました。

マルケスにしてもバスティアニーニにしても、タイトル争いをしているバニャイアやクアルタラロに対して、忖度ゼロのガチ勝負を仕掛けていましたね。「これぞレース!」という感じで、僕には清々しいものに見えました。誰がタイトル争いをしていようとも、自分は自分。常に最高のパフォーマンスを発揮しながらレースをしているわけです。人のレースを気にするようなお人好しは、世界のトップにはいません。忖度なんか1度でもしてしまったら、もう次はないような厳しい舞台ですからね……。「全員が本気で全力」という姿勢はトップカテゴリーにふさわしく、クアルタラロのタイトル獲得に華を添えていました。

最低年齢の引き上げに僕は賛成です

ところで、MotoGPを主催しているドルナスポーツとFIM(国際モーターサイクリズム連盟)が、各カテゴリーの参戦最低年齢の引き上げを発表しましたね。現時点ではMoto2とMoto3は参戦最低年齢が16歳ですが、’23年以降は18歳に。この動きはMotoGPだけではなく、ワールドスーパースポーツやレッドブルMotoGPルーキーズカップなども、段階を踏みながら1~2歳は最低年齢が引き上げられることになります。

これにはいろいろな意見があります。「少しでも若いうちから、少しでも上のカテゴリーを走った方がいい」という考え方もあるでしょう。でも僕は、今回の決定に賛成です。ここのところ、ヤングライダーに重大な事故がたびたび発生しており、残念ながら毎年のように命を落とす者も出てしまっています。若くしてのし上がってくるようなライダーたちですから、ライディングテクニックは身に付けていることでしょう。でも、10代も前半から半ばでは、体力的にも精神的にもまだまだ成熟していません。

僕みたいに50歳も過ぎれば、今さら1歳や2歳年を取ったところでさほど変化はありません。でも、10代は1、2年でものすごく成長します。体もしっかりしてきますし、レースの何たるかも理解できるようになるでしょうし、まわりに目をやる心の余裕も持てるようになるでしょう。ヤングライダーたちの事故が増えた時、もちろんいろんな考え方、いろんなやり方があるとは思います。でもドルナとFIMがこうして素早く参戦裁定年齢を引き上げたことは、僕は評価できると思います。

モータースポーツのリスクをゼロにすることは、ほぼ不可能です。でも、リスクをうまくコントロールすることは可能です。参戦年齢の引き上げもそのひとつ。これですべてではなく、まだまだ対策をしなければならないことは多いと思いますが、何もしないよりはずっといい。モータースポーツに対する社会の理解を得るためにも、レース界の姿勢を示すことはとても重要です。そして何よりも、若いライダーたちの身に及ぶリスクは少しでも減ってほしい。彼らの成長を促すために適切な教育をしながらも、子供を守る大人の役割として、セーフティーネットもしっかり張ってもらいたいと思っています。

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マシン・オブ・ザ・イヤー2021
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