快進撃を続けるホンダPCXに対し、ヤマハNMAXが反撃の狼煙を上げた! トラクションコントロール/キーレス/アイドリングストップを追加し、さらに国内125ccクラス初となるスマホ接続システムも投入。新設計フレーム&ホイールなど基本骨格も大幅に進化を遂げた。果たして王者PCXの背中は見えたのか、厳しくジャッジ。モータージャーナリスト大屋雄一氏の試乗インプレッションをお届けする。
ライバルを徹底的に研究。装備についてはほぼ互角に
スタイリング エンジン&シャーシ 主要装備 NMAXはスマホ接続可能! 〈写真1〉〈写真2〉〈写真3〉〈写真4〉〈写真5〉〈写真6〉〈写真7〉〈写真8〉〈写真9〉〈写真10〉〈写真11〉〈写真12〉〈[…]
’10年のデビュー以来、販売台数において原付二種スクーターのトップを快走するホンダPCX。3度目のフルモデルチェンジを受けた’21年モデルは、水冷エンジンを2→4バルブ化した上でボアストローク比を変更。さらにフレームを刷新してリヤブレーキをディスク化するなど、隙のない進化を遂げた。
この牙城を崩すべく、ライバルのヤマハNMAXが’16年のデビュー以来初となるフルモデルチェンジを実施した。最大のポイントは、ヤマハ国内モデル初となるスマホ接続システム”Yコネクト”の採用だ。メーター上で着信通知/燃費管理/最終駐車位置の確認など様々な使い方ができる。さらに、PCXがすでに採用しているトラクションコントロール/スマートキーシステム/アイドリングストップを追加しただけでなく、フレームや前後サスペンションを新設計とするなど、ほぼ全面的に進化した。そして何より驚いたのは、これだけ装備を充実させていながら税抜価格1万円しかアップしていないこと。ヤマハの本気ぶりが伝ってくるだろう。
まずはエンジンから。NMAXの水冷シングル”ブルーコア”エンジンは、6000rpmを境に吸気側カムが切り替わる可変バルブ機構・VVAを採用。最高出力はPCXに対して0.5ps、最大トルクも1Nm下回るが、このVVAの効果もあってか発進加速はPCXよりもわずかに力強い。スロットル全開でスタートすると、50km/h付近でカシャッという作動音とともにカムが切り替わる(同時にVVAのアイコンがメーターに表示される)が、加速フィールは極めてシームレス。スロットルレスポンスも適度に忠実で、全域で扱いやすいエンジンに仕上がっている。
新たに導入されたアイドリングストップは、始動用モーターと発電用ジェネレーターを一体化した”スマートモータージェネレーター”により、キュルルッというギヤ鳴りをさせずに静かに再始動する。PCXも同様のシステムを採用しており、完全に肩を並べたと言えるだろう。付け加えると、この始動時を含め全域で振動が少なかったのも好印象だ。
ハンドリングに違いあり。実力はほとんど横並びだ
続いてハンドリングについて。PCXがフロント14インチ/リヤ13インチのホイールを履くのに対し、NMAXは前後13インチを新型でも継続する。水平基調のデザインゆえにPCXの方が長く見えるが、全長は2車同一であり、ホイールベースはPCXの方が25mmも短いのだ。
ハンドルの押し引きなどできっかけを与えるとすぐにバンクし、フロントからスイッと向きを変えるPCXに対し、NMAXはライダーの操縦にどこまでも忠実で、この2台のハンドリングは実に対照的だ。PCXは先代/現行モデルで段階的に接地感と旋回力を高めてきており、リラックスしたライディングポジションのまま不安なくコーナリングできるという点において右に出るものなし。これに対してNMAXは、やや背筋を伸ばした乗車姿勢から積極的にバンク角をコントロールするタイプで、その傾きに比例して舵角が付き、狙ったラインを気持ち良くトレースできる。まさにヤマハらしいハンドリングであり、原付二種スクーターでもスポーティーな走りを楽しみたい人にとっては、まさに打って付けだろう。
なお、PCXは現行モデルからハンドルホルダーがラバーマウント化されたのだが、NMAXから乗り換えるとハンドルバーの揺れがさまざまな場面で気になった。慣れてしまえばまったく問題はないのだが…。
ブレーキは両車とも前後ディスクを採用する。PCXはフロントに片押し式2ピストン、NMAXはシングルピストンのキャリパーを選択するが、絶対制動力/コントロール性とも大差はなかった。ただ、ひとつ気になったのはABSの作動性だ。リヤにもこれを導入するNMAXはPCXに対してアドバンテージを持つが、実際に作動させるとレバーへのキックバックが大きく、しかもタイヤのロックと解除の間隔が大きいので、最初は戸惑うかも。これに対してPCXはフロントのみだが、介入がスムーズなので安心感は大きい。
さて、NMAXが導入したYコネクトも試してみた。専用アプリをスマホにインストールすればすぐに使うことができ、電話の着信や各SNSからの通知をメーターに表示させられるほか、スマホ上でさまざまな情報を知ることが可能だ。特にビギナーにとって心強いと思われる機能が、問題や故障を検出した際、その時間や位置情報を指定のメールアドレスに自動で送信するというもの。このアプリはまだスタートしたばかりで、今後さらに便利な機能が実装される可能性も。非常に楽しみである。
同価格帯の最新スマホ同士を比較する程度に実力と装備が拮抗しているこの2台。年間販売計画台数に大きな開きはあるものの、どちらも原付二種スクーターとしてはトップクラスのパフォーマンスを有しており、正直なところ甲乙付けがたい。見た目の好みで選んでも後悔しないだろう。
0-60km/h加速:最高出力は下回るが加速はNMAXの勝ち
本文にも記したように、スタートダッシュではNMAXの方がわずかに力強く感じる。その差を明らかにしようと2台で同時に発進することを試みるも、スロットルを開けるタイミングが揃わずに断念。そこで使用したのがデジスパイスだ。結果は0-60km/hのテストにおいてNMAX7.8秒/PCX8.3秒だった。この条件においてNMAXは50km/h付近で吸気側カムがローからハイへと切り替わるので、それもパフォーマンスに影響しているようだ。なお、PCXのエンジンは低振動かつメカノイズが少ないことが特徴的だが、今回の試乗車同士の比較ではNMAXの方が静かでジェントルに感じられた。スペックに現れない要素なので、ぜひ試乗して確かめてほしい。
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