トヨタとの提携で水素社会インフラの実現を目指す川崎重工の元、水素エンジンバイクの開発も視野に入れているカワサキ。そんな折りに水素燃料を見据えたエンジンの現物が公開された。ニンジャH2系のスーパーチャージャーユニットをベースとする直噴エンジンは、来たる水素エンジンの実現に向けた研究機という触れ込みだ。
●文:ヤングマシン編集部・松田大樹
2系統の燃料ライン。他燃料との混焼も想定?
10月1日に川崎重工から分社化し「カワサキモータース」を名乗ることとなったカワサキの2輪車部門。そのメディア向け説明会の会場に展示されていたのがこのエンジンだ。「水素エンジンの実現に向けて研究中」と銘打たれたガソリン直噴ユニットで、水素の活用を公言した2輪用エンジンとしては、おそらく世界で初めて一般公開されたものだろう。
技術的な説明は少なかったが、ベースがニンジャH2系の直4スーパーチャージャーエンジンなのは一目瞭然として、目立つのはカムカバー上に置かれたポンプ状の物体と、吸気ポート下に配され、燃焼室へ直接燃料を噴射するインジェクターの存在、その両者を繋ぐステンメッシュホースの燃料配管だ。ポート噴射のインジェクターとエアファンネル上から燃料を吹くトップフィード型インジェクターはそのまま残っており、つまりは市販H2系のエンジンに直噴用の燃料ラインを追加したような構成とされている。
この直噴用燃料ラインのデリバリーパイプは金属から削り出された頑丈そうなもので、かなりの高圧にも耐えられそうな作りとなっている。ポート噴射インジェクターの配管が樹脂製なのとは対象的だ。単純に一品物を削り出しで作っただけかもしれないが、高圧の水素を送ることを前提に直噴の燃料ラインを構築している……と考えたい。
実際に、今回カワサキが公開した水素エンジンの図版も直噴が採用されており、トヨタの水素エンジンカローラも直噴に加え、ターボチャージャーを採用していたことから類推するに、水素エンジンは直噴や過給器との相性がいいのかもしれない。となれば開発機がH2系のスーパーチャージドエンジンという点も頷けるし、逆に言えば水素エンジンはカワサキらしさが十二分に活かせるとも言える。
既存の燃料ラインを残しつつ、直噴用を加えて燃料ラインを2系統としているのは、テスト用に水素とガソリンを切り替えることを想定しているためと思われるが、ひょっとしたら2つの燃料を混ぜて燃やす「混焼」の可能性もあるのかもしれない。いろいろと妄想が膨らむ!
内燃機関にハイブリッド、新燃料まで全面展開だ!
このメディア説明会の場でカワサキモータースの新社長・伊藤 浩氏は「カーボンニュートラルの実現に積極的に取り組み、この分野で2輪業界をリードしていく」と力強く宣言。2025年までに10機種以上のバッテリーEV(BEV)/ハイブリッド(HEV)を導入し、2035年までには先進国向け主要機種を電動化(BEV/HEV化)すると発表。さらに開発を進めているハイブリッド車のプロトタイプまでメディア向けに公開した。
それと並行して「カーボンニュートラル燃料の活用」にも積極的に取り組み、水素やe-fuel、バイオ燃料といったCO2フリーの新燃料に力を注ぐことも発表された。これらを総合すると、カワサキは次世代モビリティ用として想定されるパワートレーン、そのほぼ全てを2輪に展開していくと発表したことになる。つまり新生カワサキはカーボンニュートラルの実現に向けて「次世代のパワートレーン、全部やるぞ!」と言っているのだ。
新聞やテレビなど大手メディアでは「カワサキは2輪も電動化へ!」といった報道が見られるが、これは今回の発表の一部分にすぎない。そもそもHEVはエンジンありきのパワートレーンだし、水素やe-fuelへの取り組みについてはほとんど触れられていないなど、偏った報道となっている点は2輪メディアとして是正しておきたい。カーボンニュートラルを積極的に推進するために電動化を強調してはいるものの、カワサキはガソリンに代わる燃料にも挑戦し、内燃機関という選択肢も残す方針である。
というわけで「え? カワサキは燃料を焚いてナンボだろ!」という方々もひとまずは安心してほしいし、伊藤社長は革新的な電動系車両に挑む一方で「メグロやZ900RSのような、伝統を継承するモデルは今後も投入していく」とも述べている。さらに株式を保有するビモータとはエンジン供給以上の協業についても検討中と明かされた。ネオクラ系の拡充に、新たな世界を切り開く電動系の投入、さらに超プレミアム路線の構築と”カワサキ無双”はまだまだ続きそうだ。
今後のカワサキはニューモデルラッシュ?
今後の事業方針についても説明があり「分社化で経営自由度を高め、消費者の変化に素早く柔軟に対応できる体制とする」「2021年度で4100億円を見込んでいる連結売上高を2030年には1兆円へ伸長させる」ことなどが発表された。特に後者の実現に向けては、かなり積極的な拡大路線を採る必要があるため、今後のカワサキからはより多くの新機種が続々と投入されることになりそうだ。
また、カワサキモータースは川崎重工で唯一のBtoC事業でもあり、カワサキブランドの牽引役、イメージリーダーとしての存在感が期待されていることや、さらに重工の一員としてグループ内での連携や協業も推し進め、川崎重工が「コングロマリットプレミアム」への発展を目指していることなども述べられた。
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