
ブランド価値を高めるにはユーザー像のイメージを高めることも重要なファクター。その点、ドゥカティは本能的にわかっているようで、ユーザー像がグイグイとグレードアップするような製品づくりに長けているかと。GPマシンのレプリカを作るなどは最たる例で、しかも年間10勝という圧倒的な強さを見せたモデルならなおさら印象深くなることは言うまでもありません。限定5台ながら、こんなマシンを売り出すドゥカティにはもはや畏敬の念しか抱けません。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:Bonham Cars
ドゥカティに3冠をもたらした栄光のマシン
2007年にケイシー・ストーナーがファクトリーライダーになるまで、モトGPにおけるドゥカティは苦戦を強いられていました。直線は速いが、曲がらないというレッテルを貼られ、口さがない批評家は「市販車と同じく気難しい」などとコメント。
ところが、ストーナーが加入して、デスモセディチGP7に乗るや否や開幕戦から優勝。以降も勝利を積み重ねて、ドゥカティに初めてのコンストラクターズタイトルをもたらしただけでなく、チームとライダータイトルを含む三冠までゲットしてみせたのです。
もっとも「気難しい」キャラが改善されたというわけでもなさそうで、それが証拠にストーナーはリヤタイヤを積極的にスライドさせながら曲がる「ダートトラックスタイル」をモトGPに取り入れています。当時は、天才ロッシにさえ「あれで曲がれるのはストーナーだけ」といわしめたほど。
というわけで、デスモセディチGP7はシーズン終了前からドゥカティ博物館の特等席に飾られることが決定したという次第。
2007年のモトGP18戦中10勝をあげたケイシー・ストーナーはドゥカティにとっても伝説的。ゆえにレプリカの製造が許された模様。
さすがにGPマシンの市販はできなかったものの…
もちろん、ドゥカティのブランディングチームによるタイトル獲得をネタにしたプロモーションも積極的に行われました。陣頭指揮を執ったのは当時のCEO、ボノミ社長自身であり、「一般ユーザーにもGP7を売り出そうじゃないか」とかけ声をかけたとのこと。
しかしながら、一般ユーザーにむけた GPマシンなど作れるはずもありません。価格を度外視したとしても、キーONでホイサッサと乗れる仕組みではなく、またアフターサービスの面でも限定的となってしまうことはいうまでもありません。
そこで、イタリア工場のレース部門であるドゥカティ・コルセが知恵を絞ったのが「市販車をベースに、できるだけGP7に近づけたマシン」の製作でした。
今でこそ市販のL型4気筒はハイエンドエンジンとしてラインナップしていますが、当時はGPモデルだけでしたから、これも当然の措置かと。
で、コルセが選んだのがL型2気筒エンジンを搭載した市販車のスーパーバイク・シリーズでした。749/999の2タイプに加え、おなじみハイグレードのSやRモデルも用意されており、2006年に生産を終了していたものの、そのポテンシャルは十分と判断されたのでしょう。
市販車ベースが一番わかりやすいのがマニェッティのメーターを流用したあたり。もちろん、マシンは稼働状態にあります。
ドゥカティ・コルセが丹精込めたレプリカマシン
当然、ベース車両のマニェッティ・マレリ製計器、ショーワ製リアショックアブソーバー、およびブレンボ製ブレーキシステムといったコンストラクションが踏襲された上で、GP7のボディワークがそのまま架装されています。このあたりのフィッティングはさすがファクトリーといったレベルで、近くで見てもワークスマシンとの違いはほとんどわからないほどだとか。
また、マルボロのスポンサーロゴはレース仕様に忠実にバーコードタイプに変更され、どういうわけか栄光のゼッケン27番は省かれています。
さらに、ちょっと不思議なのがご紹介しているマシンのエンジンは749でありながら、シャーシは999を使用するという合わせ技。ファクトリーに余っていたものを適当に使ったのかと思いきや、どうやらエンジンだけはコルセが秘密のチューニングを施した模様。
そして、シャーシについては749と999はほぼ共通するとのことで、コルセとしては「どっちでもいいや」てなことになったのではないでしょうか。
オークションに出品されたのは10年ほど前のことですが、落札価格は5500ポンド(約115万円)と意外なほどの安値。無論、エンジンは実働可能で、タイヤもブリヂストンの専用タイヤ(新品)を装着していたそうですから、すぐにでもサーキットを走れたはず。
実際、落札時点では1800kmほどの走行履歴があったといいますから、それなりに走っていたことは確かでしょう。やはり、ケイシー・ストーナーのアグレッシブな走りの印象が、アマチュアライダーをひるませてしまったのかもしれません。
良きにつけ悪しきにつけ、ドゥカティのブランドイメージはそれほどまでに強烈という証左でしょう。
ケイシー・ストーナーと実際の愛機デスモセディチGP7。ほれぼれするような走りのカッコよさです。
スタイリングイメージ。
限定5台の生産ながら、オークションで100万円程度だったとはにわかには信じがたいプライス。
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