’80s国産名車・ヤマハVMAX完調メンテ#3:専門家インタビュー「本来の資質を味わってほしい」

今も絶大な人気を誇る‘80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家より奥義を授かる。本記事ではヤマハの人気車・VMAXのメンテナンスについて、ライトアーム・矢田正夫氏のインタビューをお届けする。


●文:中村友彦 ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●取材協力:ライトアーム

いったん好調を取り戻せば、以後の感覚は現行車と同等

’80年代生まれの車両としては、相当なハイパワーにして異端のモデルだったにもかかわらず、致命的な弱点が存在しない初代VMAX。ただしライトアーム・矢田正夫氏によると、近年になって同店に入庫される中古車は、何らかの問題を抱えている車両がほとんどのようだ。

「最終型でも14年前ですから、ある程度の整備が必要になるのは当然のことでしょう。でも大前提の話をするなら、VMAXの耐久性はかなり高いと思いますよ。入手後の整備で好調を取り戻せば、以後は現行車と大差ない感覚で付き合えますから。エンジンに関しては、良質なオイルを定期的に交換していれば10万kmは余裕で持ちます」

【ライトアーム 矢田正夫氏】VMAXとの付き合いが四半世紀以上に及ぶ矢田氏は、’66年生まれの55歳。メカニック歴は約30年で、オレンジブルバードやYSP/VMG大原に在籍した際は多種多様な車両を担当。VMAXに特化したショップとしてライトアームを創設したのは’14年。

もっとも、ネットでVMAXの弱点を検索すると、電装系に加えてエンジンの発熱量の多さやフレーム剛性の低さなどを固有の弱点と捉える人が存在する。

「発熱量をどう感じるかは使い方によりけりでしょう。私自身は、一般的なツーリングならノーマルで十分に対応できると思いますが、渋滞路を走ることが多い人の場合は、水冷式オイルクーラーや強制電動ファンスイッチを装着することがあります。VMAXオーナーの間でよく話題になる、大容量ラジエーターやカワサキ純正のサーモスイッチは、ウォーターポンプやバッテリーとのバランスを考えると、私の方から推奨することはないですね。

フレーム剛性については、’80年代のレベルで考えると万全とは言いがたいですが、高速域で車体がヨレる/真っ直ぐ走らないなどという車両を点検すると、前後タイヤとフォークのエア圧が適正値以下になっていたり、ステムベアリングにガタが生じていたりというケースが非常に多いです。だからウチが開発したフレーム補強ユニット/スタビライザー/ステムなどを使用するのは、完全整備後の乗り味を体感してからでいいと思いますよ」

現役時代ほどの過激さはなくなったようだが、VMAXユーザーはカスタム好きが多く、取材時のライトアームに入庫していた車両も、ほとんどが何らかの仕様変更が行われていた。

「カスタムの一番人気は、補修を兼ねて行うリヤショックの変更で、その次はブレーキの強化。エンジンはノーマルが主流ですが、Vブーストは好みの回転数で楽しんでいる人が少なくないですね。それ以外だと、点火系の強化を図るイグニッションリレーや、ヘッドライトの光量アップ、前後ホイールの軽量化などがウチでは定番になっています。いずれにしても現代のVMAXユーザーは、運動性能の向上というより、長く乗ることを前提にしてカスタムを楽しんでいると思います」

これからVMAXを購入しようと考えている人に、矢田氏はどんなアドバイスをするのだろうか?

「販売店で買うにしてもネットオークションで探すにしても、普通のライダーが中古車のコンディションを見極めるのはなかなか難しいはずです。だから購入時に注意するのは、売り主の人柄…ですかね。その人がどのくらいVMAXの知識を持っているのか、どんな整備をしてきたのかを聞いてみれば、車両のコンディションも自ずと理解できるんじゃないでしょうか」

もちろん、そのあたりに気を遣って購入しても、ハズレを引く可能性はあるだろう。事実、ライトアームには重整備が必要なVMAXが持ち込まれることも多いのだが、耐久性の高さや補修部品の状況を考えると、このバイクを楽しむためのハードルは、’80年代生まれのビッグバイクの中では、かなり低いほうではないかと思う。

【ツボを押さえた仕様変更で軽快なハンドリングを実現】ゼッケンプレートの装着とショートテール化が行われた矢田氏の愛車は、AMAフラットトラックレーサーを思わせる雰囲気。前後17インチのアルミ鍛造ホイールはゲイルスピードで(リヤはセンター出し加工を実施)、タイヤはダンロップα-14を選択する。シートはデイトナ、リヤショックはナイトロンで、ステップはヤマハ純正部品の混成品。Vブーストの作動回転数は任意で調整できる。

VMAXおすすめモデル:年式や仕向け地よりコンディションを重視

VMAXを購入するとなったら、誰でもフルパワー仕様が欲しくなるものだろう。しかしながら矢田氏は、仕向け地や最高出力に極端にこだわる必要ない、と考えているようだ。「今の時代にVMAXを買うなら、馬力よりコンディションを重視したほうがいいと思いますよ。もちろん、年式が新しくて程度のいいフルパワー仕様が見つかればそれがベストですが、135psの’06/’07年型や97psの日本仕様でもフルパワー化は可能です。あえて私のオススメを挙げるなら、熟成が進んで精度が最も高かった’99/’00年型ですが、それも絶対というわけではありません」

なお実際にフルパワー化を行う際は、’06/’07年型はカムシャフト、日本仕様は吸排気系と点火系の見直しが必要になるとのこと。

【’93 YAMAHA VMAX 3UF(日本仕様)】日本仕様の最大の特徴はVブーストシステムを採用していないこと。190km/hメーター/速度リミッター/ファイナルギヤなどは専用設計で、‘95年以前は規制対応用のシートベルトを装備していた。

【’07 YAMAHA VMAX 5GK】最後のVMAX1200となった’07年型。最高主力を除くスペックは’93年型からほとんど不変。日本市場での販売価格は106万9200円(税抜99万円!!)だった。

メンテナンスコスト

  1. コンディションレベルチェックパック:3万6850円
  2. キャブレター脱着+分解/点検:5万5000円
  3. ステムベアリング交換:3万6850円
  4. フロントフォークオーバーホール:2万4750円(※以上、金額は税抜)

キャブレターの調整&同調と車体各部の締め付けトルク確認は行うものの、コンディションレベルチェックパックは今後の整備の指針を決定する作業で、受診したら即座に絶好調…というわけではない。表内に記したステムとフォークは、何らかの問題を抱えている個体が多いそうだ。


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