ハーレーダビッドソンは、同社初のアドベンチャーツーリングモデル「パンアメリカ1250/スペシャル」の国内予約受付を開始。このニューモデルに搭載される新設計エンジンは挟み角60度のV型2気筒で、30度位相のクランクピンや可変バルブタイミング、2つのバランサーなどを備えているというが……。
コンパクトな挟角V型ツインに位相クランクピン……この組み合わせは…ッ!
ハーレーダビッドソンが同社初となるアドベンチャーツーリングモデル「パンアメリカ1250」および「パンアメリカ1250スペシャル」を国内発売する。すでに予約受付を開始しているが、この新しいモデルのコンセプトを実現した完全新設計エンジンの技術には、思った以上に見どころがたくさんあった。
なにより大きなトピックは、クランクピンを30度位相とした挟み角60度のV型2気筒である点だろう。ハーレーお得意の45度Vツインではないが、エンジン前後長の短縮に有効な60度という挟み角にとどめ、2気筒のクランクピンを30度位相とすることで、90度Vツインと同じ点火間隔としているのがポイントだ。
位相クランクのVツインを搭載したアドベンチャーマシンといえば……そう、ホンダが1988年に発売したアフリカツインを思い出さずにはいられない。
もともとは1986年~1989年にパリ・ダカールラリーを4連覇したワークスマシン「NXR750」が挟み角45度+90度位相(135度V相当=225/495度点火)のV型2気筒エンジンを搭載していたことに遡れるのだが、1988年に発売された市販車のアフリカツインは647ccの52度V型2気筒SOHC3バルブのエンジンを搭載しており、これも“バランサーなどを使わずにエンジン振動を低減させる”としてホンダ独自の位相クランクを採用していた。さらに遡れば、アメリカンスタイルのNV400カスタムも同様の399ccエンジンを搭載していたが、ほかにもホンダは52度Vツインを数多くの市販車に採用しており、機種によって数タイプの位相角としたクランクを使用したり同軸としたり、といったアレンジを加えて作り分けていた。
挟角Vツインの強みといえば、エンジン前後長を短縮でき、車体への搭載位置の自由度を増し、前輪分担荷重も稼ぎやすいことだ。スイングアーム長を増すこともできる。一方で、大きな1次振動が起こりやすく、振動に耐える強度を各部に備えるか、またはバランサーを装備することでこれをキャンセルする必要がある。
この1次振動をキャンセルするのに最も有効なV挟み角は90度とされるが、挟角V+位相クランクによって同様の特性を得ることもできる。もちろん不等間隔爆発ゆえ、トラクション性能にも優れる。
余談にはなるが、これと同様の特性を並列2気筒で実現するのが270度クランクで、これも90度Vと同じ270/450度の点火となるのが特徴。ただし、並列2気筒の場合はクランクピンを共有しないことからカップリング振動が大きくなるという欠点があり、バランサーの装備がほぼ必須となる。カムシャフトなどを左右の気筒で共有できることからコンパクトかつ部品点数が少なくなり、またコストパフォーマンスにも優れ、現在はこのタイプのエンジンを搭載するモデルが国内外を問わず増えてきている。
挟角V+位相クランクは、通常のVツインのようにクランクピンを共有しない点で並列2気筒270度クランクと似ていて、やはりカップリング振動は出る。しかし、90度Vほどではなくとも並列2気筒に比べれば左右幅が狭いという利点を享受できる。いいとこ取りとも言えるし、折衷案とも言える、なかなかに興味深いエンジンなのだ。
こうしたコンセプトをハーレーダビッドソンが改めて見直し、現代の最新技術で開発してきた点が面白いのである。
ハーレーダビッドソン「レボリューションマックス1250(Revolution Max 1250)」エンジン
ハーレーダビッドソンが完全新設計した水冷Vツインのレボリューションマックス1250は、オフロードライディングにも適したローエンドトルクと幅広いパワーバンドを持つ、ハーレー期待の新世代エンジンだ。ボア×ストロークは105×72mmの1252ccで、最高出力152ps/8750rpm、最大トルクは13.06kg-m/6750rpmを誇る。
前述のように挟角60度に30度位相のクランクピンを組み合わせており、コンパクトでありながらシリンダー間にスペースを保ち、デュアルダウンドラフトのスロットルボディを採用。デュアルスパークプラグも備えるほか、エンジン自体が剛性メンバーとして完全に車体構造の一部を担っていることで、コンパクトなフロントフレーム技術の採用を可能としている。これにより、大幅な軽量化と高剛性な車体を両立した。
水冷システムはエンジンオイルを液冷することも可能としており、さまざまに変化する環境やライディングパフォーマンスの中でも、一貫したパフォーマンスを発揮するようにつくられている。クーラントのドレーンプラグは、グラウンドヒットによる損傷を防ぐように凹んだ位置にあり、さらにフットペグで保護されている。
ピストンはアルミ鍛造品で圧縮比は13:1。オクタン価91以上のプレミアムガソリンを必要とするが、高度なノッキングセンサーにより低オクタン価の燃料でも壊れずに作動することができる。オイルによる冷却ジェットはピストン底面に向けられ、燃焼熱を放散するのに役立っている。
DOHC4バルブのシリンダーヘッドには、吸気/排気に独立した可変バルブタイミング(VVT)を備え、広いパワーバンドを約束。ECUの制御により、吸気側カムシャフトと排気側カムシャフトのタイミングを個別に進角させたり遅角させたりでき、その調整幅はクランクシャフトの回転角で40度に相当するものだという。また、エンジン停止にはVVTが吸気カムを完全に遅らせ、排気カムを完全に進角させて圧縮を減らし、始動を容易にする。バルブ駆動部には油圧式ラッシュアジャスターとローラーフィンガーバルブを備えており、エンジン熱が変化してもバルブとバルブアクチュエーターの当たり面に変化が出にくい。
オイル循環システムはドライサンプで、オイルの攪拌抵抗を低減するとともにトリプル(クランクケース、ステーターキャビティ、クラッチキャビティ)でスカベンジポンプを備え、常に安定したエンジンオイル供給を行う。また、オイルポンプはクランクケース内を負圧に保つように作動し、フリクションロスの低減にも貢献している。
プライマリーバランサーはクランクケース内に配置され、1次振動とカップリングによる左右の不均衡な振動を低減。セカンダリバランサーはフロントシリンダーヘッドのカムシャフト間にあり、プライマリーバランサーを補完する。いずれも振動を消し過ぎず、モーターサイクルが“生きている”と実感できるだけの鼓動感を残しているという。
クラッチはアシストスリッパータイプ。6速ミッションを含む各ギヤは、騒音振動を最小限に抑えるカスタム設計のシザーギヤだ。
レボリューションマックス1250は、吸排気の両方にVVT機構を備えるなど最新の設計で、ハーレーファンのみならず大排気量ツインを好むユーザーにも強く訴求していきそうなニューエンジンだ。試乗レポートをお送りできる日が楽しみでならない。
HARLEY-DAVIDSON PAN AMERICA 1250[2021 model]
【HARLEY-DAVIDSON PAN AMERICA 1250[2021 model]】主要諸元■全長2265 最低地上高210 軸距1580 シート高890(各mm) 車重245kg(装備)■水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ 1252cc 152ps/8750rpm 13.06kg-m/6750rpm 変速機6段 燃料タンク容量21.2L■タイヤサイズF=120/70R19 R=170/60R17 ●価格&色:231万円(ビビッドブラック)、233万9700円(リバーロックグレー) ●予約受付中
HARLEY-DAVIDSON PAN AMERICA 1250 SPECIAL[2021 model]
【HARLEY-DAVIDSON PAN AMERICA 1250 SPECIAL[2021 model]】主要諸元■全長2265 最低地上高175 軸距1580 シート高830(各mm) 車重258kg(装備)■水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ 1252cc 152ps/8750rpm 13.06kg-m/6750rpm 変速機6段 燃料タンク容量21.2L■タイヤサイズF=120/70R19 R=170/60R17 ●価格&色:273万1300円(ビビッドブラック)、276万1000円(ガントグレーメタリック、デッドウッドグリーン)、278万6300円(バハオレンジ×ストーンウォッシュホワイト) ●予約受付中
ディテール&走行写真ギャラリー
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