グレシーニさん、安らかに

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.51「マシンの合う、合わないは最初の瞬間に分かる


TEXT:Go TAKAHASHI PHOTO:HRC ※タイトルカットはホルヘ・マルティン選手がタイトルを獲得した2018年。右がグレシーニさん。

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第51回はファウスト・グレシーニさんを追悼するとともに、’21シーズンについて。

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ライバルチームのオーナーであり、可愛がってくれた人でもある

MotoGPファンの皆さんならもうご存知のことと思いますが、2月22日、ファウスト・グレシーニさんが新型コロナウイルス感染症によって亡くなってしまいました。まだ60歳。信じられませんし、残念で仕方ありません。心からご冥福を祈ります。僕自身も新型コロナウイルスにやられた身なのでまったく他人事ではなく、大きなショックを受けています。

元GPライダーであり、125ccクラスでは2度のチャンピオンを獲得しているグレシーニさんですが、僕との間の接点はやはりチームオーナーになられてからです。僕にとっては、強敵だった大ちゃん(註:加藤大治郎さん)を擁するチームのオーナーさんなので、ライバルだったことになります。でもグレシーニさんご自身はとても優しい方で、パドックでもよく声をかけてくれて、「ウチのホスピタリティブースでご飯を食べて行きなよ」なんて誘われることもありました。

原田さんを打ち破り、2001年シーズンのWGP250ccクラスチャンピオンとなった加藤大治郎さん。ライダーの右で両手を上げているのがグレシーニさんだ。

自身もライダーとして、125ccクラスで2度の世界チャンピオンになっている。

‘20年末から入院とのことで、容態が悪化したとか好転したなどいろいろな情報が錯綜し、僕も心配していました。’21シーズンに向けていよいよ始動、というタイミングでの逝去は、多くの方々はもちろん、何よりもグレシーニさん本人が悔しくて仕方がないはずです。

チームがどんな判断をするのか今の時点では分かりませんが、僕個人としてはぜひグレシーニさんの遺志を継いでレース活動を続けてほしいと願っています。彼は絶対にレースを続けたかったでしょうからね……。

さまざまな思いが交錯するなか、MotoGPは開幕へと動き出している

僕も新型コロナウイルス感染症から徐々に回復して、今は子供たちの学校が休みなので、移動が許されているイタリアの別荘に来ています。山道を散歩しながら体力を戻そうとしていますが、地域は夜間6時以降の外出が禁止されていたり、コロナ禍が収束しつつあるという雰囲気はまだなく、ものものしい緊張状態が続いています。

僕はいったんかかったので抗体があるのだと思いますが、「早い人は3ヶ月ぐらいで抗体がなくなる」とか、「いや、半年は大丈夫だ」とかいろんな情報が飛び交っていて、何が本当か分かりません。解明されていないことがとても多いウイルスなので用心に越したことはないかな、と、日々の暮らしの中でもかなり気を使っています。

MotoGP関係者に亡くなった方が出てしまったのは本当に残念で悔しいことですが、レースはきっと開催されるでしょう。大きなイベントの開催はまだまだ難しい面があると思いますが、去年開催した実績のあるMotoGPは今も準備が進んでいます。これ以上悲しいことが起こらないようにさらに細心の注意を払いながら、無事にシーズン開幕を迎え、無事にシーズンが閉幕することを祈るばかりです。

深い悲しみの中、開幕することになるMotoGPの’21シーズンですが、テストも行われていない現時点では、どんな勢力図になるかまったく分かりません。ただ、開発が厳しく制限されていますので、’20年と大きな変化はないでしょう。そう考えればスズキとジョアン・ミルが有利なのかなあ、とは思いますが、こればっかりは……。移籍組も多いので、まったく読めない部分があります。せめて1回でもテストが行われていれば……。

自分に合うマシン、好みのマシンは、だいたい最初からいい印象を持つものです。逆に、初乗りで「合わないな……」と思うと、シーズンを通して苦労することが多い。テストですべてが分かるわけではありませんが、フィーリングが自分好みだといいタイムを出そうと思っていなくても出てしまう、ということがあるんです。

僕の場合は、マシンにまたがってピットロードを走り出した瞬間に、自分の好みかそうじゃないかが分かります。ピットロードでマシンを軽く左右に振ると、それでだいたいのフィーリングが伝わってくるものなんです。

ヤマハからアプリリアに移籍した’97年、オーストラリアで初乗りしたんですが、あの時は「ヤバイ……」と思いました。キャスターが立ちすぎていて、後ろがやけに長く感じられ、「これはブレーキングで思うように突っ込めないし、寝かせられなさそうだぞ」と。実際、そのシーズンは3勝しか挙げられず苦戦しました。

翌年は自分の好みを入れてフレームを作り直してもらったら、開幕前テストからいきなり速かったんですよね。残念ながらエンジンがよくトラブルを起こしたし、皆さんよくご存知の最終戦でのクラッシュもありチャンピオンは逃しましたが、かなりいい走りができたシーズンでした。

体に染みついたクセを直すのは簡単じゃない

パッと乗った瞬間にいろいろ分かってしまうのも、実は問題です。ファクトリーマシンはセッティング幅が非常に広いので、あれやこれやいじりすぎてしまってドツボにハマることがあるんです。そうなるとライディングを変えるなどして対応するんですが、これがまた難しい(笑)。体にクセが染みついているので、そう簡単に走りを変えることはできません。子供のうちは遊び感覚で自由にいろんなトライができますし、体も思うように動くので柔軟にライディングを変化させられますが、大人になると頭も体も固くなるのでなかなか難しいんですよね……。

プロのレーシングライダーでさえそんな感じなので、一般の方も自分の走りを変えるのは相当に困難なことです。僕が常日頃からスクールなどに行くことをオススメしているのは、だからなんです。自分では自分のクセも分からないし、分かったとしてもそれを直すには外から見てもらい、何度も何度も反復練習をする必要があります。遠回りのようですが、習うことが一番の近道!

僕自身、トライアルを始めてつくづくそう思っています。自分ではまったく気付かないことを先生に指摘されて、「あっ、そうなんだ」と驚くことがたくさんあります。僕はプライドも意地も持たずに先生に教わった通りにできるタイプなので(笑)、得をしている部分はあるかもしれません。「なるほど!」と納得できるし、言われた通りにやれば間違いなくステップアップできますしね。ライディング上達の方法も人それぞれあると思いますが、僕のオススメは断然、いい先生に教わること。参考にしてみてください。

春はもうすぐそこ。3月になればF1モナコGPの準備も始まるようです。モナコGPは公道の舗装を部分的に張り替えるなどして準備も大規模。期間は約3か月、費用もかなりかかるそうなんです。別の工事をしている場所があると、いったんF1のためだけに舗装して、レースが終わったらまた舗装を剥がして工事再開、なんていうかなり贅沢なことも行われます。そんなF1も、MotoGPも、そして鈴鹿8耐も……。いろいろなモータースポーツイベントが今年もつつがなく開催されることを願ってやみません。


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