●文/写真:モトメカニック編集部(栗田晃) ●取材協力:アドバンテージ
バイクを速くするにはエンジンのパワーアップが必要で、速くなったマシンを止めるには高性能なブレーキが欠かせない。タイヤのグリップを受け止めリアショックの動きをフレームに伝えるスイングアームにも進化が必要だ。20年にわたりスイングアームを開発製造を続けるアドバンテージが考える、高性能スイングアームの条件とは?
より高まるスイングアームの重要性
タイヤのグリップが向上すれば、それまでは滑ることで逃げていた荷重が逃げなくなり、スイングアームが受け止めなくてはならなくなる。強度が不足していれば左右にねじれる。そこで強度や剛性の高いスイングアームが求められるようになっていく。
オンロード/オフロードの両面で最高峰のモータースポーツと接しているアドバンテージは、メイドインジャパンの高性能パーツにこだわりを持ち続けてきた。スイングアーム、なかでも2本ショック用となればレース界では需要もなく、開発自体に意味がないのでは? という気もする。
だがフットワークのプロショップという看板を掲げてブレーキやホイールを自社開発するアドバンテージにとって、足周りの重要パーツであるスイングアームだけ放っておくことはできなかった。
ピボット部分の精度追求に時効硬化への配慮は不可欠
アドバンテージが考える高性能スイングアームの必須条件とは”ピボット部分のベアリングのはめ合い精度”にある。左右のアームの剛性や形状に注目しがちだが、ピボットシャフトが真っ直ぐ通るよう同芯で加工できる機械と治具、さらに溶接治具が何よりも重要だという。
ピボット部分にはいくつもの溶接ポイントがあり、いくら気を遣っても歪みは発生する。それを前提に準備を行い、工程を組み立てることでどう歪みを抜いていくかが精度確保の鍵となる。
ここで重要なのが”時効硬化”である。時効硬化とは時間の経過とともに金属の材料特性が変化することで、アルミニウム合金は溶接時の加熱により性質が変わっていく。これを無視して溶接直後に寸法修正や加工を行えば、時間の経過とともに歪みが発生し、車体に組み付けた時にスムーズに動かないということにもなりかねない。
それを避けるには、治具に固定した状態で時効硬化を待つことが最善だ。味噌や酒ではないが、時間をかけてじっくり熟成して歪みを抜いた後に加工を行うことで、肝心要であるピボット部の動きは格段に良くなるそうだ。
厚みと形状を指定して鉄鋼メーカーにオーダー
もちろん素材も重要で、アドバンテージでは高強度溶接構造用合金の7N01を使用している。
このアルミニウム合金自体はバイクのスイングアーム用材料としてポピュラーだが、鉄鋼メーカーのカタログから選ぶのではなく、素材の厚みやデザインから自社で設計した目の字六角断面のオリジナル角パイプをオーダーメイドしているのが大きな特徴である。
当初はバイクメーカーの純正スイングアームを参考にしたが、材料となる合金の種類、安全マージンを大きく取った厚さ設定から、すぐに自社材料への切り替えを決断、軽さと性能を両立できる専用素材の開発に着手した。
レース用パーツを開発するアドバンテージには「頑丈だから重くても仕方ない」という思考はあり得ない。ホイールのイグザクトも同様だが、壊れて当然の薄さ/軽さから開発をスタートして軽くて壊れないパーツを開発する。重くて分厚いところから肉を削るのとはアプローチが正反対なのだ。
それゆえ、決して大量生産品ではないスイングアームも素材の設計を3度やり直している。製品のデザインではなく素材の設計変更というのが徹底している。
鉄フレームで空冷エンジンの絶版車用パーツでそこまでやらなくても……と思うかもしれない。だが足周りのプロショップを名乗る以上、中途半端な製品は作らないというプライドが、このスイングアームにも投影されているのだ。
材料も製法も進化を続ける現状最善のスイングアーム
見た目はシンプルだが素材と機能には絶対の自信を持つアドバンテージ。スイングアームは太くて剛性が高ければ良いというわけではなく、車種に応じたバランスが必要。GSX1100S、SR400、ゼファー1100、Z1、Z1000J/R、GPZ900R用があり、これ以外の車種も開発の予定がある。
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