カワサキの新世代“Z”を代表する「Z H2」は、ご存じの通りスーパーチャージャー付きの998cc並列4気筒を搭載するネイキッドバイク。これにトレリスフレームや最新の電子制御を組み合わせ、カワサキの美学で包み込んだ時……いったい何が起こるのだろうか。ラスベガスで行われた国際試乗会の模様を、スペインメディアのソロモトがレポートをお届けする。
●文:SOLOMOTO ●写真:KAWASAKI ●翻訳:編集部 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
カワサキZ H2は最上級のスーパーネイキッド、まさしくZの女王
電子制御をスポーツモードにセットすれば「Z H2」は寛容な性格を示し、200psのパワーを臆することなく楽しむことができる。高まった過給圧を抜くリリーフバルブから聞こえる囁くような音は、この素晴らしいエンジンに付属したサウンドトラックのようだ。
まさしく最上級! ほかにこのようなバイクはひとつもない。ドゥカティ、KTM、そしてMVアグスタがそれぞれのスーパーネイキッドの受注を開始し、そのうちドゥカティとMVアグスタのマシンは200psを超えている。2020年はスーパーネイキッドの年と言っていいだろう。しかし、それでもカワサキのようなバイクは他にないのだ。
Z H2は伝統的な美意識に則ったものではないし、数値の上で最も強力なネイキッドバイクではないかもしれない。しかし、過給エンジンとトレリスフレームは、他のどれよりも違いを生み出している。
我々は今、Zの女王の前にいる。スーパーチャージ用のプロペラを持ち、それこそが彼女を女王たらしめている。カウルを脱ぎ捨て、野心を隠そうともしない裸の彼女、それがZ H2だ。ラスベガスに降り立った我々は、まずこのカワサキの技術を結集した見本市のようなニューマシンについて学ぶことから始めた――。
とはいえ、この記事の目的は初めて触れたZ H2についてのインプレッションをお届けすることなので、技術的な内容について詳細に掘り下げることはしないでおこう。ざっくりハイライトだけを述べていくと、電子制御を完備(トラクションコントロールシステム、4つのライディングモード、コーナリングブレーキアシスタンス、カラーTFTスクリーン、スマートフォン接続システム、クルーズコントロール、上下対応クイックシフター、新しいピレリ製ディアブロロッソIII、1万2000kmの点検間隔などなど……。あとは写真やスペック表などで確認してほしい!
ラスベガスへGO!
今日が初めてのZ H2との出会いとなる我々のために、カワサキのスタッフたちはZ H2の可能性を十分に理解できるよう、3つの異なるシーンを用意してくれた。まず最初は、ラスベガスモータースピードウェイだ。
このコースは今日の機会のために設定された、異なる特性の12のカーブを持つ全長3.9kmのサーキット。一般的なロードトリップ(公道ツーリング的な走り)を想定したコース設定とされ、敏捷性やパワー特性、ブレーキング、その他のダイナミックな操縦安定性をテストできるようになっている。
このネイキッドの女王がサーキットを攻め立てるよう想定してつくられたバイクではないことには、けっして忘れてはならない。……いや、我々はすぐにそれを忘れた。
最初の走行ラウンドで、我々は、まるで時差ボケのせいで明日などないと錯覚したかのようにスロットルを絞り上げた。そしてZ H2は期待を超えた安定性を見せつけたのだ。
エンジンは素晴らしく官能的だった。サウンドが意外なほど静かなこともあって、リリーフバルブの音はいつでも耳元をくすぐるように届いてくる。スーパーチャージャーで過給された中速域のレスポンスはセンセーショナルと言っていい。1速で加速していくときの吹け上がりの最後のパンチは、フロントタイヤを路面に触れさせておくのに苦労するほどだった。
ライディングモードは4つ(スポーツ、ロード、レイン、ユーザー)あり、もっとも激しいスポーツモードであってもライダーに200psを楽しむことを許容してくれる。常に適切にコントロールされているからだ。
シャーシに話題を移そう。スチール製のチューブラートレリスフレームと両持ちスイングアーム(ほかのH2シリーズは片持ちだ)は十分な剛性を提供し、このパワフルなバイクに拍車をかけた際にも不必要に捩れてしまうことはない。サスペンションも十分に役割を果たしている。SHOWA製ビッグピストン倒立フォークはZ H2に間違いなく相応しいが、リヤのSHOWA製ショックも公正に見てちょうどいい。公道では少々ハードに感じたが、フルアジャスタブルのこのサスペンションならば調整するのに時間はいらないだろう。
ブレーキは適切に調整されたABSとともに完璧に働き、制動力も強力だ。ただし、車重は239kgあるので、カワサキのニンジャZX-10Rのように鋭く減速して曲がることについては、求めるのはお門違いというものだ。
NASCARも開催されるオーバルコースでバンクに挑む!
サーキットでのファーストコンタクトを終え、我々は同じラスベガスモータースピードウェイ内にあるオーバルコースへと向かった。20度の傾斜がつけられたカーブは長さ2.4kmというクレイジーなもので、ストレートでさえ9度~12度の傾斜がついている。いや、直線はなく、これは楕円形ということか。
カーブの出口では、遠心力によってアウト側の壁に向かって押し出されていくため、スロットルを絶妙にコントロールしなければならないそうだ……。しかし人生は一度しかない。何事も経験だ。
ガソリンを与える。それこそが、Z H2が5速で265km/hに到達するのを確かめる唯一の方法だ。オーバルの曲がり込んでいる部分で6速に入れるのは賢明ではない。
265km/hの世界では、すべてのことがとても速く起こる。同じようなスピードであっても、サーキットであればバイクの挙動に対してどのようにリアクションすればいいのかはわかっているつもりだが、ここではあまりにもコンクリートウォールが近い。ラスベガス近郊にあるネリス空軍基地のパイロットは、このオーバルの上を飛んでバイクの走行ラインと同様に旋回する姿を見せてくれたが、彼らは一体何を考えて生きているのだろうか。
結果として得た真実は「首が痛くなる」ということだったが、とにかくスロットルを今までにないほど全開にすることの快感はセンセーショナルなものだった。装着されたピレリのタイヤについても、この大きな負荷に堂々と耐えたことに感心した。このテストは、バイクとタイヤに大きなストレスを与えるものだったからだ。
次の日、我々は『火の谷』というところを通る壮観なルートに案内された。そう、法規速度を守って走っていたため、壮観な景色を見ることができたのだ。Z H2はこのような場面ではフレンドリーであり、快適で操縦しやすく、方向転換も機敏。それを可能にしているのは、簡単にトルクを発生するエンジンだ。
こうして我々はラスベガス近郊のストリートを走り回り、再びモータースピードウェイに戻ってきて、最後にこのユニークなバイクを返却した。同じようなことができるバイクはほかにもあるだろうが、200psの過給機付きエンジンにトレリスフレームを組み合わせたZ H2のような体験をもたらすマシンはほかにない。あとは価格の公式発表が待たれるが、およそ1万8000ユーロ程度であることが予想できる。 ※日本仕様のYM予想価格は199万円前後、予想発売時期は2020年5月頃
さて、結論をまとめるとしよう。
【良い点】
なんといってもエンジン。電子制御は完璧で、スムーズでありながらとても強力だ。車体もバランスが取れている。
【うーん……】
今回のインプレッションではテイストについて触れてはいないが、Z H2のの「SUGOMI」デザインの顔は強烈なのに対し、エンジン音はやや控えめすぎるかもしれない。
【街乗り】
ライディングポジションのおかげで快適だ。175cmのライダーは足着きにも困らなかった。重低音サウンドは心地好い。イージーに乗りたいならレインモードがおすすめだ。
【郊外の道路】
楽しみに満ちたエンジンは、電子制御のおかげで200psを臆せずエンジョイすることができる。方向転換のしやすさは上品ですらある。
【高速道路】
基本的に退屈だ。そのエリアの法規が許すならば、その退屈から逃げたくなるだろう。ラスベガスの合法的な速度(110km/h程度)ではシルクのように上質なクルーズ感があり、メーターパネルの「ECO」ランプは点きっぱなしになるはずだ。
【サーキット】
Z H2の本来の生息地ではないが、ネイキッドで車重が239kgあることを忘れなければ、その潜在能力を発見することはできるだろう。
KAWASAKI Z H2[2020]
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