
2012年に公開された007映画「スカイフォール」に登場したボンドカーは、ジェームズ・ボンドの愛車としてもっとも人気のあるアストンマーティンDB5でした。ストーリーの展開にふさわしいのはDB5しかない、と誰もが納得したはずです。が、当のアストンマーティンは(もしかしたらロータスも)心中ほぞを噛む思いだったかもしれません。というのも、同映画の製作中に発表した限定モデルを、どうしても007に乗ってほしかったのだそうです。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherbys
7.3リッターとなる心臓部はコスワースがカスタマイズ
今でこそアストンマーティンの限定車はさほど珍しくもありませんが、2000年代初頭、すなわちフォード傘下から放り出された頃の彼らにとってスペシャルモデルの開発は大きなリスクを伴う作業だったに違いありません。
開発予算はもちろん、技術的リソースにしても十分だったとはいえず、数多くのパートナー企業抜きには成しえなかったはず。
それでも2008年のパリサロンで、アストンマーティンOne 77の発表に踏み切ったのは、資本参加していたデビッド・リチャーズ(ラリーで有名なプロドライブの創設者)による強い意向があったとされています。
とはいえ、One 77のデリバリーは3年後の2011年から。このスローペースは開発だけでなく、限定車らしい高度で複雑な生産技術など、さまざまな苦労があったことが窺えます。
One 77の大きな特徴として挙げられるのが、それまでの最大エンジンである6リッターV12エンジンを7.3リッターまでスープアップしたこと。そもそもはフォードとの共同開発で作られたハイパワーユニットでしたが、これをコスワースが大幅にカスタマイズしています。
ベースから変わっていないのは60度のバンク角ぐらいなもので、各パーツの材質はもちろん、サイズまで小型化されています。
発生回転数は未公表ですが、最大出力760ps、最大トルク76.5kgmは自然吸気エンジンとしてはトップクラスであり、さすがコスワースとため息が漏れるほど。
新車価格1億6000万円だったアストンマーチンOne 77。発売から15年あまりがすぎても、その価値は下がるどころかプレミア化しています。
シャーシはカーボンを使いつつ、あえてボディは伝統あるアルミ製。車重1500kgから、0-96km/h:3.5秒というパフォーマンス。
コスワースによって6リッターから7.5リッターに拡大されたV12エンジン。同時に小型化もなされ、フロントミッドシップだと見える部分も少なめ。
シャーシはレーシングカーと等しい手法で構築
6リッターユニットより25%も小型化されたエンジンはフロントスカットル深くに据えられ、いわゆるフロントミッドシップを実現。このパッケージを活かすために、全長4601mmに対してホイールベースは2791mmと、どうにかスポーツカーらしいレイアウトを確保しています。
アストンマーティンはこの頃からフロントミッドシップにこだわり、DB11や現行ヴァンテージなどもエンジンはフロントスカットルにこれでもかと食い込ませています。
V12エンジンに続き、レーシングカーと等しい手法で構築されたシャーシも限定車にふさわしいもの。カーボンコンポジットのワンピースシャーシはアメリカのマルチマチック社に委ねられたのですが、同車はOne 77の後もヴァルキリーにもカーボンシャーシを納入するなど定評あるファクトリーです。
ちなみに、太客はやっぱりフォードで、GT40(3代目)やマスタングGT3も彼らのシャーシで好成績を残しました。
レーシングカー並みと称されるのは、4輪ともインボードサスペンションが選ばれており、先のフロントミッドシップと相まって、サルーンとは信じがたいスタビリティを発揮しているとのこと。
リヤについては、カーボンのフレームからダンパーをチラ見せするなどなかなかレーシー、かつ所有欲を誘うチャーミングな設計です。
ただし、それまでのアストンマーティンをしっかり受け継いだボディはアルミ製で、スーパーレジェッラ(超軽量)製法を踏襲。今なら、シャーシと同様にカーボンとなりそうですが、あえてのアルミボディはアストンマーティンのこだわりに違いありません。
古くはバンパーにステンレスを使うなど、彼らの素材選びはちょっとクセがあるのです(笑)。
0-96km/h加速は3.5秒、最高速354.86km/hを記録!
当然、パフォーマンスも強烈で、0-96km/h加速は3.5秒、最高速は322km/hと公称され、2009年12月に行われた開発テストでは最高速354.86km/hを記録(最高速テスト中は空力抵抗に対する特別な措置が施され、市販車とは異なる仕様となっていたことが考えられます)。
また、前述の通り77台の限定車はすべて完売していますが、このうち1台はドバイがパトカーに採用しています。同国は他にもアストンマーティンやランボルギーニのパトカーがあることでも有名ですね。
さて、登場から15年余りを経た今、オークションでの価格を見てみると130~160万ドル(約1億9000万~2億3000万円)と、新車時の1億6000万円にプレミアが加味された様子。
当たり前といえばそれまでですが、新生アストンマーティンの限定車としては「強気な値付け」だと専門家筋は見ているようです。
デザイナー名は公表されていませんが、しっかりとアストンマーティンのスタイルを踏襲しつつ、マッシブな新世代を表現しています。
このラジエーターキャップの造作を見れば、いかにも特別仕立てであることが分かるはず。イギリス人はこういう演出がとても上手です。
ドバイでパトカーとして使われているOne 77。パレード用ではなく、実際にハイウェイで取り締まりに供されているとのこと。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(自動車/クルマ)
1903年以降、ナンバーはずっと使い続けることができる英国 ナンバープレートがオークションなどの売り物になること、じつはイギリスではさほど珍しいものではありません。 イギリスでは一度登録したナンバーを[…]
目論見が大成功、ギネス級の生産台数を誇る初代 フォルクスワーゲンの初代ビートルはご承知の通り、ドイツの「国民車」として第二次大戦中にフェルディナンド・ポルシェ博士が設計したクルマ。 戦後は国内のみなら[…]
【フェラーリ F40】?! スペチアーレといいながら、400台限定が最終的には1352台(諸説あります)もロールアウトしたF40。ですが、最強で最速の棺桶とあだ名されたほど事故が多いクルマで、現存台数[…]
注目RCブランドが名車を忠実に再現 「WPL JAPAN」は、森林や岩場などの悪路を走破できるスケールクローラーRCを展開するRCカーブランド。 通常は高額なスケールクローラーを、すぐに遊べるRTRセ[…]
伝説の始まり:わずか数か月で大破した959 1987年11月6日、シャーシナンバー900142、ツェルマットシルバーの959はコンフォート仕様、すなわちエアコン、パワーウィンドウ、そしてブラックとグレ[…]
最新の関連記事(YMライフハック研究所)
お風呂やシャワーを怠ることは「こりの重症化」の原因に? ピップエレキバンシリーズで知られるピップ株式会社が今回実施した調査によると、季節問わず、仕事や勉強で疲れたり時間がない等の理由で、ついお風呂やシ[…]
「CW-X」と大谷翔平選手が“挑戦する人”を応援 本プロジェクトは、“挑戦する人”を応援したいと考える「CW-X」と大谷翔平選手が共同で企画。大谷選手も愛用する[ボディバランスアップタイツ]約5000[…]
1903年以降、ナンバーはずっと使い続けることができる英国 ナンバープレートがオークションなどの売り物になること、じつはイギリスではさほど珍しいものではありません。 イギリスでは一度登録したナンバーを[…]
目論見が大成功、ギネス級の生産台数を誇る初代 フォルクスワーゲンの初代ビートルはご承知の通り、ドイツの「国民車」として第二次大戦中にフェルディナンド・ポルシェ博士が設計したクルマ。 戦後は国内のみなら[…]
【フェラーリ F40】?! スペチアーレといいながら、400台限定が最終的には1352台(諸説あります)もロールアウトしたF40。ですが、最強で最速の棺桶とあだ名されたほど事故が多いクルマで、現存台数[…]
人気記事ランキング(全体)
3気筒と変わらない幅を実現した5気筒エンジンは単体重量60kg未満! MVアグスタはEICMAでいくつかの2026年モデルを発表したが、何の予告もなく新型5気筒エンジンを電撃発表した。その名も「クアド[…]
未塗装樹脂の白ボケ原因とツヤを復活させる方法 黒かったものが白っぽくなってくると古臭く見えてしまいます。…いいえ、「白髪」ではなくて「黒樹脂(未塗装樹脂)パーツ」のオハナシです。 新車の頃は真っ黒だっ[…]
冬ツーリングを快適に! デイトナの防寒アイテム デイトナ(Daytona) 防風インナー バイク 冬 防寒 ハーフジップ ウェア DI-001FA ブラック Mサイズ 31948 [デイトナ] バイク[…]
APトライク250って高速道路で通用するの? チョイ乗り系トライクとして知られるAPトライク125は、125ccという排気量ながら「側車付き軽二輪」という区分のおかげで高速道路を走れます。しかしながら[…]
スマホを固定しながら充電まで。カエディアのバイク用充電スマホホルダー Kaedear(カエディア) バイク スマホホルダー デビルホーン 充電機能付き Kaedear(カエディア) バイク スマホホル[…]
最新の投稿記事(全体)
距離もブランドも関係なし!50人同時通話を実現 EVA Rモデルは、EVANGELION RACINGをモチーフとした特別デザイン(初号機A/B、2号機A/Bの全4モデル)をまとい、ナイトランでも存在[…]
防寒着に求められる3要素を網羅 真冬のバイク乗りにとって、防寒は死活問題だ。アウターで風を遮断しても、その内側、つまりミドルレイヤーやインナーの選択次第で、ツーリングの快適度は天と地ほど変わってしまう[…]
QIK-MESH2.0で繋がり続けるインカム体験 H6は、従来の直列式インカムのように前後の並び順に依存しない通信方式を採用している。QIK-MESH2.0により、グループ通話中に隊列が乱れても通信の[…]
APトライク250って高速道路で通用するの? チョイ乗り系トライクとして知られるAPトライク125は、125ccという排気量ながら「側車付き軽二輪」という区分のおかげで高速道路を走れます。しかしながら[…]
高額モデルが多いドライブレコーダーはブラックフライデーで賢くアップデート MAXWIN バイク用 スマートモニター ドライブレコーダー Kaedear (カエディア) バイク ドライブレコーダー バイ[…]
- 1
- 2










































