
回転部や摺動部の部品表面に対し、高速で微粒子を打ち付けることで表面を改質して、さまざまな効果をもたらすWPC処理。レースやモータースポーツでの性能向上や省エネカーの燃費向上に加えて、旧車や絶版車界からの注目も高まっている。WPCをはじめとした表面処理の種類/利点/利用方法について、サンデーメカニックの窓口となるJAMSで尋ねた。
●文/写真:モトメカニック編集部(栗田晃) ●外部リンク:JAMS
WPC:性能アップだけでなく、故障予防や延命にも効果のある表面処理
エンジンカスタムやチューニング好きなサンデーメカニックにとって、WPC処理の窓口としておなじみだったのがNE(エヌ・イー)。さまざまな業務を行う同社からWPC事業を移管し、スタートしたのがJAMS(ジャムス)である。
微粒子メディアを高速で金属表面に打ち付けることで、表面改質を行うWPCは、1990年代終盤に登場した表面処理技術である。
微細な凹凸(マイクロディンプル)によりオイル保持性が向上し、フリクションロス軽減と耐摩耗性をアップするとともに、一種の焼き入れ焼きなまし効果による強度アップ、圧縮残留応力の付加による疲労強度の向上も実現。
この技術を土台に、潤滑性の高い二硫化モリブデンを打ち付けることで、低摩擦効果が持続する二硫化モリブデンショットや、二硫化モリブデンに高温安定固体潤滑ナノ粒子を添加することで、高温高回転域での摩擦低減に効果のあるハイパーモリショットが登場。
あらためて言うまでもなく、これらの技術はモータースポーツ界で実績が積み上げられ、レース界の必須技術となっている。エンジンチューニングで1馬力アップするより、フリクションロスで失った1馬力をWPCで引き出す方が、安全かつリーズナブルだからである。
そうした“勝つためのWPC”とともに、今後は“予防や延命のためのWPC”も推していきたいというのが、JAMS代表・村田伸介さんの考えだ。
自らもライダーである村田さんは、バイク/クルマを問わず、絶版車や旧車の盛り上がりを実感している。車両を維持するには、メンテナンスや補修部品がカギとなるのは確かだが、同時に今、エンジン内で動いている部品を長持ちさせることも重要だ。
表面硬度アップ/摺動性向上/フリクションロス低減というWPCのメリットは、すべて絶版車や旧車にとっても有効なのだ。
「速く走るレースで認知度が高まりましたが、じつは、ゆっくり走る/寿命を伸ばすのもWPCの得意分野です」と話す村田さん。大切な愛車に乗り続けるために、WPCをはじめとした表面処理を取り入れてみてはいかがだろうか?
インナーチューブやサスペンションロッドのフリクションロスも軽減できる
WPCは車体パーツにも効果がある。インナーチューブやダンパーロッドの硬質クロームメッキをWPC処理することで、表面にできる微細なディンプルが、空気溜りとなってオイル漏れを防ぎ(ラビリンスシールと似た効果)、オイルシールリップと点当たりとなることで摺動抵抗が低下して、ストローク初期の動き出しが改善される。サビがある場合は、再メッキの手配も行う。サスペンションを分解して、インナーチューブ/ロッド単品で依頼する。
エンジン内部の処理に適したWPC/ハイパーモリショット
「一度効果を体感すると、『次はこの部品、その次は…』と、片っ端から処理を依頼されるお客さんも少なくありません」と言うほど、WPC処理によるフリクションロス低減は大きい。
エンジンノイズの減少/スロットルレスポンスの向上/シフトタッチの改善など、マイクロディンプルがもたらす効果は、ありとあらゆる部品に通用する。二硫化モリブデンに固体潤滑粒子を添加するハイパーモリショットも、高回転高出力型エンジンのフリクションロス低減に効果を発揮する。
その一方で、村田さんは「何でもかんでもではなく、これまでの経験から、部品ごとに効果のある処理方法を提案しています」とも言う。エンジンパーツなら、レース用なのか街乗りなのか、どのような回転域で使用するのかによって、最適な処理は変わってくる。
そうした打ち合わせを行う中で、ユーザーの希望を汲み取り、最善の仕上げを選択するのが村田さんの重要な役割でもある。
表面処理手配/内燃機加工手配をワンストップで行うJAMS
ユーザーから表面処理の依頼があると、宅配便などでパーツを受け取り処理前の検品を行うのは、NE時代と同じ。新品部品を相手にする施工業者と違って、JAMSでは絶版車や旧車の使用過程部品(中古部品)も数多く扱うため、表面処理が可能か否か、部品として使えるかどうかも入念にチェックしなくてはならない。
ひとりのユーザーでエンジン1台分のように部品点数が多い場合、パーツの種類や点数の管理も重要。今後は内燃機ショップ(井上ボーリング)とのタイアップにより、ボーリングやICBM加工とWPC処理の同時施工も積極的に行うそうだ。
ユーザーからすれば、内燃機加工と表面処理を一括で行オーダーできるため、手間が省ける。
ユーザーとともに良いバイクを作るお手伝いをします
【JAMS代表取締役 村田伸介さん】長きにわたってWPC処理に携わり、パーツごとの効果や効能を知るエキスパート。「今後は旧車イベントなどにも出展して、大切なバイクを長く楽しめるお手伝いをしたいです」と語る。手前はGS750ベース(!!)のビンテージモトクロッサー。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
バイクいじりの専門誌『モトメカニック』のお買い求めはこちら↓
モトメカニックの最新記事
整備部門に加えて塗装や磨き作業まで社内で行うエルオート。コンディションに応じた最善策で販売車両を製作できるのが最大の強み 数ある絶版車の中で頂点に君臨し続けているカワサキZシリーズ。人気車種ゆえ大物の[…]
メンテナンスで覚えて、カスタムで楽しむモンキー&ゴリラ 今回登場するのは、88ccにボアアップした初期型Z50J-IIIゴリラ(1978)。排気量アップに合わせてキャブセッティングを行う必要性があると[…]
作業環境を整えるアイテムが、ミスを減らして仕上がりを向上させる 塗装好きのサンデーメカニックといえども、整備で使う工具に比べて塗装関連の道具を使う機会は少ないはず。スプレーガンの置き場が定まらずひっく[…]
「失敗したかも…」を最小限に食い止めるアイテムも欲しい 最初から最後までトラブルなく進行すれば文句はないが、ペイントブースを使えない場合、ゴミが付いたり虫が飛んでくることもある。多くのサンメカが経験す[…]
塗装の仕上がりは段取り次第。作業前と作業後に必要な用品にも注目 塗装するパーツが小さなエンジンカバーなのか、ガソリンタンクなのかで、難易度や緊張感は異なるものの、作業に必要な道具には大差はない。エアコ[…]
最新の関連記事(メンテナンス&レストア)
論より証拠! 試して実感その効果!! 老舗カー用品ブランド・シュアラスターが展開するガソリン添加剤「LOOP」シリーズ。そのフラッグシップアイテムである「パワーショット」をさまざまなバイクやクルマに実[…]
マジックフォームとは? 「マジックフォーム」とは、シャンプーを泡状にして広範囲に噴霧する、プロのような洗車を自宅でも実践できるアイテムです。 泡噴射ができるフォームガン2種(蓄圧タイプ/高圧タイプ)と[…]
自分のミスではないアクシデントで運命を分ける空気圧! タイヤの空気圧は大事……わかっちゃいるけど、つい面倒でチェックが疎かになりがち。 しかし脅かすワケではないけれど、実は空気圧が適正に保たれていない[…]
メンテナンスで覚えて、カスタムで楽しむモンキー&ゴリラ 今回登場するのは、88ccにボアアップした初期型Z50J-IIIゴリラ(1978)。排気量アップに合わせてキャブセッティングを行う必要性があると[…]
かつてバイク乗りに親しまれていた「解体屋」文化 ボロボロのバイクが無造作に山に(比喩ではなく本当に山積み)なっていて、客は工具を片手にその山に登って部品を剥ぎ取ってきたり、バラした部品を集めてその場で[…]
最新の関連記事(メカニズム/テクノロジー)
そもそもボア×ストロークって? 最近ロングストロークという表現をみる。エンジンのピストン往復が長いタイプのことで、バイクのキャラクターを左右する象徴として使われることが多い。 これはエンジン性能で高い[…]
並列4気筒エンジン:ホンダ ドリームCB750Four(1969年) イタリアのOPRAというメーカーの空冷OHCが並列フォアの始まり。この技術の権利を同じイタリアのジレラが購入して、空冷&水[…]
[A] 前後左右のピッチングの動きを最小限に抑えられるからです たしかに最新のスーパースポーツは、エンジン下から斜め横へサイレンサーが顔を出すスタイルが主流になっていますよネ。 20年ほど前はシートカ[…]
もう走れるプロトがある! 市販化も明言だ 「内燃機関領域の新たなチャレンジと位置づけており、モーターサイクルを操る楽しさ、所有する喜びをより一層体感できることを目指している。走りだけでなく、燃費、排ガ[…]
カワサキUSAが予告動画を公開!!! カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサ[…]
人気記事ランキング(全体)
オーディナリーホワイトとアーティザンレッドの組み合わせ カブハウスのSNSでスーパーカブC125の新色が公開された。詳細は記されていないが、1958年以来の“Sシェイプ”デザインに新たなカラーデュオを[…]
Z1、GPz900R、Ninja ZX-9Rから連なる“マジックナイン”の最新進化系 カワサキは昨秋、欧州でZ750→Z800に連なる後継車として2017年に948cc並列4気筒エンジンを搭載したスー[…]
通勤からツーリングまでマルチに使えるのが軽二輪、だからこそ低価格にもこだわりたい! 日本の道に最適なサイズで、通勤/通学だけでなくツーリングにも使えるのが軽二輪(126~250cc)のいいところ。AT[…]
オイルの匂いとコーヒーの香り。隠れ家へようこそ。 56designが4月12日に奈良県奈良市にオープンさせる「56design NARA」。以前から要望が多かったという、同社初となる関西圏の新店舗だ。[…]
自分のミスではないアクシデントで運命を分ける空気圧! タイヤの空気圧は大事……わかっちゃいるけど、つい面倒でチェックが疎かになりがち。 しかし脅かすワケではないけれど、実は空気圧が適正に保たれていない[…]
最新の投稿記事(全体)
カワサキモータースジャパンは、2025年3月に開催予定の「第41回大阪モーターサイクルショー2025」「第52回 東京モーターサイクルショー」、4月に開催予定の「第4回名古屋モーターサイクルショー 」[…]
論より証拠! 試して実感その効果!! 老舗カー用品ブランド・シュアラスターが展開するガソリン添加剤「LOOP」シリーズ。そのフラッグシップアイテムである「パワーショット」をさまざまなバイクやクルマに実[…]
今回のテーマは、モーターサイクル史を振り返り、ヘリテイジモデルを中心に展示 今回の車両展示は、モーターサイクル史を振り返りながら、今に引き継がれている現代のヘリテイジモデルを中心にラインナップ。ベネリ[…]
マジックフォームとは? 「マジックフォーム」とは、シャンプーを泡状にして広範囲に噴霧する、プロのような洗車を自宅でも実践できるアイテムです。 泡噴射ができるフォームガン2種(蓄圧タイプ/高圧タイプ)と[…]
“つながる”機能搭載新の7インチTFTディスプレイほか変更多数 ヤマハが新型「トレーサー9 GT」を発表した。これまで上位グレード『GT+』の専用装備だった7インチTFTディスプレイを採用したほか、先[…]
- 1
- 2