
『ROYALENFIELD with MOTO junkie』として参戦した鉄馬初陣を2位で終えたコンチネンタルGT650レーサー。日本でコンチネンタルGT650がレースを走っている実績はなく、レーサー制作は試行錯誤。それでもHSRで長年レースを見て、数々のレーサーを制作してきた熊本のモトジャンキーの手により着々と進化した。今回はその詳細をお届けしよう。
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:ロイヤルエンフィールド ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム
小川勤(おがわ・つとむ)/1974年生まれ。1996年にえい出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在はフリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導も務める。
コンチネンタルGT650レース参戦記 連載第1回の記事・決意表明編はこちら
コンチネンタルGT650レース参戦記 連載第2回の記事・マシン軽量化編はこちら
コンチネンタルGT650レース参戦記 連載第3回の記事・鉄馬決勝編はこちら
コンチネンタルGT650のポテンシャルを検証
「コンチネンタルGT走るね〜」「このバイク、エンジンはノーマルなの?」「ベース車両+いくらくらいでできるの?」決勝を2位で終えた直後から、様々な質問をいただいた。
今回、僕たちは九州のHSRで開催された鉄馬のACT18(エア・クールド・ツイン=空冷2気筒の18インチ以上)クラスに参戦。この参戦にあたって、まずはカフェレーサースタイルを大切にしつつ、エンジンはノーマルで行こうと決めた。ロイヤルエンフィールドのレース活動は、世界に目を向けるとたくさんあるが、日本では皆無。それだけにレーサー制作は手探りで行うしかなかった。
レーサーを制作してくれたのは熊本のモトジャンキー。代表の中尾さんは長年HSRでのレースを見ているし、何台ものレーサーを制作してきている。とても心強い。
まずは第一段階の検証として、ノーマルのコンチネンタルGT650にピレリ製のファントム スポーツコンプRSを履いてテスト(詳しくはこちらで)を行った。ハイグリップタイヤを履いてどのような挙動を示すのか気になったが、ハリスパフォーマンス製の車体はどこまでも応えてくれる印象で、空冷648ccのパワーではスライドしそうな挙動もなかった。
ベースはロイヤルエンフィールドのコンチネンタルGT650。古き良き時代の英国を感じさせるカフェレーサールックが魅力。フロントカウルやアンダーカウルは本国で開催されているコンチネンタルGT650カップのものを使用。ブラックペイントはリバティロードに依頼した。
軽量化を進め、足まわりのセットを詰めていく
レーサー制作で困ったのは専用部品がないことだ。そこでステップとハンドルは京都のカスノモーターサイクルのアエラに依頼。もっともコストパフォーマンスの高い軽量化アイテムとなるリチウムイオンバッテリーはSHORAIに依頼した。その他は中尾さんのオーダーで開発は進められ、マフラーをワンオフで制作するなどしてノーマルから20kg以上の軽量化を実現。
モトジャンキー代表の中尾さん。足まわりから燃調や点火までなんでも相談できる。
2回目のテストをすると、サブコンを使って燃調などにも手を入れたコンチネンタルGT650レーサーは、ノーマルとは別物だった。カスタムやチューニングの効果が分かりやすいのもこのバイクの魅力だ。その後、サンタバイクの安東さんの協力を得て、燃調と点火をさらに詰めるなど、中尾さんは限られた時間の中でポテンシャルの追求を最後まで進めてくれた。感謝しかない。
もし、来年の鉄馬にコンチネンタルGT650で参戦してみたい方がいたら、今回のチューンの内容を参考にしてみていただきたい。もちろんここまでやらなくても十分楽しめるし、逆にエンジンチューン(アメリカのS&Sでは様々なキットを発売)などをしてさらなるポテンシャルを追求するのも楽しいと思う。
また、近年国産旧車の価格はとんでもないところまで上昇している。レースのベース車両に躊躇する気持ちになるのもよくわかる。でも、クラシカルな雰囲気でまだまだレースを楽しみたい方にも、車両価格が97万200円〜となるコンチネンタルGT650はオススメだ。
マフラーは軽量化とバンク角を考慮したクォーター製。機能とデザインを満たしたフルチタン製でワンオフ。15.84kgの軽量化を実現した。また、熱対策で大きめのオイルクーラーを装着。
サブコンはインドのレースダイナミック製。大分のサンタバイクの安東さんにシャシーダイナモをお借りして、空燃費を見ながら燃調や点火時期を合わせてもらい、約4psのパワーアップを実現。常用域では約10%パワーアップしている。ちなみに何十回もベンチで回したが、それほどタレる感じもなかったというから心強い。
抜群に楽しいマシンとの駆け引き
コンチネンタルGT650はチューニングでキャラクターを大きく変えていった。「ピュアモーターサイクリング」というロイヤルエンフィールドの原点は変わらないが、カスタムやチューニングの効果がわかりやすく、バージョンアップしていくたびにポテンシャルと楽しさを上乗せしていくのだ。
たしかにエンジンはそれほどパワフルでないし、車体も最新のスポーツバイクに比べたら重たいし、剛性もない。それでもスロットルを開ければ豊かなトラクションを発揮し、シャーシはライダーの操作を正確に感じとってくれる。もちろんサスペンションや姿勢などのセットアップは繰り返したが、前後タイヤのフィーリングもかなりわかりやすい。トリッキーなHSRのレイアウトに比較的早く順応できたのも、ライダーを急かさないこのバイクの特性が大きいのだと思う。
走行フィーリングに硬さや難しさはなく、ウエットでもドライでも鉄フレーム+空冷ツインエンジンならではの大らかさと気持ちよさに溢れている。手に追えないスペックではないからスロットル全開が楽しいし、少しずつ自分のスキルを試し、しかもその時のフィードバックがわかりやすのもよかった。もちろんこれはコンチネンタルGT650だけの特性でなく、レーサーを仕上げてくれたモトジャンキーのノウハウの賜物である。
2024年は今回記録した1分14秒876のタイム更新と、少しでもいいからコンチネンタルGT650(もちろんINT650でも可)仲間が増えると良いなぁと思っている。
コンチネンタルGT650レーサーの詳細を見ていこう
ステップは京都のカスノモーターサイクルが手がけるアエラ製。まだプロトタイプだが、製品化を狙って開発中。本国のGTカップで使用しているハリス製も試したが、小柄な僕には少し低い感じだった。ドライブスプロケットのカバーは中尾さんのワンオフ。軸受部にはベアリングも導入。ファイナルは少しだけロングにして6速を使わない設定に。スプロケットは前後ともサンスター製で、他車種のものを大幅に加工。もちろんホイール側も大幅な加工を行いチェーンラインも調整している。チェーンはDID製。525から520に変更している。
ハンドルバー/バーエンド/レバーガードもカスノモーターサイクルのアエラ製。クオリティが高く、ハンドルまわりの質感を向上させてくれる。ブレーキマスターシリンダーはブレンボレーシングのラジアル。
タンクパッドは3Dプリンターでアエラに急遽作ってもらった。制作時間は28時間!。アエラとロイヤルエンフィールドのロゴもアレンジ。下半身でしっかりとバイクをホールドできるため、ハンドルやステップのポジションをピンポイントで決めやすかった。新たなるカスタムパーツとして流行りそうな予感。
リヤサスペンションはオーリンズ製。ゼファー750やZ1用をベースにモトジャンキーのエンドアイを使って車高を調整。スプリングは2.2キロのシングルレートに変更。フロントフォークは、ノーマルをベースにスクーデリアオクムラでインナーカートリッジを入れ、プリロードと伸び側減衰力の調整を可能にした。その後、バネレートや油面を見直しながら、若干ハードな方向へ。最終的にはコーナーの奥までブレーキが残せるようになり、前輪のグリップを引き出しやすくなった。
タイヤはピレリのファントムスポーツコンプRS。往年のルックスながらラジアル構造で、そのフィーリングはとてもしなやか。フロントの接地感を引き出すのに少し苦労したけれど、最終的にはかなり頼れるようになった。最新18インチラジアルってこんなグリップするんだ!と思わせてくれる。ホイールはスポーク裏面を専用のテープで施工してチューブレス化。
フロントディスクはサンスター製φ320mm。キャリパーはブレンボレーシングの40mmピッチ。キャスティングだと厚みがありスポークと干渉する。前後のキャリパーサポートはモトジャンキーでワンオフ。リヤディスクはCBR600RR用を使って小径化。ディスクを装着するための台座は中尾さんがワンオフ。スタンドフックはアエラ製。ABSはキャンセルした。
シートは中尾さんがイギリスのサイトで発見した汎用品。シートレールはその形状に合わせてループ加工。バッテリーはショーライのリチウムイオン。もっともコストパフォーマンスの高いアイテムで、約4kgの軽量化を実現。搭載場所を選ばないコンパクトさで、レーサーづくりに欠かせないアイテム。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
市街地を散策しながら、そのポジションと鼓動を楽しむ まだ眠っている早朝の都内は、とても静かだった。日の出が早くなるこの季節、朝に乗るバイクがとても気持ち良い。コンチネンタルGT650のセパレートハンド[…]
ロイヤルエンフィールドは空冷パラレルツインを熟成させ続ける 深緑の隙間からINT650に光が降り注ぐ。メッキパーツはキラキラと輝き、アルミ地肌のクランクケースカバーやエンジンのフィンは優しい輝きを放つ[…]
9種類ものバリエーションから好みで選べる ついにクラシック350が発売になった。ついに、と書いたのはその期待値がとても高かったから。ロイヤルエンフィールドは2021年に同系列のエンジンを搭載するメテオ[…]
中型モーターサイクル市場をリードするロイヤルエンフィールド 世界最古のモーターサイクルブランドであるロイヤルエンフィールドは「Pure Ride, Pure Motorcycling」をコンセプトに掲[…]
インドで開催されたスーパーメテオ650の試乗会に参加! EICMA2022でロイヤルエンフィールドが発表したスーパーメテオ650の試乗会に参加するため、人生2回目のインドにやってきた。デリーからジャイ[…]
最新の関連記事(ロイヤルエンフィールド)
関東では200台以上が集結! 『One Ride 2025 in 関東』の会場となったのは、週末ともなると大勢のライダーの憩いの場所となっている『バイカーズパラダイス南箱根』(静岡県函南町)だ。この日[…]
世界に羽ばたくカスタムビルダー「CUSTOM WORKS ZON」 ZONは、吉澤雄一氏と植田良和氏によって2003年に設立されたカスタムファクトリーだ。彼らの真骨頂は、他に類を見ない高いデザイン力と[…]
インドにも影響を与えたヒッピー文化をオマージュ ロイヤルエンフィールドジャパンが「ゴアンクラシック350」を正式発表。4つのカラーバリエーションをラインナップし、価格は74万9100円から。2025年[…]
“クラシック”シリーズ初の2気筒モデル ミドルクラスでグローバルな存在感を増しているロイヤルエンフィールドは、空冷350cc単気筒シリーズと空冷650cc 2気筒シリーズを多数展開。これに水冷450c[…]
スペシャルラテを飲みながら新型 ハンター350を堪能 東京・浅草の雷門の近くにあるカフェ「ORTIGA(オルティガ)」。ライダーが集うライダーズカフェとしても有名だ。 そのORTIGAで、8月17日([…]
最新の関連記事(レース)
ヤマハが6年ぶりにファクトリー復帰! ホンダHRCが迎え撃ち、スズキCNチャレンジが挑む! 2025年8月1日~3日に開催された「”コカ·コーラ” 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第46回大会」では、4連[…]
今のマルケスは身体能力で勝っているのではなく── 最強マシンを手にしてしまった最強の男、マルク・マルケス。今シーズンのチャンピオン獲得はほぼ間違いなく、あとは「いつ獲るのか」だけが注目されている──と[…]
本物のMotoGPパーツに触れ、スペシャリストの話を聞く 「MOTUL日本GPテクニカルパドックトーク」と名付けられるこの企画は、青木宣篤さんがナビゲーターを務め、日本GP開催期間にパドック内で、Mo[…]
欲をかきすぎると自滅する 快進撃を続けている、ドゥカティ・レノボチームのマルク・マルケス。最強のライダーに最強のマシンを与えてしまったのですから、誰もが「こうなるだろうな……」と予想した通りのシーズン[…]
作って、触って、攻略する。新感覚のサーキット模型 スマホケースなどの地図柄グッズを手がけるクロスフィールドデザインが、モビリティライフスタイルブランド「レシプロ」の新商品として「レイヤード ランドスケ[…]
人気記事ランキング(全体)
新設計の502cc・4気筒エンジンを搭載するフルカウルスポーツ ホンダは、中国で開催された重慶モーターサイクルショーにて4気筒エンジン搭載の新型モデル「CBR500Rフォア(CBR500R FOUR)[…]
BOAフィットとfuzeGELで安定&衝撃吸収 「ウィンジョブ CP306 BOA」はダイヤル操作で締め具合を調整するBOAフィットシステムを採用し、甲まわりをムラなくホールドできます。衝撃緩衝材とし[…]
伝家の宝刀「V4」搭載のキング・オブ・クルーザー エックス ディアベルといえば、マッシブなクルーザーとして「素の」ディアベルとはひと味違った走り、満足感が得られると評判のモデルでした。 新型は、今やド[…]
裏地には90周年モデル限定カラー 1935年の創業から、絶えず革ジャンを作り続けてきた株式会社カドヤが、90周年という節目を迎える今秋、ブランドの歴史を象徴しつつ現代のライディングシーンに応える、特別[…]
ポケットに収まる高洗浄力! これがケルヒャークオリティだ 林道ツーリング後の付着しまくった泥やロングツーリングでこびりついた虫の死骸。海沿いを走った後のベタつく潮風…。バイク乗りにとって、汚れと洗車は[…]
最新の投稿記事(全体)
“水冷”と、その存在感から「ウォーターバッファロー」の愛称も 1971年の東京モーターショーにGT750が出品された当時、観客はラジエーターの大きさや、フィンの見えないシリンダーブロックに目を丸くした[…]
125ccのMTバイクは16歳から取得可能な“小型限定普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)[…]
デカいバイクに挑むロマンがここにはある これまで何度か噂には上っていたが、遂にそのときがやってきてしまった。’92年の初代BIG-1ことCB1000SFから30年以上の長きに渡り、ビッグネイキッドのみ[…]
ヤマハが6年ぶりにファクトリー復帰! ホンダHRCが迎え撃ち、スズキCNチャレンジが挑む! 2025年8月1日~3日に開催された「”コカ·コーラ” 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第46回大会」では、4連[…]
東京ビッグサイトのような会場が熱気に包まれる 日本のお隣であり、スクーターが一大人気を誇ることでも知られる台湾にて例年開催されている「台湾モーターサイクルショー」を取材してきたのでレポートをお届けした[…]
- 1
- 2