
1950~1960年代の英国カフェレーサーを現代に蘇らせたのが、ロイヤルエンフィールドのコンチネンタルGT650だ。トップブリッジの下にマウントされたハンドルに手を伸ばし、2眼メーター越しに見る風景はとてもノスタルジー。しかしその走りは本格的で、650ccとは思えないパルス感と共に力強い加速を約束してくれる。
●文:ミリオーレ編集部(小川 勤) ●写真:長谷川 徹 ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム
市街地を散策しながら、そのポジションと鼓動を楽しむ
まだ眠っている早朝の都内は、とても静かだった。日の出が早くなるこの季節、朝に乗るバイクがとても気持ち良い。コンチネンタルGT650のセパレートハンドルに手を伸ばし、バックステップに足を乗せると、そのポジションはなかなか戦闘的。人やクルマが溢れ出す前の都内を2000~3500rpmを常用しながら走る。ロイヤルエンフィールドの空冷ツインは、この領域の味付けが抜群。日々の喧騒を忘れさせてくれる早朝の幹線道路なら、バイクの息吹を聞きながら法定速度で流すことができる。
朝方はまだ肌寒さのあるこの時期は、空冷エンジンの気持ちよさを存分に味わうことができ、270度クランクが生み出す不等間隔爆発を感じながらスロットルを開けていく。クラッチレバーも軽く、ニュートラルから1速に入れた瞬間に感じるシフトタッチのよさは走り出しても健在。このシフトの節度の良さは、バイクを操る上でとても大切なポイント。乗り味を上質にしてくれる。
クリップオンハンドルは、ライダーをその気にさせてくれるスイッチみたいな役割を果たし「きちんと乗らないと」と程よい緊張感を伝えてくる。オーソドックスな2眼メーターから眺める景色は、近代のバイクが失ってしまった新鮮さがある。
これこそ王道のブリティッシュカフェスタイル。1950~1960年台の英国の若者カルチャーといえば、ロッカーズやモッズの時代。スピードを愛した若者たちはロッカーズと呼ばれ、エースカフェなどに集い、夜な夜なこういったスタイルのバイクを走らせた。
今、それをもっともリアルに体現させてくれるバイクがロイヤルエンフィールドのコンチネンタルGT650である。さまざまな雰囲気をもつ街の風景にもスッと馴染む佇まいは、左右どちらから見てもバランスが良く、美しいデザインだからだろう。
車体は昔の650ccツインと比べると2回りほど大柄。ハンドルが低く、サイドスタンドで停車している際の傾きが強いため、取り回しや引き起こしはそれほど軽くはない。しかし跨ると雰囲気はとても良く、それに魅了されるライダーが多いというのも納得だ。
空冷フィンが新鮮なパラレルツインエンジン。緻密な計算で生まれた規制に対応する空冷エンジンで、これが強い個性を放つ。職人の手で磨かれたクランクケースカバーは、独自の立体感が魅力。アルミ地肌の鈍い輝きは、光の当たり方で色々な表情を見せる。 [写真タップで拡大]
シリンダーとシリンダーヘッドに空冷ならではのフィンを設ける。カムカバーの丸みやエキパイのフランジも良い雰囲気だ。特筆するスピード感はないが、十分な速さを持ち、気持ちよさと癒しを約束してくれる。 [写真タップで拡大]
空冷ツインをひたすら磨き続けるロイヤルエンフィールド
コンチネンタルGT650は、王道の英国カフェスタイルでファッショナブルな印象が強いが、走りの機能も本格的。前傾姿勢といってもスーパースポーツほどではなく、セパハンの難しさはあまり感じさせない。
往年の英国パーツの雰囲気を持つ2眼メーターやヘッドライト、太すぎない前後18インチホイールや跳ね上がったメッキメガホンマフラーなどの仕上げも美しい。
仕上げの極めつけは、大きなフィンを持つ空冷ツインエンジンだろう。手作業で磨き上げられたアルミバフ仕上げのケースカバーもとても良い雰囲気。
エンジンは、見た目はクラシカルだが中身は最新で、2022年モデルは当然ユーロ5規制をクリア。ユーロ5や令和2年排出ガス規制により、ヤマハSRやホンダCB1100シリーズなどの国産空冷エンジンは生産を終了。そんな背景から「規制が厳しくなるとトルク感がなくなる、走らなくなる」ようなイメージを抱く方も多いと思う。実際、排気量を拡大するバイクも見られるが、ロイヤルエンフィールドにそれは当てはまらない。
648ccの空冷パラレルツインエンジンは、2018年の設計。そもそもキャブレターからインジェクション化されてきた国産空冷エンジンとは成り立ちが異なり、当然だが設計当初からインジェクションだし、規制が厳しくなることを見越して誕生している。ロイヤルエンフィールドは、このエンジンが持つ魅力やスペックを一切損なうことなく規制をクリアし続けているのである。
そのスタイルを見ているとロッカーズやカフェレーサー、エースカフェやルイスレザーなど様々なフレーズが思い浮かぶ世代も多いはず。シンプルな作りだが、洗練されたバランスの良さを感じさせる。 [写真タップで拡大]
走り出すと650cc以上と思わせてくれる豊かなトルクを披露。特に極低速の出だしの良さと、3000〜5000rpm辺りからスロットルを開けた際の過渡特性が素晴らしいのだ。スチールメガホンのメッキマフラーが奏でるパラレルツインサウンドは、どこまでも優しくスロットルを開けた際の気持ちよさに貢献。
加速中に聞こえる音、身体に感じる風や鼓動が、カフェレーサーに乗っていることを強く感じさせてくれる。制御はABSのみだがそのシンプルさが良い。ここにブリティッシュバイクの伝統が宿り、本質が潜む。
市街地を抜け出すように、高速道路に乗ってスロットルを大きめに開ける。100km/hまではあっというま。100km/h巡航はもちろん、そこから120km/hまでの加速も、120km/h巡航も楽勝。ここだけはクラシックスタイルを感じさせない。
高速巡航中、フロントフォークにダイレクトマウントされたハンドルからの振動はやや大きめ。でもそれもコンチネンタルGT650の個性のひとつ。ちなみにアップハンドルのINT650はハンドルがラバーマウントのため、長時間走った際の振動の余韻はかなり軽減されている。
レンズに膨らみがあるヘッドライトは往年のイギリス車の雰囲気。優しいデザインに癒される。薄型のケースに収められたスピード&タコメーター。近年のデジタルメーターにはない雰囲気が印象的で、もちろん視認性も高い。 [写真タップで拡大]
フロントはシングルディスク+片押しの2ポットキャリパーの組み合わせ。立ち上がりが穏やかな優しいタッチが魅力。ワインディングなどでも扱いやすい。リヤの2本ショックは、プリロードの調整が可能。そこそこしっかりした味付けなので、体重の軽い方は柔らかめにセットしても良いと思う。 [写真タップで拡大]
コーナリングでフィットするポジション
ワインディングのコーナー立ち上がりでトラクションのかかる感じがたまらなく気持ちがいい。パラレルツインの良いところと、空冷の良いところ、この戦闘的なポジションの良いところすべてが、この瞬間にフィットしたような気持ちになる。
コンチネンタルGT650専用デザインのニーグリップ部分が絞られたタンクは、下半身ホールドしやすく、少し後ろに座ると腕から力が抜けてリラックスしたポジションで乗ることができる。
また、コンチネンタルGT650のエンジンは、こうした開放的なシーンで本領を発揮。コンチネンタルGT650はINT650よりも高回転よりの燃調セッティングで、ライダーにエンジンを回すことを促してくるようなフィーリングを持っている。セパハン×バックステップの前傾ポジションもそんな気持ちを盛り上げる。
ワインディングでは座る場所を変えたり、上半身を起こしたり伏せてみたりすると、ハリス製のダブルクレードルフレームが応えてくれ、曲がり方やトラクションの仕方が変わる。こうした操作が簡単にバイクに伝わるし、ちゃんと答えを返してくれるのもとても良い。
コンチネンタルGT650は、現代の感性でスポーツを楽しめるし、カフェレーサースタイルで英国物語を楽しむこともできる。世界最古のバイクブランドであるロイヤルエンフィールドは、現在もイギリスでR&Dを行なっている。英国カフェスタイルを愉しむにおいて、これ以上の説得力はない。
コンチネンタルGT650は、ロイヤルエンフィールド東京ショールームで試乗が可能。お近くの方はぜひ!

時代の変化に対応しながら、バイクはここ数年で凄まじい勢いの進化を遂げた。その一方で、確固たる信念とスタイルを守りながらプロダクトを具現化する方法があったのだということをロイヤルエンフィールドは教えてくれている。世界最古のモーターサイクルブランドが築き上げてきた歴史へのオマージュ、そこにロイヤルエンフィールドの深化がある。 [写真タップで拡大]
左右2本出しのスチール製のメガホンマフラー。270度クランクならではのパルス感のあるエキゾーストノートを披露。2022年モデルから採用されたCeat製のZoom Cruzタイヤもフィーリングがわかりやすく、乗りやすさと楽しさに貢献している。 [写真タップで拡大]
トップブリッジの下にマウントされたセパレートハンドル。パラレルツインの振動が身体にダイレクトに伝わってくる。エンジンの前部にはオイルクーラーを装備。大きすぎない主張しないデザインに好感が持てる。 [写真タップで拡大]

少し離れてコンチネンタルGT650を眺める。逆光が生み出すシルエットまでが美しく感じる。もはや先見性すら感じさせるシンプルな車体構成。誰もが想像しやすいバイクのカタチだが、今となっては希少なパッケージ。 [写真タップで拡大]

主要諸元■全長2119 全幅788 全高1120 軸距1405 シート高805(各mm) 車重217kg(装備)■空冷4ストローク並列2気筒SOHC4バルブ 648cc 47.7ps/7150pmm 5.33kg-m/5150rpm 変速機6段 燃料タンク容量13.7L■ブレーキF=φ320mmシングルディスク+2ポットキャリパー R=φ240mmディスク+1ポットキャリパー タイヤサイズF=100/90-18 R=130/70-18 ●価格:87万2300円(ロッカーレッド、ブリティシュシュレーシンググリーン)、88万8800円(ダクスデラックス、ベンチュラストーム)、92万700円(ミスタークリーン) [写真タップで拡大]
※本記事は”ミリオーレ”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。
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