「障がい者と健常者がいつでも一緒にオートバイで楽しめる環境をつくる。障がい者と健常者が一緒にツーリングを楽しむ」。2020年から始動したサイドスタンドプロジェクトは、この目標をかなえるために全国で無料体験会を開催し続けている。そしてついに2022年の9月11日、「やるぜ!!箱根ターンパイク2022」と題して初の公道開催が決定した!
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●外部リンク:サイドスタンドプロジェクト|一般社団法人SSP
笑顔と涙、拍手が溢れるサイドスタンドプロジェクト
「自分で走れるっていいよね〜」。青木治親さんの声が会場内に通る。
「乗れるじゃん!」「やったじゃーん!」。この日初めてバイクに乗った参加者を治親さんが激励する。
ボランティアから拍手が沸き起こり、参加者の目からは嬉し涙がこぼれる──。
6月13日、向ヶ丘自動車学校でサイドスタンドプロジェクト(SSP)が開催された。この取り組みのことは前から知っていたが、僕が実際に現地を訪れたのは今回が初めてだった。会場内の空気はとても明るい。1995年、96年に世界グランプリ125ccクラスで世界チャンピオンを獲得し、現役オートレーサーの青木治親さんがその中心にいる。
この日は脳性麻痺による下半身不随の方が2名、視覚障がい者(全盲)の方が3名、計5名の方が参加。初めての方も、リピーターの方もいる。皆に共通しているのは1人ではバイクに乗れないが、「バイクに乗りたい」という気持ちを諦めず抱き続けて、今日ここにいることだ。
きっとバイクに乗る自分を何度も夢見て、何度も諦めてきたのだろうと思う。しかし、青木治親さんが主宰するサイドスタンドプロジェクトと出会ったことで、諦めてかけていた夢がかなおうとしている。その高揚感がある一方、もちろん緊張感にも包まれているようだった。
スローガンは「誰かの支えがあればオートバイも運転できる」
そんなスローガンを持つサイドスタンドプロジェクトは、2019年に青木治親さんの兄である青木拓磨さん(元WGPライダーで24歳のときにテスト走行中の事故で下半身不随に。現在は車いすレーサーとして活躍している)を22年ぶりにオートバイに乗せたことがきっかけでスタート。2020年には一般社団法人SSPとして本格始動した。
サイドスタンドプロジェクトの活動はすでに3年目を迎え、「障がいを抱えても、オートバイに乗りたい」という40名のライダーの夢をかなえてきた。いま現在もその夢がかなう日を待ち侘びて、20名ほどの予約問い合わせがあるのだという。
人生を楽しむために、夢をかなえるために参加者はここに集う。しかしながら「本当にバイクに乗れるのだろうか?」「大丈夫かな……」という心配は隠せない。それはボランティアにも同様に言えること。ここに集う多くの人たちは大なり小なりそんな心配を抱えているはずだが、会場内に重苦しい雰囲気はない。治親さんが醸し出すポジティブな雰囲気に包み込まれるうちに、誰もがその緊張からリラックスした気持ちに変化しているようだった。
この日のメニューは、バイクに乗って150mほどの直線路の往復をするというもの。1本走るごとに、会場内で大きな拍手が起こる。「やったじゃーん!」と治親さんは自分のことのように喜び、そして参加者の肩を叩いて激励する。1日に何度も何度もこんなシーンに出会った。
「支えられる参加者」と「支えるボランティア」が生み出すコンビネーション
参加者のバイクに乗りたいと思う気持ちは、言うまでもないが健常者のライダーとまったく同じだ。バイクで感じる風、音、鼓動は何にも変え難い魅力があり、それをダイレクトに感じたいのだ。その想いの実現に少しでも近づけるように、そして確実に応えるようにと、ボランティアはとにかく走り回る。いつでも参加者のサイドスタンドになれるようにと、走って走って走り回るのだ。
参加者のウエアは安全を考慮してレーシングスーツを採用している。そのため、着替えの段階からボランティアの支えが必要だ。下半身不随の方の場合、バイクに跨る際も何名かのサポートがいる。ボランティア数名が参加者を抱えてバイクに跨るシーンでも、感覚のない部分をぶつけないように、そしてエンジンやマフラーなどに触らないように細心の注意をはらう。そして跨ったらニーグリップできるよう専用のバンドを装着し、下半身をホールドさせるなど、随所に工夫も盛り込まれている。
そしてここから治親さんのレッスンがスタート。当然、参加者はバイクの免許は持っていないため、イチからの説明を行う。その後、エンジンをかけずにバランスを取る練習ではボランティアがバイクを押して走らせる。「スピード上げちゃう〜?」治親さんの一声で、ボランティアの方々の力が増してバイクはより強く風をきって前進していた。
この時も参加者は、治親さんとビーコム(インカム)で繋がっていて、細かいアドバイスを受けることが可能。治親さんも参加者の横を走りながら「いいね〜、いいね〜、遠く見て。エンジンかけちゃう〜?」と気持ちをほぐしつつ、最適なアドバイスを送り続ける。
バイクは専用で製作。レベルに合わせた様々なモデルを用意
バイクはBMWのF750GS、MVアグスタのストラダーレ800、KTMの390デュークを用意。F750GSとストラダーレ800は上級者用で、RC390は補助輪付きの初心者用となっていて、現在BMWのS1000Rでも試乗車を製作中だという。
すべてのバイクは、足の代わりにシフトチェンジする電磁アクチュエーターを装備。シフト操作は手で行えるようになっている。車両ごとに異なるステーは、菅原モデルがワンオフ製作。万が一の時はすぐにエンジンを切れるようエンジン停止用のリモコンを治親さんが持っている。
今回は全員、KTMの390デュークを使用。エンジンをかけずに何往復もしてようやくエンジン始動となるのだが、エンジンを始動してからもボランティアの方々は横を併走。特に全盲の方たちが進行方向を少しでも横にそれたら、「右」「左」と大きな声出しながらすぐに修正していく。
この日、乗った方は5名。バイクに乗りたい希望者はたくさん待っているわけだが、1日でこれ以上の人数に対応するのは厳しいのだろう。そう思うぐらいに、手厚いサポート体制によるレッスンが安全に行われていた。
青空の下、会場内では終日参加者の笑顔と涙、そして拍手に溢れていた。
一度乗るともっと乗りたくなる。その気持ちに応えるように、この直線路のステップアッププログラムをクリアした方は、サーキットなど次なるステージもバイクも用意されているのがサイドスタンドプロジェクトの大きな魅力だ。
バイクのアクセルを開けることは、さまざまな人々の夢を繋ぎ、人生を豊かにして、感動をくれる。それを強く実感した1日だった。
9月11日は「やるぜ!!箱根ターンパイク2022」を開催
そんなサイドスタンドプロジェクトが9月11日に箱根ターンパイクを貸し切って開催されることが決定した。
これはサイドスタンドプロジェクト初の公道開催で、往復26kmのワインディングを走るというもの。障がいを持つ方が、家族や友人と一緒に一般道をツーリングすることができるのだ。
「みんなの力でSSP。みんなの力が押し上げてくれるし、みんなで進んでいきたい。9月11日は夢の公道開催。ツーリングがしたい!という夢を成功させたいと思います」と治親さん。
「やるぜ!!箱根ターンパイク2022」はこれからのサイドスタンドプロジェクトにとって大変重要な開催だが、まだ予算の見込みがたっていないため、クラウドファンディングで運営費も集っている。
サポーターやパートナーも募集しているので、サイドスタンドプロジェクトのwebサイトをチェック。
サイドスタンドプロジェクトは常時ボランティアスタッフも募集中
障がい者のサイドスタンドになり、勇気と感動をもらう体験をしてみませんか?
詳細はFacebookまで。オートバイを触れたことがない方も参加することが可能となっている。
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