随所から感じさせる英国ブランドらしさ
タイガー1200全般に言えることだが、こういうさりげないおもてなしが車体各部に散りばめられ、それが安心感や一体感、扱いやすさの元になっている。ライダーをフォローする実直な作り込みに、英国人気質、あるいは英国ブランドらしさがうかがえる。
英国らしさと言えば、合理的な物事の進め方もそのひとつで、例えばリンクレスになったリヤサスペンションにその一端が見て取れる。従来モデルに備わっていたリンクが廃されたのは、コストダウンのためではない。SHOWAのセミアクティブ電子制御サスペンションが新たに採用され、サスペンションのストローク量やストロークスピードがリアルタイムで変化。これによって、リンク機構が受け持っていた領域をサスペンション本体がカバーできるようになり、リンクの必要性がなくなったというわけだ。
スイングアームは、スチール/アルミニウム/マグネシウムのハイブリッド構造によって、軽さと部品点数の削減と整備性の良さがそれぞれ向上。エンジンをフロントに寄せ、荷重配分を最適化するために左右に分割されたラジエターなどにも、機能ありきの合理主義があらわれている。
一方、まったく新しいシステムの導入も忘れてはいない。それがGTエクスプローラーとラリーエクスプローラーに採用された「ブラインドスポットレーダー」だ。これはコンチネンタル社との共同開発によるもので、車体後部にミリ波レーダーを設置。自車の死角に入った車両や、後部から接近する車両を検知し、サイドミラーに備えられたインジケーターを介して危険を知らせるセーフティデバイスである。
相手車両の接近度合いに応じてインジケーターの点滅速度が変化する他、接近の方向によって片側、もしくは両側が点滅。思わぬところにクルマやバイクがいてヒヤリとする場面は、誰にも経験があるとも思うが、そういう状況に起因する事故やトラブルを未然に防げる可能性が高い。
不等間隔爆発の1160cc3気筒エンジンは150psを発揮
エンジンは、スピードトリプルRSと基本設計を共有する1160ccの水冷DOHC並列3気筒だ。ただし、クランクピンが90°ずつ位相された「Tプレーン・トリプル・クランクシャフト」に換装され(現行のタイガー900シリーズで実用化)、クランクが180°→270°→270°と回転する毎に点火する不等間隔爆発を得ている。
トライアンフは、これによってトラクションとトルク特性をバランスさせることを試みたわけだが、その目論見は成功している。スロットル開度に対して、どの回転域からもリニアな反応を示し、タイヤのグリップ感が途切れることなく伝わってくる。フルタンクに近いGTエクスプローラーを6速2000rpmで走らせ、そこからスロットルを開けてもスムーズに増速。低回転域のフレキシビリティに文句をつける隙はない。
エンジンの出力特性と、サスペンションの減衰力とプリロード、トラクションコントロール、ABSなどが最適化されるライディングモードには、レイン/ロード/スポーツ/オフロード/ライダー(それぞれの介入度を好みでカスタマイズできる)があり、これはGTプロも同様だ。
最も穏やかなモードはレインだが、ほとんどの場面をこれ一択で済ませられるほど、充分な余力がある。他のモードを選択したり、調整する場合も極めて分かりやすく、ハンドル左側に備えられたモードボタンとジョイスティックで走行中も簡単に操作が可能。メーターに表示されるグラフィックの美しさも含めて、トライアンフの優れたインターフェイスは他メーカーから一歩抜きん出ている。
すべてにおいて上質なオールラウンダー
ところで、試乗会の会場は開放的な空間だったために気がつかなったが、後日あらためてGTエクスプローラーを借り出した時、排気音の静かさが好印象だった。バイクで出掛けたり帰宅したりするのは、得てして早朝や深夜になりがちながら、必要以上に気をつかわないで済むほど、音量も音質も抑え込まれていた。
ビッグアドベンチャーを選ぶ、多くのユーザーが好んで走るであろう、高速道路や中高速のワインディングはどうか。そこで体感できたのは、ハンドリングの穏やかさだ。いたずらにスポーティでもなければ、ダル過ぎるわけでもなく、車体をリーンさせた分だけスムーズに旋回。タイヤ前後に荷重が均等に掛かり、しなやかなサスペンションがそれを後押ししてくれる。なにがあっても破綻しそうにない高いスタビリティを感じながら、美しい軌跡を描くことができるはずだ。
旋回中にスロットルを開け閉めした時のいなし方もナチュラルで、ピッチング方向にもロール方向にも過度な姿勢変化は起こさない。特に開けた時は、ほどよい鼓動感がそのままトラクションへと変換され、バンク中の挙動がさらに安定。右手のオンオフでエンジンの出力とタイヤのグリップ力を自在に操れる手の内感が魅力だ。
最初に、軽量なGTプロよりもGTエクスプローラーの方が好印象と記したのは、このあたりのフィーリングに因るところが大きい。大容量ガソリンタンクがプラスに働き、その重量バランスとサスペンションのしなやかさによって、路面の追従性がより明確になっているからだ。乗り心地にも優れ、クルージングにさらなる上質さが加わっている。
もちろん、物理的にはGTプロの方が軽快なわけだが、重量差は10kgと意外と少ない。GTエクスプローラーを選ぶと、航続距離が200kmほど伸びることや、ブラインドスポットレーダーはGTプロに後付けできないことなど踏まえるとメリットは大きく、検討の価値がある価格差(18万5000円差)だと思う。
いずれにしても、長距離ツーリングを快適にこなすためのありとあらゆる装備が盛り込まれ、それでいて軽さとコンパクトさ、日常域での使い勝手にも配慮されているのが、新型タイガー1200というオールラウンダーである。
タイガー1200シリーズの4バリエーションを見てみよう!
タイガー1200GTプロ
タイガー1200GTエクスプローラー
タイガー1200ラリープロ
タイガー1200ラリーエクスプローラー
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タイガー1200シリーズ 概要 初代は1930年代という伝統車名のタイガー。現在の最高峰である1200が'12年の登場以来、10年越しの全面刷新を受けた。3気筒エンジンはスピードトリプル1200がベー[…]
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