エンジン冷やし方で性能や乗り味まで変わる

【Q&A】エンジンは、本当に「性能の水冷、味わいの空冷」なの? 「油冷」は?【バイクトリビア011】

薄くて長い冷却フィンが美しい空冷エンジン。無機質ゆえに高性能を匂わせる水冷エンジン。ルックスは大きく異なるけれど、どちらもエンジンを冷やすための手段に変わりなく、効率を考えたら水冷に軍配が上がる気がするけれど……、空冷ってオワコンなんですか?


●文:伊藤康司 ●写真:ドゥカティホンダスズキ、YMアーカイブ

いまどきは水冷が優勢のようだけど……

なにを今さら……の話ながら、エンジンのシリンダーの中(燃焼室)では、空気とガソリンを混ぜた混合ガスをギュッと圧縮し、点火プラグで火花を飛ばして爆発燃焼させている。エンジンは非常に高温になるので冷却する必要があるが、バイクの場合は冷却方法を大別すると水冷式と空冷式があることは、多くのライダーが知るところだろう。

’70年代頃までは圧倒的に空冷が主流だったが、’80年代から水冷が増加し、現在では一部のレトロな雰囲気のバイクや小排気量モデルのみが空冷……というイメージが強いが、じつは空冷エンジン搭載のスポーツバイクもキチンと存在する。

それでは水冷と空冷、いったい何が違うのか? なぜ水冷が主流になったのか?

空冷エンジンはシリンダーに設けた冷却フィンを走行風で冷やす。水冷エンジンはシリンダーに設けたウォータージャケットに冷却水を流し、その冷却水はラジエターを通して走行風で冷やす。空冷は温度管理が難しいため金属の熱膨張に対して余裕を持たせ、シリンダーとピストンの隙間(ピストンクリアランス)が広く、温度管理しやすい水冷の方がピストンクリアランスを狭く設定できる。ここが性能に大きく影響している。

違いが出る理由は「ピストンクリアランス」

エンジンを構成するピストンやシリンダーは熱によって膨張するため、エンジンが温まった状態で適正な隙間になるように、ピストンクリアランスが設定されているが、端的に言えば水冷はこの隙間が狭く、空冷は広い。なぜなら水冷は温度管理がしやすいため、熱膨張した時の寸法にキッチリ合わせた設計が可能だが、反対に空冷は温度管理が難しいので熱膨張に対して相応に余裕を持たせる必要があり、結果としてピストンクリアランスを広く設定しなければならない。

あくまで参考値だが、水冷のピストンクリアランスは3/100mm程度で、空冷の場合は5/100~7/100mm程度といわれている(市販車とレーサー、ピストンやシリンダーの材質などによっても異なる)。

このクリアランス、わずかな違いに感じるかもしれないが、隙間が大きいとスロットルを開けた瞬間のレスポンスが鈍くなり(爆発した燃焼ガスが隙間からクランクケース方向に抜ける量が多い。これを「ブローバイ」と呼ぶ)、充填効率も落ちるのでパワーも出しにくくなる。とはいえレスポンスの鈍さは良い方向で解釈すれば「穏やかな特性」ともいえる。空冷エンジンはスロットルを開けやすい、神経質にならずに乗れるから楽しい、味わいがある、というフィーリングはここから生まれている。

反対に味よりも性能を追求するスーパースポーツ系は、当然ながらスロットルの反応がシャープでパワーを出しやすい水冷が有利というコトになる。それなら、それぞれの特性をライダーの好みで選べるように、水冷ばかりでなく空冷バイクのラインナップも増やせばいいのに……と感じる部分もあるが、そうもいかない事情がある。ここでも空冷のピストンクリアランスの広さが影響しているのだ。

ピストンクリアランスが広いと、ピストンやシリンダーを潤滑するエンジンオイルが、クリアランスの狭い水冷より燃焼しやすいため排気ガスが汚れやすく、排気ガスを浄化する触媒(キャタライザー)も傷めやすい。また冷却が不安定ということは燃焼状態も安定しないので、有害物質が出やすくなる。

また水冷エンジンはシリンダーのウォータージャケットが「防音壁」の役を果たすので、騒音問題でも有利。対する空冷は冷却フィンがエンジンの爆発に共振したり、ともすれば増幅するため音量的にも不利だったりする。

というワケで、空冷エンジンは動力性能だけでなく環境性能でも厳しい面が多い。そのため従来型の空冷エンジンを搭載するバイクは、排出ガス規制等に対応できずに姿を消すパターンが多い。

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