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ハスクバーナ ノーデン901 【北欧デザインの俊敏アドベンチャー】試乗インプレッション

日本でも家具や雑貨などで身近になった北欧デザインだが、バイクはスウェーデンのハスクバーナが先駆け。数年前に登場し、現在は様々な排気量のラインナップを持つヴィットピレンやスパルトピレンシリーズでその存在が気になっている方も多いはずだ。そのハスクバーナからいかにも北欧デザインという雰囲気のNorden(ノーデン)901が登場。これまでにないアドベンチャーが日本上陸を果たしたので試乗してきた。


●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:山内潤也 ハスクバーナ・モーターサイクルズ ●外部リンク:ハスクバーナ・モーターサイクルズジャパン

時代を超越する新しさを感じさせる北欧デザイン

ノーデン901のスタイルはとても不思議だ。クラシカルな印象を持つ丸型ヘッドライトはどこか愛嬌を感じさせつつも、モダンでスタイリッシュ。そしてアドベンチャーらしい大胆さや力強さを持ちつつとてもトラディショナルにまとめられている。アドベンチャーというと多くのメーカーはラリーや旅をイメージさせるが、ノーデン901はそれだけに止まらない。ツーリング先の風景は当然だが、市街地にも違和感なく溶け込んでしまいそうな雰囲気に魅了されるライダーは多いだろう。

このシンプルで美しい、時代を超越している個性的なデザインこそがハスクバーナの特徴だ。スパルトピレンやビットピレンシリーズ同様、ノーデンもこれまでのアドベンチャーにない革新性に溢れている。現在ハスクバーナはオーストリーのKTMの傘下にあり、多くの車両はKTMと共通の車体やエンジンを使用しているが、ブランドの棲み分けはきちんとできており、各車のキャラクターはデザインも乗り味も見事なまでにつくり込まれている。

今回上陸したばかりのノーデン901はKTMの890アドベンチャーと車体とエンジンを共通に持つが、デザインで大きく差別化。しかし、その作り込みはKMTならではのレーシーさを受け継ぎ、リッターアドベンチャーとしてはかなり本格的に走りを追求。モダンなデザインからは想像ができないほど、スポーティに仕上がっている。

ノーデンとはドイツ語で『北』の意味。北への旅路からインスピレーションを得たシンプルだけど大胆な色使いが特徴。

信じられないほどのエンジン&車体のレスポンスを披露

正直なところ身長165cmの僕には足着き性が良くない。でもそんな時に頼りになるのは、ノーデンの軽さと細さだ。当然両足を着くことはできないが、常に片足を安定させることは可能。シート高は854mmと874mmの2段階に簡単に切り替えられるが、これは低い方での話。でも、キャリアがあるライダーなら小柄な方でもいけると思うので数値で諦める前にディーラーで跨ってみることをおすすめしたい。

その細さを生み出しているのは、コンパクトな889ccのパラレルツインエンジンとそれに寄り添うように配置されたクロームモリブデン鋼のフレームだ。さらに左右に振り分けられたガソリンタンクのおかげか、この手のバイクにありがちな重心が極端に高い感じがしない。フラッときても重さを感じにくく、支えることができる。ハンドルはかなり広め、ポジションは大柄だが走り出した瞬間にリラックスできる印象だ。

車名は901だが排気量は889cc。コンパクトな設計で、車体の軽さとスポーツ性の高さに貢献。レスポンスがよくトラクションが明確、スタイルからは想像できないほどのレスポンスを披露してくれる

105psの最高出力と6500rpmで10.2kg-mのトルクを発揮するエンジンは、数々の電子制御を搭載する。ライディングモードは「レイン」「ストリート」「オフロード」とオプションの「エクスプローラー」の4種類を用意。もちろんトラククションコントロールやABSなども装備する。ストリートモードで走り出すと、スロットルを開けた瞬間に「なんて元気なんだ!」と感じさせてくれる。レインはレスポンスが落ちるが、寒い日や久しぶりにバイクに乗る日に優しいバイクに変えることが可能。オフロードはスムーズなエンジン特性だがトラクションコントロールやウィリーコントロールが介入せず、リヤのABSもキャンセルされる。ちなみにライディングモードの変更は直感的に操作できるわかりやすさ。シチュエーションに応じて瞬時にモードを切り替えて走ることが考慮されているのはさすがだ。

75度位相のクランクを採用するパラレルツインエンジンは、285度→435度→285度→435度(ここまででクランク4回転)という独自の不等間隔爆発を持ち、リヤタイヤが路面を蹴っている感覚が明確。速さだけでなく気持ちよさや、スロットルワークでエンジンとの対話を楽しむことが可能だ。

またもっとも体感しやすい電子制御であるアップ&ダウン対応のイージーシフトシステムも秀逸だった。極低速でも使用でき、バンク中でも安心の作動感を披露。シフトチェンジの難しさから解放されるため、走りに集中することが可能だ。

クラシカルなLEDヘッドライトの左右にはプロジェクターも装備。どこか愛嬌のある雰囲気もノーデン901をトラディショナル見せるポイント

19Lの容量を持つ燃料タンク。十分な容量を持つが左右に振り分けられているため、重心は低く重さを感じさせない。約400kmの航続距離を実現

足まわりのパーツをコストダウンしない、見た目だけじゃない本格派

フレームもサスペンションもとてもレスポンスが良い設定で、これがレーシーさを伝えてくる部分。ライダーが荷重コントロールするとそれを瞬時に感じ取り、速度域に関わらず同じ感性でリーンするハンドリングは本当に心強い。国産車しか乗ったことがないと、エンジンと車体のレスポンスの良さに驚くと思う。でもこの割り切りがハスクバーナなのだ。ちなみにこの日は雪が舞うほどの極寒。それにも関わらずノーデン901は前後タイヤの接地感が豊富で、一切不安を感じさせなかった。

嬉しいのはサスペンションのグレードが高いことだ。前後WP製で調整機構を装備。安心の接地感を伝えてくれるのは高性能サスペンションのおかげでもある。また、守備範囲の広いバイクだけに用途や走る場所に合わせてサスペンションをセットアップする楽しさも味わえる。

シートはライダー&パッセンジャー共に硬めだが、これは長距離を快適に過ごすのに欠かせないはず。クルーズコントロールと併用しながら確かめていただきたい。ちなみにシートヒーターやグリップヒーターはオプションで装着することが可能だ。

昨今のブームでスタイルだけのアドベンチャーがたくさんある中、ノーデン901は走りの機能をどこまでも本気で作り込んできている。1000cc超えの大きくて重たいビッグアドベンチャーにはない自由な感覚に溢れ『このルックスでこの走り』というギャップが最高に面白い1台に仕上がっている。

ホイールはフロントが21インチ、リヤが18インチの本格派チューブレススポーク。タイヤはオンでもオフでも定評の高いピレリ製スコーピオンラリーを履く。

リヤサスはWP製モノショックで、伸び側減衰力とプリロードの調整が可能。プリロードは油圧アジャスターのため、タンデムや荷物積載時に手で簡単に調整することができる。

フロントフォークもWP製。左右独立式で伸び側減衰力と圧縮側減衰力を調整することができる。手で簡単に調整できるので試してみよう。迷ったらノーマルに戻せばOK。

シートはメインキーで着脱でき、ツメの差し込み部分は変えるだけで854mmと874mmの2段階から選べる。足着き性に不安がない方は迷わず高い方がオススメ。軽快感が高まり、よりスポーティな走りを楽しめるはず。長い1日をシートの上で過ごせることがノーデン901のコンセプトであるため、そのつくりはとてもしっかりとしている。

ストリートはもっとも汎用性の高いモード。ただし、このモードでも十分なレスポンスと速さを発揮するので、慣れるまではレインでもいいかも。

レインはレスポンスが穏やか。トラクションコントロールやABSの介入も多め。雨天時だけでなくタイヤが冷えている時や消耗している時も有効。

オフロードはトラクションコントロールやウィリーコントロールが介入しなくなり、ABSもリヤはオフに。オフロードで滑らせたり跳ねたい時用。

エクスプローラーモードは9段階にトラクションコントロールを調整可能。今回試せなかったがシチュエーションに合わせて細かくセットできる。

ABSやトラクションコントロールの介入度はモードによって変更するし、任意でも変更することができる。

イージーシフトシステムはアップ&ダウンに対応。その操作性はかなり秀逸なので、基本的にオフにする必要はないはず。

アドベンチャーモデルだかワインディングも軽快で楽しい。サスペンションはハードなので、もう少しソフト目にしてみてもいいかも。

12Vの電源ソケットも用意。シートヒーターやグリップヒーターはオプションで用意。サイドケーズやバッグ類もオプションパーツで豊富に用意されているのでチェックしてみよう。

飽きがきにくい長く使えるデザインは、北欧の家具や雑貨などにも通じるものがあるのかも。

■軸距1513±15mm シート高854/874mm 車重204kg(燃料なし) ■水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ 889cc 105ps/8000rpm 105Nm/6500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量19L ■ブレーキF=Wディスク R=ディスク ■タイヤF=90/90R21 R=150/70R18 ●色:黒×黄 ●価格:174万5000円 ●発売:2022年3月

アドベンチャー未体験の方なら、今まで走ったことのない日本を知ることができるし、確実にバイクライフの幅が広がるはず。

トラディショナルなデザインだが、泥だらけになった姿も様になる。逞しさと冒険心、そしてスタイリッシュさをこれほど備えたアドベンチャーは他にない。


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