
ホンダ リトルカブをベースに、“過剰性能”というカスタム思想を徹底的に具現化した一台が存在する。スーパースポーツ用の極太タイヤや多連ブレーキといった過激な仕様は奇抜でありながら、精密な加工技術と明確なコンセプトに裏打ちされている。そのディテールと構造をレビューしつつ、実車が放つ独特の存在感とカスタムの本質に迫る。
●文&写真:ヤングマシン編集部(カイ)
“過剰性能”というコンセプト
第18回モンキーミーティングの会場を沸かせたリトルカブベースのカスタムマシンがある。その核となるのは「過剰性能」という明確なコンセプトだ。通常の車両開発では、性能は用途に対して最適化されるべきものであり、過不足のないバランスこそが評価される。
しかしこのリトルカブカスタムは、その定石をあえて外す。必要以上の性能を積み重ねることで、スペックの“意味”そのものを問い直しているかのような出で立ちだ。言い換えれば、合理性の先にある遊びの領域へ踏み込んだ一台ーーまさに4ミニカスタムの本領とも言えよう。
視覚を支配する極太タイヤ
まず目を奪われるのは、前後に装着された極太タイヤだ。フロント190、リア200という数値は、大型スーパースポーツのリアタイヤに匹敵するサイズであり(カワサキZX12Rのリアホイールを流用)、リトルカブのスケール感を完全に逸脱している。
実際の走行性能を考えれば、ここまでの幅はまったく合理的ではない。しかし現車を前にすると、その理屈は一瞬で意味を失う。圧倒的なボリュームが生むスタンスこそ、このマシンのキャラクターを決定づけているからだ。
フロントのブレンボ製ブレーキキャリパーは対向8ポット。もちろん、リトルカブに装着するにはオーバースペックであり、普通の操作をすれば簡単にホイールはロックしてしまうだろう。
目を疑うブレーキキャリパーの暴力的ビジュアル
足まわりに合わせ、ブレーキも尋常ではない。フロントに2基、リアに4基のブレンボ製キャリパーという構成は、もはや説明不要のインパクトを持つ。
前後合わせて24ポットの対向ブレーキは、いったいどのような速度域からの制動を想定しているのか? そんな無粋な質問を投げかけてはいけない。このカスタムのコンセプト「過剰性能」に従っただけなのだ。
当然ながら、このクラスの車体に必要な制動力を大きく超えている。しかし重要なのは、その“過剰さ”が意図的である点だ。スペックの過多そのものをデザインとして成立させていることに意味がある。
ただし、その代償としてライディング時には右側に引っ張られると言うがそれも愛嬌(?)だ。
もはや意味がわからないビジュアルのリアセクション。果たして合計4基24ポットのブレンボキャリパーが生み出すストッピングパワーとは……。大径ホイールを装着するため、スイングアームはTW用のロングタイプに換装。
作り込まれたリアセクション
車体後部に目を移すと、このマシンの真骨頂が見えてくる。本来リアキャリアが配置される位置には、リンク式のナイトロン製サスペンションとエアサスが組み込まれている。
複雑なリンク機構が露出するレイアウトは、機能部品を隠すのではなく“見せる”設計思想の顕れである。車高変化を伴う動きも含め、視覚的な演出として完成度が高い。
言うまでもなく増加したパーツの総重量はこの車体に不相応で、乗り心地は二の次。オーナーですら運転には気を遣い長距離は走りたくないレベルであるという。
吸気系の見せる機構美
吸気系もまた、この車両の個性を語る上で欠かせない要素である。ダウンドラフト式ツインチョークキャブレターがハンドルとシートの間にレイアウトされる様は、明らかに異端だ。
さらにスロットル操作に連動する可変式ファンネルが組み合わされることで、エンジンの鼓動が視覚的に伝わるのもユニーク。
また、電動車高調整システムも搭載し、走行中ばかりでなく止まっていてさえもライダーを楽しませるよう工夫されている。
機械が“動く楽しさ”をダイレクトに感じさせる仕掛けを眼の前にして、ライダーのアドレナリンはこれまた「過剰」に分泌されるだろう。
フォーミュラマシンのバリアブルファンネルシステムを模したウェーバーのダウンドラフト式ツインチョークキャブレター。フロントのアピアランスを過激に演出している。
あえてのノーマルエンジン
興味深いのは、ここまで徹底したカスタムが施されているにもかかわらず、エンジン自体はノーマルである点だ。
通常であれば、出力強化が優先される領域である。しかし本車両では、その常識が意図的に外されている。結果として、周囲の過剰な要素がより強調され、コンセプトが一層際立つ構成になっている。
このあたりはオーナーの4ミニカスタムに対する哲学が顕れているのかもしれない。過剰な装備は見た目と安全性を高める制動力などに振り、徒にエンジン出力を上げすぎて危険な領域に入るのを避けているように思える。
中華製の125ccエンジンには手を加えていない。過激な運動性能を目指したカスタムではないことがその事実から読み取れる。とはいえ、電動車高調整システムの搭載などそれ以外は十分過激なのだが。
技術力に裏打ちされた遊び心
このマシンを製作したオーナーは金属加工を本業とするプロであり、その技術力は細部に至るまで徹底されている。溶接や削り出しの精度、パーツ配置の合理性には確かな裏付けがある。
一方で、その完成度の高さが“遊び”を成立させている点も重要だ。例えばフレーム間をつなぐサブフレームは塩ビ管をそのまま使うというお茶目さで、過剰一辺倒ではないユルさがあってこそカスタム全般を楽しめているのだろう。この姿勢こそが、本車両“過剰性能2号機”を単なる改造車ではなく作品へと昇華させている。
本来なら剛性アップに用いられるサブフレームは塩ビ管をそのまま装着。近づいてよく見れば塩ビ管のプリントがそのまま残されている。こんな細部にまで遊び心が徹底されているのは見事。
過剰が生む新たな価値
ここまで読まれた方なら「過剰」というワードがゲシュタルト崩壊していることだろう。少なくとも筆者は「カジョーってなんだっけ?」と、取材中に何度も脳内で反芻していた……。
とはいえ、“過剰性能2号機”がカスタムの本質に対するひとつの回答であることも間違いない。性能とは最適化されるだけのものではなく、逸脱することで新たな価値を持ち得るという逆説的提案だ。
実車が放つ存在感は、スペック表では決して伝わらない。むしろ、その場に立った瞬間に理解させられる“説得力”こそが、このマシン最大の魅力である。
次なる3号機が登場するならば、その過剰性はどこまで拡張されるのか。4ミニカスタムという文化の可能性を占う意味でも、その動向から目が離せない。
“過剰性能2号機”の前に同じオーナーが制作した“過剰性能1号機”もモンキーミーティングの会場に並べられていた(写真右)。その姿は明らかに洗練されてきており、次なる“過剰性能”の誕生にも期待したい。
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