
ダブルチョークのウェーバーとクランクシャフトのエンブレムといえば、ドイツのアルピナを置いてほかにありません。いかにも、精緻なメカニズムを象徴したかのようなデザインですが、実際にアルピナに接すればその意図が正確であることに驚くはず。とりわけ、B7Sターボは黎明期の頂点に達したモデルとして知られ、全世界でわずか30人だけが至福のドライブを味わえた逸品です。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
3リッターNAから3.5リッターターボへ
アルピナは今でこそBMWのカタログモデルという位置に収まっているものの、1961年の創業から2022年までは独立した自動車メーカーであり、BMWをベースとしながら全く異なるパフォーマンスを提供し続けてきたのです。無論、レースシーンでの活躍も華々しく、数々のツーリングカー選手権でタイトルを獲得。メルセデスベンツとAMGのような関係になぞらえる方もいますが、アルピナの独立性や革新的技術は趣を異にするもの。BMWがアルピナに対峙するとき、そこには必ず最大限のリスペクトがあるというのも大いに納得です。
6シリーズ(E24)をベースとしたアルピナが登場したのは1976年のこと。5シリーズ(E12)とほぼ同時に発表され、搭載されていたエンジンは直6・DOHCの3.0リッターユニット(M30)にソレックスのキャブ、アルピナオリジナルの吸気システム、カムシャフトなどが装備されていました。アルピナB2と名付けられ、230hpを発揮、最高速は230km/hがカタログに記載されています。ちなみに、アルピナは頭文字と数字の組み合わせを車名に選んでいますが、Bはドイツ語のBenzine(ガソリン)、Cは英語のCompactを意味して、6気筒の小排気量モデルに付いています。また、Dが付くのは、わかりやすくディーゼルエンジン搭載モデルというルール。
1982年に30台のみが作られたアルピナB7Sターボ。日本にも2台がニコル・オートモーティブによって正規輸入されています。
アルピナといえば、このグリーンメタリックかブルーメタリックで、デコラインとよばれるロゴのストライプが印象的なアイコンになっています。
インタークーラーをはじめ画期的テクノロジー満載
1978年になると、アルピナはB2にターボを追加したモデル、B7ターボを発売。エンジンはB2と等しいものですが、マーレの低圧縮ピストンやピエルブルク製インジェクションなど新たな技術が投入されています。また、タービンはKKK(Kühnle, Kopp & Kausch AG:キュンレ・コップ・アンド・カウシュ)のK27と、当時としても大型なものが選ばれています。B7ターボの特徴として、室内から過給圧を0.6~0.9barまで調節可能としており、250~300hpが味わえたとのこと。
そして、今回ご紹介するのがB7の進化&限定版として1982年に登場したB7Sターボ。BMWによる3.5リッターの直6(M88)を搭載しつつ、当時としては採用例が極めて少なかったインタークーラーをはじめ、同社のチーフエンジニア、Dr.ツェセール(Cser)によるレゾナンス式(共鳴)インテークマニホールド、AFT製電子式点火システムといった先端技術が惜しみなく投入されています。もちろん、ブースト調整ダイヤルも継承され(0.6~0.9barと1.5~1.8barなど諸説あります)最大出力330hp、最大トルク500Nmへとパワーアップを遂げています。この結果、0-100km/h加速:5.8秒、最高速は262km/hを記録することに。なお、搭載されるミッションはZF製5速マニュアル(ゲトラグ265という説もあります)で、オールドファンには懐かしいピレリP7を装着していました。
30台のうち2台が日本に正規上陸を果たした
前述のとおりB7Sターボは30台のみが作られ、ドイツに26台、スイスに2台、そして日本にも2台が正規輸入されています。Sが付かないB7ターボもオークションに出ることは滅多にありませんが、B7Sターボが出品されるのは極めてまれなことでしょう。ドイツにあった11台目のグリーンメタリック車は、イギリスでフルレストアを受けた状態で指値は約4200万円。通常のB7ターボならば、北米で1500~2500万円での落札もありましたが、さすがに限定車は格が違います。なお、現在のアルピナはこれまでリリースしたモデルの修復などを担うべく、「ボーフェンジーペン社」と名を変えて存続しています。
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