
ニッキー・ヘイデンといえばモトGPファンにはお馴染み、もっといえばホンダファンにとっては今も印象に残るレーサー。無論、ホンダファクトリーから乗り換えたドゥカティでのレースもまた忘れがたいもの。そんなマニアは世界中にいるようで、ご紹介するマシンは2008年シーズン終了後にニッキーがテスト走行したマシンをオマージュしたもの。ただし、マニアの手作りなどではなく、ファクトリーマシンをベースとした由緒あるデスモセディチ GP8なのです。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
2009年に移籍したのに「GP8」にも乗っていた?!
2003年にホンダからモトGPにデビューしたニッキーでしたが、2009年にはドゥカティ・コルセへと移籍。2007年にケイシー・ストーナーがデスモセディチGP7で成し遂げた選手権制覇は、ニッキーにも希望の光を与えたに違いありません。
デスモセディチは16バルブを意味するイタリア語で、ご承知の通り16バルブのV4エンジンを搭載したドゥカティ・コルセのGPマシン名。末尾の数字は西暦を略したもので、2007年ならばGP7、2010年だとGP10といった具合。
すると、ニッキーがGPで乗ったマシンはGP9となるはずで、今回のGP8は「それっぽくアメリカ国旗をペイントしてるけど、乗ってないじゃん」と思いがち。ですが、2008年のシーズン終了後、ニッキーはGP9のプロトタイプに乗るのと同時にGP8も試乗しているのです。
2008年のモトGPシーズン終了後に、星条旗仕様のGP8を駆るニッキー・ヘイデン。このマシンの精巧なレプリカがオークションに出ました。
ニッキーに敬意をあらわした星条旗モチーフ
モトGPの伝統らしく、翌年のマシンは最終レース後にテスト走行が開示され、その際にニッキーは、退役するGP8と、ドゥカティでの最初のシーズンに乗るバイクであるGP9に跨ったのでした。
また、GP8はご覧の通り星条旗モチーフにカラーリングし直し、アメリカはケンタッキー出身のニッキーに敬意をあらわしたとされています。
注目すべきはコルセのスポンサーステッカーが一切使われず、唯一ブリヂストンのみが付けられていることでしょうか。
BS大好きという噂だったニッキーに気を利かせたのか、コルセとBSの仲がそうさせたのかは詳らかになっていませんが、2011年にニッキーがチームを去るまでドゥカティはブリヂストンを使い続けています。
こちらはオークションに出品されたマシン。熱心なコレクターが、2010年にドゥカティ・コルセからGP8と7のパーツを入手して組み上げたもの。ファクトリーの公認も受けている模様。
翌年のGP9からカーボンフレームとなったので、GP8は最後のトレリスフレーム採用レーサーとなる可能性もありそうです。
「おそらく彼が乗った際に使っていたパーツ」とコルセが証言
今回オークションに出品されたのは、ニッキーが乗ったGP8そのものではなく、レプリカ車両。ですが、中身はファクトリーマシンそのものといっても過言ではありません。
GP8のフレーム、エンジンはもちろん、コルセに残っていたパーツはすべて使っているとのこと。特筆すべきは燃料タンクで、これは「おそらくニッキーが乗った際に使っていたもの」とコルセが証言しているところ。
グランプリマシンといえども、マニアの手によれば切った貼ったで精巧なレプリカは作り得るもの。しかしながら、ファクトリー純正パーツとなると話は別。
すでにニッキーが乗った実車は解体されていると考えると、今回のGP8は正統すぎるニッキー・レプリカと呼べるのではないでしょうか。
800ccのV4エンジンはGPマシンらしく迫力にあふれるもの。ちなみに、公式最高速度として343.2km/hと発表されています。
元オーナーによれば、燃料タンクだけはニッキーが乗ったマシンで使われていたとのこと。とはいえ、ステッカーと#1というのはわざとらしい(笑)。
コントロールユニットは2006年製? となるとGP7で使用されていたユニットかもしれません。なお、現状で可動状態かどうかは公表されていません。
しかし、本当に惜しいレーサーを……
ちなみに、オークションでの指し値は22万5000~32万5000ドル(約3300万~4800万円)と破格なもの。
レースヒストリーもなければ、ニッキー乗車マシンでもないわりに高値を指しているのは、ひとえにニッキー・ヘイデンというレーサーへのリスペクトにほかなりません。
「惜しいレーサーを亡くしたものだ」とは世界共通の認識なのでしょう。
モトGP恒例のシーズン終了後のテスト走行。ニッキーのレーシングスーツが真っ白というのがいかにも端境期をあらわしています。
テスト走行前でしょうか、ニッキーのワクワク感が伝わってくるショット。今さらながら、惜しいレーサーを亡くしたものです。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(ドゥカティ)
新型ムルティストラーダV4Sはダート性能もアップ! ムルティストラーダとは、英語にすれば“ マルチな道”、つまり“全路面対応型バイク”という意味だ。実際、ムルティストラーダのコンセプトは4in1バイク[…]
ドゥカティ初の単気筒モタードモデル モタードモデルといえば、通常はオフ車の派生モデルとして作られるが、この「ハイパーモタード698モノ」は、ロードスポーツキャラに100%振りきって、車体剛性も高めに設[…]
走行&レクチャーを1日繰り返す 上のメインカットは、イタリア人講師のリビオ・ベローナさんを追いかける筆者と、その走りを後ろから観察する元世界GP250ccクラスチャンピオン・原田哲也さん。コースはMo[…]
イベントが盛りだくさん! ドゥカティオーナーであるドゥカティストや、ドゥカティファンを対象としたお祭り『DUCATI DAY』が2025年も開催された。 会場である千葉県木更津市にあるポルシェ・エクス[…]
予選はCBR1000RR-RとCBR600RRがトップタイムだったが…… 今年のマン島は、予選ウィークがはじまった5月26日から雨が降らない日が一日もない、悪天候に見舞われた。そのため予選はことごとく[…]
最新の関連記事(モトGP)
欲をかきすぎると自滅する 快進撃を続けている、ドゥカティ・レノボチームのマルク・マルケス。最強のライダーに最強のマシンを与えてしまったのですから、誰もが「こうなるだろうな……」と予想した通りのシーズン[…]
2ストGPマシン開発を決断、その僅か9ヶ月後にプロトは走り出した! ホンダは1967年に50cc、125cc、250cc、350cc、そして500ccクラスの5クラスでメーカータイトル全制覇の後、FI[…]
タイヤの内圧規定ってなんだ? 今シーズン、MotoGPクラスでたびたび話題になっているタイヤの「内圧規定」。MotoGPをTV観戦しているファンの方なら、この言葉を耳にしたことがあるでしょう。 ときに[…]
「自分には自分にやり方がある」だけじゃない 前回に続き、MotoGP前半戦の振り返りです。今年、MotoGPにステップアップした小椋藍くんは、「あれ? 前からいたんだっけ?」と感じるぐらい、MotoG[…]
MotoGPライダーが参戦したいと願うレースが真夏の日本にある もうすぐ鈴鹿8耐です。EWCクラスにはホンダ、ヤマハ、そしてBMWの3チームがファクトリー体制で臨みますね。スズキも昨年に引き続き、カー[…]
人気記事ランキング(全体)
どうする? スクーターのエンジンがかからない ※これはまさに、筆者が直面した実話です。我が家のスクーター(TODAY)に乗ろうと思って、車庫から引っ張り出しました。ちょっと久しぶりですね。エンジンをか[…]
カスタムスピリットから生まれた英国ブランド まずMUTT Motorcyclesというブランドについておさらいしておこう。2016年、英国バーミンガムでカスタムビルダーのWill RiggとBenny[…]
“思い出の1台”に乗りたい バイクメーカーがニューモデルを開発する際は、ユーザーがそれを受容できるか、あるいは新たなマーケットを作り出せるかが重要。レーサーレプリカもネイキッドも、それがウケると分かっ[…]
日本の免許制度を考慮してナナハン4気筒と同時開発 GS750の弟分。世間にはそういう見方をする人がいるけれど、’76年から発売が始まったGS400を弟分と呼ぶのは、少々語弊があるのかもしれない。なんと[…]
随所に専用部品を投入したZシリーズ初のR仕様 Z1000の派生/上級機種として’78年に登場したZ1‐Rは、評価がなかなか難しいモデルである。まず当時の流行だったカフェレーサーの手法を取り入れながら、[…]
最新の投稿記事(全体)
PROGRIP専用の信頼接着剤 デイトナ(Daytona)の「グリップボンド PROGRIP 耐振ゲルタイプ専用 12g 93129」は、PROGRIP用に設計された専用接着剤です。容量は12gで、初[…]
日本仕様が出れば車名はスーパーフォアになるか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「Ninja ZX-4R」が登場し[…]
エンデュランス バイクETCケース 汎用 EK395HANA1の概要 エンデュランスのETCケース EK395HANA1は、材質にSUS304を採用した黒塗装仕上げで耐久性と防錆性に配慮された製品です[…]
FLHXSE CVOストリートグライド:CVOでは唯一となるバットウイングフェアリング フラッグシップモデルを象徴するバットウイングフェアリング。そのアイコンを持つ最上級仕様が「CVOストリートグライ[…]
コンパクトで使いやすいワイヤーロック ヘンリービギンズの「デイトナ ワイヤーロック DLK120」は、質量約90gの軽量設計で、ツーリング時の携行に適したポータブルロックです。ダイヤルロック式のため鍵[…]
- 1
- 2