国産市販バイクが世界の頂点に上り詰めた昭和44年(1969年)から現代に至る50年の間に登場した”エポックメイキングなロードスポーツ”をテーマににお届けするシリーズ。今回は本稿は平成27~30年(2015~2018)で平成時代を締めくくった国産マシンの復権をお届けする。
●文:ヤングマシン編集部
- 1 世界不況からの停滞期を打破し、新たな“世界一”への挑戦が始まった
- 2 KAWASAKI Ninja H2/H2R──300ps超! 市販バイク史上初のスーパーチャージドモンスター
- 3 HONDA RC213V-S──禁断のモトGP公道レプリカ
- 4 YAMAHA YZF-R1/R1M──国産SSの逆襲がここから始まった
- 5 KAWASAKI Ninja ZX-10R──したたかに速いSBK常勝マシン
- 6 HONDA CRF1000L AFRICA TWIN──オフもオンもOK、知能的リアルアドベンチャー
- 7 HONDA CBR250RR──極めてレーシー、クラスを超えた本気のRR
- 8 HONDA PCX HYBRID──世界初のモーターアシスト2輪車
- 9 YAMAHA NIKEN──究極の安心感と旋回性を狙った、初の大型スポーツ3輪
世界不況からの停滞期を打破し、新たな“世界一”への挑戦が始まった
2008年からの世界同時不況のダメージは大きく、さらに東日本大震災が追い打ちをかけたことにより、国産車のニューモデル開発は一時停滞を余儀なくされる。その間に海外勢のスーパースポーツは先進的な電子制御デバイスを次々に採用、そしてベースポテンシャルにも磨きをかけ、ついには国産スーパースポーツが「古いもの」に見えるほど飛躍的な進歩を遂げる。
そうした状況を一変させたのは、1998年にスーパースポーツの世界を変えたYZF-R1の末裔だった。2015年に登場することになる最新型のR1については、同時期にスーパーバイク世界選手権で強さを発揮していたカワサキも事前に「凄いものが出るらしい」と情報を察知。危機感を募らせることになり、これがニンジャZX-10Rにも大きな進化を促す結果となった。同じ年にはスーパーチャージャーを搭載したニンジャH2もデビューするなど、それまでの鬱憤を晴らすかのように国産勢が気を吐き、ついにはホンダもモトGPリアルレプリカのRC213V-Sを発売にこぎつける。ここからの群雄割拠は現在も続き、国産4メーカーと海外勢が入り乱れての開発競争は、ますます熱を帯びるばかりだ。
1989年、昭和64年は1月7日をもってその年号を終了し、同年1月8日からは平成に改元。その平成時代も’19年4月30日をもって終わりを告げることになる。CB750FOURから50年にわたって連綿と続いてきた名車の歴史は、どのように受け継がれていくことになるのだろうか。そして、次の元号で最初に名車と呼ばれることになるのは、どのようなバイクなのだろうか。きっとそれは、また幾年かが経ってみないとわからない。名車と呼ばれるものは、あとになって振り返ったときに初めて、歴史を変えたのはあのバイクだったのか、とわかるものだからだ。
KAWASAKI Ninja H2/H2R──300ps超! 市販バイク史上初のスーパーチャージドモンスター
低回転域から機械的に過給するスーパーチャージーを搭載した世界初の市販バイクとして、’15年にリリース。自社開発のタービンや航空機譲りの空力ボディなど川崎重工の総力が結集され、まさに異次元の加速を示す。クローズド専用のH2Rは驚異の310ps、これをベースに公道走行可能としたH2は200psを発生。フレームは、敢えてアルミではなく、鋼管トレリスを採用し、しなやかなコーナリング性能を狙った。独自開発した反射率の高い銀鏡塗装も史上初で、特別なマシンを引き立てる。年々進化を遂げ、’17でH2が6psアップを果たし、6軸IMUやコーナリングをアシストするKCMF、オーリンズ製サスペンションを追加。さらに最新の’19年モデルでは231psに到達している。
HONDA RC213V-S──禁断のモトGP公道レプリカ
モトGPマシン=RC213Vに、公道走行に必要な最小限の変更のみを加えた前代未聞の1台。精緻なカムギアトレーンを採用した90度V4や乾燥重量170kgのシャーシなど、RCVの「扱いやすさこそ速い」コンセプトを忠実に再現した。ベテラン技術者が手作業で製作し、生産台数は世界限定約250台のみ。2190万円のプライスも話題となった。日本仕様は70psだが、別途160万円のサーキット向けキットを装着すれば215psを発揮可能だ。
YAMAHA YZF-R1/R1M──国産SSの逆襲がここから始まった
’15年、モトGPマシン=YZR-M1の血統を受け継ぎ、サーキット走行を軸に刷新した8代目R1。国産スーパースポーツ勢の先陣を切り、自社開発の6軸センサーから緻密に制御するトラコンほか電脳をフル投入した。クラス唯一となる不等間隔爆発のクロスプレーンクランクを採用した直4エンジンにはチタンコンロッドを奢り、200psをマーク。パワーウェイトレシオは1.0を切り、アルミ製の燃料タンクやマグネシウムホイールも他にはない武器だ。上級版Mはカーボン外装やオーリンズ製の電子制御サスペンションも奢る。
KAWASAKI Ninja ZX-10R──したたかに速いSBK常勝マシン
SBK=スーパーバイク世界選手権で王者に輝いたワークスマシンのノウハウを注入し、’16で新生。電制スロットルやボッシュ製6軸センサー、コーナリングアシストなどの電脳に加え、タイトルに貢献したショーワ製バランスフリーFフォークを世界初投入した。さらに’17でレース対応版のNinja ZX-10RRを追加。バルブリフターにDLCコートを施したほか、強化型クランクケース、アルミ鍛造ホイールなども与えた。SBKでは’13、’15~’18年の王座を獲得し、’19年はドゥカティのパニガーレV4Rを迎え撃つ。
HONDA CRF1000L AFRICA TWIN──オフもオンもOK、知能的リアルアドベンチャー
往年のパリダカレプリカの車名を受け継ぎ、’16年に完全新設計で復活デビュー。270度クランク採用の998㏄パラレルツインをはじめ、前21&後18インチのスポークホイール、ライバルより軽量&スリムな車体などでオンロードにもオフロードにも強いのが持ち味だ。さらにセミオートマチック機構のDCT仕様は、登坂時の角度を察知したり、スライドを許容したりといった『Gスイッチ』を備える専用設計。ベテラン並みの的確な自動変速によって誰もが走りに集中でき、新しいオフロードの可能性を切り拓いた。ABSはリヤのみオン&オフが可能で、3段階+オフに設定できるトルクコントロール(=トラコン)も備える。’18年モデルで電子制御スロットルを採用し、18→24Lのビッグタンク仕様とした“アドベンチャースポーツ”も追加された。
HONDA CBR250RR──極めてレーシー、クラスを超えた本気のRR
人気のニンジャ250、YZF-R25に対抗すべく、ホンダが送り込んだ意欲作。完全新設計の並列2気筒はダウンドラフト吸気をはじめ、モト3レーサー譲りの狭角バルブ、主要3軸三角配置など本格的。さらに250初の電制スロットルと3段階のパワーモードまで備え、クラス最強の38psを発生する。車体は高剛性な鋼管ツインパイプのトラス構造で、ライバルより軽い165kgを達成。足まわりも豪華で、倒立式フロントフォークやリンク式リヤサスペンション、クラス唯一のアルミ製スイングアームで武装した。さらに、LEDヘッドライトなどのシャープな造形も魅力的。スポーツ性能は他をよせつけず、’18年現在も今だ孤高の1台である。
HONDA PCX HYBRID──世界初のモーターアシスト2輪車
’18年型PCXに、リチウムイオンバッテリーと駆動アシスト機能を追加し、世界初の量産ハイブリッドバイクとして今秋登場する。エンジン出力に加え、ACGスターターに搭載された電動モーターが1.9ps&0.44kg-mを発生。アクセルを開けると4秒アシストし、4000rpmで最大約33%、5000rpmで22%トルクを向上させる。抜群に出足が鋭く、燃費や静粛性もアップ。変更は最小限に留め、車重はガソリン版からわずか+5kgに過ぎない。
YAMAHA NIKEN──究極の安心感と旋回性を狙った、初の大型スポーツ3輪
フロント2輪+リヤ1輪のトリシティで培ったリーニングマルチホイール技術を用いた革新的ビッグバイクがナイケンだ。バンク角に応じてフロント2輪が並行して傾くトリシティの安定性能に加え、ナイケンでは「最高のコーナリング性能」を目標に開発。専用スチールフレームにMT-09ベースの847㏄トリプルを積み、フォークを外側に2本ずつ配置することで高剛性と深い最大バンク角45度を確保した。この「二刀流」を思わせる2本フォーク=二剣が車名の由来だ。前輪のグリップ力は絶大で、スキルを問わず安心して攻めることが可能。ウエットや荒れた路面でもスムーズにラインを描く。
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