毎年のように新技術が投入され、日本の4メーカーが世界4大メーカーとして覇権を争っていた時代。メーターに320km/hの文字が刻まれた最速マシンし、「乗れるものなら乗ってみろ!」のビッグネイキッドが登場した。そして1996年には新たな免許制度が施行される。
●文:ヤングマシン編集部
- 1 大型免許が教習所で取得できるようになりビッグバイクブームが到来
- 2 KAWASAKI ZZ-R1100──’90年代最速競争をもたらしたラムエア巨艦
- 3 HONDA CBR900RR──元祖スーパースポーツワインディングヒーロー新時代
- 4 HONDA NR──唯一無二の楕円ピストン量産車
- 5 HONDA RVF/RC45──V4レプリカここに極まる
- 6 YAMAHA GTS1000/A──異色メカニズムを満載
- 7 YAMAHA TDM850──オンロード版テネレ
- 8 HONDA CB1000 SUPER FOUR──ネイキッドキング、ここに誕生
- 9 HONDA CB400 SUPER FOUR──400版ビッグワンはベスト・オブ・教習車
- 10 YAMAHA XJR1200──空冷&オーリンズが光る
- 11 SUZUKI GSF1200──スズキはジャジャ馬路線
- 12 KAWASAKI ZRX1100──カワサキネイキッド第2の柱
- 13 HONDA HORNET──極太リヤタイヤで250ライダーのハートをガッチリ
大型免許が教習所で取得できるようになりビッグバイクブームが到来
限定解除、つまり自動二輪免許中型限定(いわゆる中免)から中型限定の条件を外すために、各都道府県の試験場で技能試験(限定解除審査)を受けなければならなかった時代は、平成8年(1996)をもって終わりを告げる。免許制度が変わったことにより、大型二輪免許の実技試験を教習所で受けられるようになったのだ。そして、それ以前は免許証の「自二」の区分に条件として「自動二輪は中型に限る」があるかないかで区別されていたが、「普自二」「大自二」と分けて記載されるようになったのである。ただ、限定解除したライダーの免許証には制度改正後も一定期間「自二」の記載が残っていたため、しばらくの間はこれが限定解除ライダーにとってひそかなプライドとなった。
教習所で免許取得が可能になることは数年前から議論されていた。そして平成8年(1996)からの実施が確実となるや、大型二輪需要の急激な拡大を見越してヤングマシン編集部は’94年秋に姉妹誌「ビッグマシン」を創刊。これはのちの平成28年(2016)に役割を終えて休刊した。
そんな時代背景もあり、この平成2~8年あたりに生産されたビッグバイクは、逆輸入車、国内仕様を問わず注目度が高く、高嶺の花から時代の主軸へと様変わりしていった。この免許制度の変更にあたっては、実施前後でビッグバイクの中古車価格が激変。ちょっとしたバブルの様相を呈していたことが記憶にある読者もいるのでは?
平成2年にはスーパーファミコンが発売されたほか、いわゆるバブル景気が最後の輝きを放ちはじめていた。平成4年は東海道新幹線で「のぞみ」が運転を開始し、長谷川町子が死去。バブル崩壊後、平成7年には阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件などが記憶にも記録にも残る出来事となっている。
KAWASAKI ZZ-R1100──’90年代最速競争をもたらしたラムエア巨艦
’90年代のビッグバイクシーンは「最強・最速」の座を各メーカーが鎬を削って争う時代でもあった。’90 年に初代C1型が登場したカワサキZZ-R1100がその引き金になったと言っていいだろう。320km/hまで数字が振られたスピードメーターは相当なインパクトを当時のライダーたちに与えることとなった。’93年に進化したD型は、ラムエアダクトを2個に増やし、カウルもさらに空力性能を高めるなど高速性能を追求。また燃料タンク容量を3L増加、リヤタイヤのトレッドサイズアップ、ブレーキまわりの強化など、走り全体の底上げも行われた。実際にはストック状態での実測300km/hオーバーは叶わなかった が、プロ・アマ問わずカスタムでこれを狙う者が続出。数々の伝説を世界各地に残すこととなった。
HONDA CBR900RR──元祖スーパースポーツワインディングヒーロー新時代
「大排気量化によるモアパワー」という当時の流れに反し、「750ccクラスの軽量車体にワンクラス上のパワーで運動性能に長けた新ジャンルを」と誕生したのが、元祖スーパースポーツの初代ファイアーブレードだ。国内ではデビュー当初こそ最速路線の大排気量車に世間の人気が集まってはいたが、パワーウェイトレシオに優れたパッケージングは重量級オーバーリッター車の不得意とした峠でその性能を遺憾なく発揮。着々とファンを広げて、モデルチェンジも重ねられていった。やがて’90年代末から大排気量最速路線との人気は逆転。’00年代からはバイクシーンの最前線としてスーパースポーツの天下となっていくのである。
HONDA NR──唯一無二の楕円ピストン量産車
’79年にホンダがWGPに復帰した際、2ストに4ストで勝つため作り上げられたのがレーサーのNR500。そのV4エンジンは楕円ピストンにより実質V8とも言える前代未聞の技術が投入された。しかし、2万回転以上回るもそれにバルブまわりがついていけないなどメカニズムの問題が山積。可能性は見せながら、残念な結果に終わってしまった。このNR500開発当初からあった「技術を市販車に生かす」という目的が実現したのは約10年後。楕円ピストンの750㏄、V4を持つNRは、’90年東京モーターショーでのプロトタイプ発表後、’92年に市販化。夢に挑戦するホンダを表すフラッグシップとして、また520万円という価格もあって話題となった。
HONDA RVF/RC45──V4レプリカここに極まる
TT-F1からスーパーバイクへのレースレギュレーション変更に伴い、RC30に代わるレースベース用ホモロゲモデルとして登場。90度V4 エンジンはサイドカムチェーン化やホンダ市販車初のPGM-FIで全面進化し、車体面も剛性が見直された新フレームで戦闘力をアップ。ワークスマシンもこれをベースに作られ、全日本や鈴鹿8耐などで快勝を続けた。
YAMAHA GTS1000/A──異色メカニズムを満載
フロントに加速・制動時の挙動変化の少ない片持ちのスイングアーム式の足まわりを採用したユニークなリッターツアラー。FZR1000譲りの5バルブ直4エンジンを強度メンバーとして左右から挟み込むオメガ(Ω)形状のメインフレームも独特だった。またエンジンには時代に先駆けFI化も導入するなど技術的意欲作だった。ABS付きのAも併売。
YAMAHA TDM850──オンロード版テネレ
それまでXTZ750スーパーテネレをオールラウンダーとしてオフロード以外にも使っていた欧州ユーザーは多かったが、もっと思い切りオンロード寄りでいいんじゃないかと排気量アップ&デルタボックスフレーム化も施して誕生。使い勝手の良さで大ヒットとなった。そのコンセプトは現在のトレーサー900に通じていると言えよう。
HONDA CB1000 SUPER FOUR──ネイキッドキング、ここに誕生
レプリカブームの次に到来したのは、硬派で普遍的なオートバイらしさが求められたネイキッドブーム。またオーバー750cc市場はそれまでの5年間で約1.8倍の伸びを示しており、さらに伸びると推測されていた。ホンダはこれに「PROJECT BIG-1」と称してCBブランドを再構築。パワフルな998cc直4をリヤ2本サスのダブルクレードルフレームに積んだ迫力あるマッスルフォルムをCB1100Rを彷彿とさせる白×赤のカラーリングでまとめたCB1000SFは、東京モーターショーでコンセプトモデルが発表されるや大反響となった。さらに市販正式発表を鈴鹿8耐会場で行いマーシャルカーとしてサプライズ走行。一躍ブームの頂点に上り詰めた。
HONDA CB400 SUPER FOUR──400版ビッグワンはベスト・オブ・教習車
東京モーターショーでのCB1000SFコンセプト発表後、先に市販モデルとして登場したのはCB400SF。1000SFのフォルムを忠実に受け継いでおり、まだ市場の主力だった中免ライダーたちは熱烈大歓迎。最初はこれに乗り、やがて大型にステップアップしていった者も多い。素性の良さはもはや語る必要がないだろう。
YAMAHA XJR1200──空冷&オーリンズが光る
カワサキ・ゼファーに始まる国内ネイキッドブームに対し、後発組となるヤマハが出した回答はFJ1200の直4エンジンをベースに作ったXJR1200だった。ホンダCB1000SFやゼファー1100より排気量は上、しかも空冷とあって人気は上々。さらにライセンス生産品ながらオーリンズのリヤショックを標準装備というのもライダー心理を心得ていた。
SUZUKI GSF1200──スズキはジャジャ馬路線
当時、250&400でバンディットが当たっていたからか、リヤ2本ショックの王道スタイルではなくモノショックでビッグNK市場にも参戦したのがスズキ。クラス最軽量、最コンパクト、GSX-R1100ベースの高レスポンス油冷エンジンでネイキッドらしからぬスポーツさを見せ、ライバルとは別路線を狙っていた。その評価は日本より海外で高かった。
KAWASAKI ZRX1100──カワサキネイキッド第2の柱
後発ライバルたちに対してカワサキも水冷ネイキッドでテコ入れ。ローソンレプリカをオマージュして走りのイメージを前面に押し出した。実際にZZR1100ベースの力強いエンジンや、CB&XJRよりコンパクトな車体とすることで運動性能で勝り、スポーティ派のライダーを掌握。空冷ゼファーとの2本立てでカワサキネイキッド市場を支えていった。
HONDA HORNET──極太リヤタイヤで250ライダーのハートをガッチリ
CB1000SF&400SFの大ヒットと裏腹に、ジェイドで苦戦していたホンダの250ccネイキッド市場。だが、その後継となるホーネットは、みごと巻き返しに成功した。その理由は、なんといってもビッグバイクと同じ180/55ZR17サイズの極太リヤタイヤ。250ccとは思えぬグラマラスなリヤビューがホーネット最大の魅力だった。中免ライダーと言えどビッグバイクへの憧れは、もはや止められない流れとなっていた。今となっては、モーターのように回る250cc4気筒も超お宝である。アップタイプのマフラーも当時の市販ノーマル車としては実に斬新でスポーティ。クラスを超えた魅力があった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
矢田部テストコースの計測データが、メーカーの威信をかけた争いに 2月1日に発表されたカワサキ・Ninja ZX-4R/SE/RR。久しぶりの国産400cc 4気筒マシンということでその存在が噂されるよ[…]
※本記事で取り上げる「初」は、公道走行可能な量産二輪市販車としての”初”を意味します。なお、その定義には諸説ある場合があります。 ’92 ホンダCBR900RRファイアーブレード〈世界初・スーパースポ[…]
前代未聞の機構が満載だった4ストロークV4エンジン 1970年代中盤以降の世界GP500では、長きに渡って王座に君臨してきた4スト3/4気筒のMVアグスタを退け、ヤマハとスズキの2スト4気筒が主役にな[…]
'90年代のforceV4〈ホンダ RVF/RC45〉 スーパーバイクのレースレギュレーションが変更された'94年。全日本ロードや8耐もこれに続き、各メーカーとも750㏄マシンの進化に専心した。ホンダ[…]
バイク大国日本を体現したフラッグシップネイキッド 時は遡ること30年前の1992年。レプリカブームの衰退に代わって巻き起こったネイキッドブーム、そしてビッグバイクブームの大本命として誕生したのが、初代[…]
最新の関連記事([特集] 日本車LEGEND)
世界不況からの停滞期を打破し、新たな“世界一”への挑戦が始まった 2008年からの世界同時不況のダメージは大きく、さらに東日本大震災が追い打ちをかけたことにより、国産車のニューモデル開発は一時停滞を余[…]
究極性能先鋭型から、お手ごろパッケージのグローバル車が時代の寵児に オーバー300km/h時代は外的要因もあって唐突に幕切れ、それでも高性能追求のやまなかったスーパースポーツだったが、スーパーバイク世[…]
レプリカブームはリッタークラスへ。速度自主規制発動から世界最速ロマンも終焉へ ZZ-R1100やCBR900RR、CB1300 SUPER FOURといった大ヒットが生まれたこと、そして教習所での大型[…]
ハチハチ、レーサーと同時開発、後方排気など様々なワードが巷に踊る 群雄割拠のレーサーレプリカブームはやがて、決定版ともいえる’88NSR250Rの登場でピークを迎えていく。「アルミフレーム」「TZと同[…]
レプリカブームがナナハンクラスに進撃。’80s名作ロードスターも誕生した 250ccで始まったレーサーレプリカ熱狂時代は、RG250Γをリリースしたスズキが同時代の開拓者として次なる一手を打つ。それが[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
ビッグシングルのような低中速パンチ&ジェットフィールの高回転! Part1で触れたように、鈴鹿のバックストレートで2速も6速も同じ加速Gという、経験したことのない哮(たけ)り狂ったダッシュに怖れを感じ[…]
長い歴史と抜群の知名度 日本の2輪業界では、ある分野でエポックメイキングなモデルが登場すると、他メーカーが似て非なる車両で追随・対抗するのが昔から通例になっている。もっとも一昔前と比べれば、最近は明ら[…]
わずか1日のみの開催でありながら、来場者数は1万人規模。毎春、ポートメッセなごや(名古屋市国際展示場)で行われるカスタムショーが「JOINTS CUSTOM BIKE SHOW(ジョインツカスタムバイ[…]
ヴィンテージハーレーを彷彿とさせる装備の数々は、すべて純正ノーマル いにしえのハーレーダビッドソンが持っていたリジッドフレームのシルエットとスプリンガーフォークの組み合わせを再現し、1988年に登場し[…]
ホークシリーズ登場後、すぐにホークIIIを投入。“4気筒+DOHC”勢に対抗したが… 1977年の登場から1〜2年、扱いやすさと俊敏さを併せ持つホークシリーズは一定の人気を獲得したが、ホークII CB[…]
人気記事ランキング(全体)
330円の万能ソケット買ったので試してみたい いつ頃からだろうか?100円ショップが100円だけではなくなってしまったのは。工具のコーナーも例外ではなく、100円、200円、500円、ものによっては1[…]
どうもアイキョウです。ワークマンにはさまざまなレインウェアがあります。 雨の日でも通勤でバイクに乗るならワークマンのバイカーズという製品がオススメです。ワークマンレインウェアの中では高額な5800円な[…]
止められても切符処理されないことも。そこにはどんな弁明があったのか? 交通取り締まりをしている警察官に停止を求められて「違反ですよ」と告げられ、アレコレと説明をしたところ…、「まぁ今回は切符を切らない[…]
――はじめに、津久井高校の県内の位置付けや特色を教えてください。 熊坂:県立高校に移管される前も含めると、明治35年に始まった学校なので120年を超える歴史があります。全日制と夜間定時制の2課程ありま[…]
トルクが凄ぇ! でも意外なほど普通に走る 2294ccの直列3気筒エンジンを搭載した初代ロケットIII(現在はロケット3)を初めて目の前にしたとき、こんな大きなバイクをまともに走らせられるんだろうかと[…]
最新の投稿記事(全体)
↓メインビジュアルのALT設定をお願いします(枠をクリック→右サイドメニューのブロックタブで設定) 「かっこいいバイクじゃん!」「あんなクルマに乗ってみたいなぁ」 と、憧れのバイクやクルマを目の前にし[…]
ビッグシングルのような低中速パンチ&ジェットフィールの高回転! Part1で触れたように、鈴鹿のバックストレートで2速も6速も同じ加速Gという、経験したことのない哮(たけ)り狂ったダッシュに怖れを感じ[…]
愛車とキャンプツーリングに行きたい! おつおつおー!バーチャルバイク女子のアズマリムです。バイク乗りなら一度はやってみたい夢といえば、キャンプツーリング(だよね?)!! アズリムの愛車は、スーパーカブ[…]
①バットサイクル【映画「バットマン」劇中車(1966年)】 バットマンシリーズ初の長編映画として1966年に公開された“バットマン”に登場。バットモービルのバイク版として今ではおなじみの存在だが、初登[…]
こんにちは、マットです!! 今回はアメリカ最古のモーターサイクルメーカーで有名なインディアンモーターサイクルのクルーザーモデルである新型スポーツチーフに試乗してきました!! 排気量1890cc!!ど迫[…]
- 1
- 2