毎年のように新技術が投入され、日本の4メーカーが世界4大メーカーとして覇権を争っていた時代。250&400レプリカは究極形態へ達し、馬力自主規制の発動からブーム衰退へ向かっていった。
●文:ヤングマシン編集部
- 1 ハチハチ、レーサーと同時開発、後方排気など様々なワードが巷に踊る
- 2 HONDA NSR250R SP──人気、実力ともに最強リアル公道レーサーの決定版
- 3 SUZUKI RGV250Γ──スパルタンなジャジャ馬
- 4 YAMAHA TZR250──掟破りの後方排気
- 5 HONDA CBR400RR──記念すべき初のダブルアール
- 6 HONDA VFR400R [NC30]──ワークス直系4ストミドル究極形
- 7 YAMAHA FZR400──現代的なレイアウトを導入
- 8 KAWASAKI ZXR400──倒立にラムエアの最終兵器
- 9 HONDA AFRICA TWIN──地上全てを走破する本格パリダカレプリカ
- 10 YAMAHA XTZ750 SUPER TÉNÉRÉ──5バルブの高速ラリーレイド
- 11 SUZUKI DR800S──世界最大シングルの元祖怪鳥
- 12 YAMAHA TDR250──TZRの心臓を積む異色作
- 13 HONDA GL1500 GOLDWING──フラット6で快適の極みへ
- 14 KAWASAKI ZEPHYR──時代を超越したフォルムでネイキッド旋風を巻き起こした
ハチハチ、レーサーと同時開発、後方排気など様々なワードが巷に踊る
群雄割拠のレーサーレプリカブームはやがて、決定版ともいえる’88NSR250Rの登場でピークを迎えていく。「アルミフレーム」「TZと同時開発」「後方排気」「RS250のパーツがそのまま使える」「配線1本で58ps」など、様々なワードが巷でささやかれたり、時には声を大にして「どっちが速い!?」「パラ2こそ正義、V型は音が……」などと言い争われたりもした。
そして平成元年、レプリカブームに終止符を打つことになるバイク、ゼファーが登場する。スペック至上主義から、バイクらしいバイクへ。熱狂の時代は過ぎ去り、現代へと続くバイク文化が成熟をはじめることになる。平成元年には手塚治虫や美空ひばりが死去したほか、ゲームボーイの発売やNHKの衛星放送開始といった出来事があった。たった2年の間に、時代は劇的に動いた。
HONDA NSR250R SP──人気、実力ともに最強リアル公道レーサーの決定版
大ヒットしたヤマハTZRの対抗馬として’86年10月、ホンダがNSR250Rを送り込んだ。その走りは衝撃的だった。以前から市販レーサーと共同開発したモデルは存在したが、NSRはレーサーRS250Rにそのまま保安部品を装着したような仕上がりだったのだ。新作の90度Vツインは全域パワーバンドを獲得。目の字断面のアルミフレームもRS譲りで、車重はクラス最軽量を誇った。
改造範囲が狭いSPレースではNSRでなければ勝てないほど強く、爆発的なセールスを記録。’88年型で早くもフルチェンジし、電子制御のPGMキャブや5角断面フレームを採用した。歴代最強の呼び声も高く、市販バイク初のマグネシウムホイールを奢るSPも追加された。
SUZUKI RGV250Γ──スパルタンなジャジャ馬
本格レプリカの元祖であるΓが’88年、次世代機に進化を遂げた。心臓部に新作の90度Vツインを搭載し、低中速トルクを増強する1シリンダーあたり2つの排気デバイス、ボックス構造のアルミダイヤモンドフレームなど最新装備を満載。凄まじい高回転パワーが「ジャジャ馬」として愛され、ケヴィン・シュワンツのレプリカカラーも魅力的だった。
YAMAHA TZR250──掟破りの後方排気
NSRを打倒すべく、’89年型でTZRが初のフルモデルチェンジを敢行。型式名は3MA(愛称サンマ)で、レーサー’88TZ250と同様「前方吸気&後方排気」という通常と逆のレイアウトが話題を呼んだ。低重心化や吸気効率の向上などを狙ったが、ピーキーな特性に。テールに収めた2本出しチャンバーも特徴で、共鳴音は芸術的だ。
HONDA CBR400RR──記念すべき初のダブルアール
’86年デビューのCBR400Rは、ホンダの400㏄で初めてカムギアトレーンを搭載。性能十分ながら、ツアラー風の外観で支持を得られなかった。そこでレプリカのスタイルを与え、より戦闘力を向上した発展版が「RR」だ。新型ヘッドやキャブを与え、スリム化したアルミフレームで3㎏減量。デビュー年に鈴鹿4耐も制覇した。
HONDA VFR400R [NC30]──ワークス直系4ストミドル究極形
ホンダのV4がサーキットを席巻していた’86年、400初のV4レプリカとして投入。ワークスマシンさながらのフルカウルに、カムギアトレーン、ダイヤモンド式アルミフレームなどの先進メカを採用した。’87で片持ち式スイングアーム=プロアームを獲得。’89でRC30のデザインをイメージした決定版のNC30にチェンジした。
YAMAHA FZR400──現代的なレイアウトを導入
FZ400Rに続く、本格4ストレプリカとして’86年に投入。ワークスレーサーと同時開発し、59psの高回転エンジンに極太アルミデルタボックスフレーム、シート前の燃料タンクなどサーキット向けの装備を満載する。前傾エンジンやダウンドラフト吸気など近代的レイアウトの「GENESIS」を400で初採用したのも本作だ。
KAWASAKI ZXR400──倒立にラムエアの最終兵器
レプリカブームを静観していたカワサキが’89年、ついに解き放った真正レプリカ。お家芸であるサイドカムチェーン方式の水冷直4をはじめ、市販車初の倒立フォーク、アルミ製ダイヤモンドフレームなどF3ワークスレーサー譲りのハイテクで武装する。中でも「洗濯機ホース」と呼ばれたタンク上の吸入ホースは有名だ。
HONDA AFRICA TWIN──地上全てを走破する本格パリダカレプリカ
世界一過酷と言われるパリダカールラリーに、’86年からホンダが45度V型2気筒のワークスレーサーNXR750を送り込み、4連覇の偉業を達成。そして’88年、NXRの技術を還元した市販車、アフリカツイン(欧州名XRV650)を発売した。心臓はロードスポーツのブロス650と同型で、Vバンク角を52度としながら、24ℓ大容量タンクと一体型のアッパーカウルや、大型アルミアンダーガードなどNXRのイメージを再現。φ43㎜のエアアシスト付きFフォーク、プロリンク式アルミリヤアームなど足まわりも充実していた。さらに’90年、742cc化で57psに増強。大型カウルやフロントWディスクも入手した。
YAMAHA XTZ750 SUPER TÉNÉRÉ──5バルブの高速ラリーレイド
アフリカツインに先駆け、’83年に単気筒のパリダカレプリカ=XT600Zテネレを市販していたヤマハ。高速化するラリーに対応すべく、’89 年にDOHC5バルブの750㏄パラツインを積むXTZ750を投入した。シリンダーを45度前傾させ、コンパクトさと低重心を両立。’90年のパリダカでは2位、’91年に優勝を果たしている。
SUZUKI DR800S──世界最大シングルの元祖怪鳥
ファラオの怪鳥」と呼ばれたパリダカワークス、DR-ジータのレプリカとして’88 年にDR750Sが登場。そして’90年、779 ccにボアアップしたDR800Sに進化を遂げた。量産バイクの単気筒として世界最大で、ボア×ストロークは 驚異の105×90mm。さらにクチバシ状のデザインは今も一般的だが、その元祖がDRシリーズとなる。
YAMAHA TDR250──TZRの心臓を積む異色作
レプリカであるTZR250の2ストパラツインを搭載した、前代未聞のデュアルパーパス。フレームはスチール製ダブルクレードルで、モノクロスサスやフロント18&リヤ17インチのアルミスポークホイールの脚を組み合わせた。オフロード的な車体構成ながらオン寄りの性格で、強烈加速が楽しい。モタードの先駆けと言える存在だ。
HONDA GL1500 GOLDWING──フラット6で快適の極みへ
’75年にデビューした初代ゴールドウイングのGL1000は、水平対向4気筒999㏄から始まり、1100、1200と年々進化を重ねた。ついに’88年、シルキーな水平対向6気筒1520ccの新型エンジンと、低重心化&高剛性を実現した新作フレームによるGL1500に生まれ変わった。外装や装備も一気に現代的となり、多くのファンを獲得した。
KAWASAKI ZEPHYR──時代を超越したフォルムでネイキッド旋風を巻き起こした
’80年代後半、レーサーレプリカのスペック至上主義と高額化が飽和点に達し、新たなカテゴリーを望む声が高まった。これに応え、カワサキが’89年4月に発売したモデルがゼファー(400)である。GPz400Fがベースの空冷2バルブに、鉄ダブルクレードルフレームという時代に逆行した車体構成ながら、往年のZをイメージした普遍的なフォルムと大らかな味わいを体現。52.9万円というリーズナブルな価格も手伝い、大ヒットを飛ばした。発売当初から入手困難になるほどの人気で、’92年までベストセラーに君臨。他メーカーも丸目1灯&リヤ2本ショックのネイキッドをこぞって投入し、レプリカブームは終焉。代わってネイキッド全盛時代が幕を開けた。
また、400のヒットを受け、ほぼ同時期に750と1100の開発がスタートした。’90年8月に登場した750は、Z650ベースの直4に一段とZ2を想起させる造形を採用。旗艦の1100は’92年にデビューし、国内仕様初のリッターオーバーNKとなった。
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