
世界中で盤石の地位を獲得しているグランドツアラー。ホンダのゴールドウイングシリーズには、そんな印象を抱いている人が多いと思う。もっとも初期のGL1000とGL400/500は、とてつもなく革新的なモデルだったのだ。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●外部リンク:ホンダコレクションホール ※記事内の展示内容はリニューアル前のもの
ホンダならではの独創性
GL1500[1988]──1975~1987年型では水平対向4気筒エンジンだったGLシリーズの旗艦は、1988年型から水平対向6気筒エンジンに進化。
1970年代を代表するホンダのオートバイという言葉から、どんなモデルを思い浮かべるかは人それぞれ。1969年型CB750フォアに端を発する多種多様な並列4気筒車をイメージする人がいれば、“4ストのホンダ”という姿勢を捨てて生まれた2スト単気筒モトクロッサー/トレールバイクのエルシノア、ファミリーバイクの世界に革命を起こしたロードパルなどを連想する人もいるだろう。
GL1500[1988]──既存のGL1200の最高出力・最大トルクが94ps/7000rpm・10.7kgf-m/5500rpmだったのに対して、GL1500は97ps/5000rpm・15.2kg-m/4000rpmを発揮。
とはいえ現代の視点で考えてみると、技術的に突出していて、ホンダならではの独創性が存分に感じられるのは、1974年にデビューしたGL1000、そして1978年から発売が始まったGL(ヨーロッパではCX)400/500ではないか……と思う。グランドツアラーとして盤石の地位を獲得している近年の姿からは想像しづらいかもしれないが、初期のGLはとてつもなく革新的だったのだから。
各車各様にして画期的な特徴
GL1000[1975]──1980年以降はクルーザースタイルとなったGLの旗艦だが、1975~1979年型は現代で言うネイキッドだった。
まずは“キング・オブ・モーターサイクル”というコンセプトを掲げて生まれたGL1000の説明をすると、このモデルの一番の見どころは言わずもがな、水冷水平対向4気筒エンジンだろう。歴史を振り返れば、1930年代にはドイツのツェンダップ、1950年代にはイギリスのウーラーが、空冷水平対向4気筒車を手がけていたものの、市販車として成功を収められなかったそれらとは異なり、日本車初のリッターバイクとなるGL1000は、このエンジン形式ならではのスムーズさや出力/トルク特性が高く評価され、主要市場の北米で大人気を獲得したのだ。
GL1000[1975]──水冷OHC2バルブ水平対向4気筒の最高出力・最大トルクは同時代のホンダ車でトップとなる、80ps/7000rpm・8.0kgf-m/6000rpm。4つのケーヒン製キャブレターは、当時はまだ採用車が少なかった負圧式。
さらに言うなら、カムシャフトの駆動にコグドベルトを使用すること、左右分割式クランクケースとシリンダーを一体成型したこと、パワーユニット上部にエアクリーナーボックスや小物入れを設置したこと(ガソリンタンクの大半はシート下)なども、GL1000の特徴である。また、縦置きクランクというエンジンの構成を考えれば自然な流れなのだが、静粛性に優れるうえに頻繁な整備を必要としないシャフトドライブも、当時の日本車では画期的な機構だった(日本製大排気量ツアラーでシャフトドライブが定番化するのは1970年代後半から)。
GL400[1978]──新時代のミドルとして開発されたGL400/500は、ホンダにとって初のVツイン車にして、初のコムスターホイール+チューブレスタイヤ採用車。
一方のGL400/500に関しては、革新的どころか、登場時にはモトグッツィとの類似性を指摘する人がいたらしい。もっともこのモデルは、当時のミドルでは貴重なダイヤモンドタイプのフレームや、ホンダ独自のコムスターホイールを採用していたし、1960年型V7を起点とするモトグッツィの空冷縦置き90度Vツインと、GL400/500が搭載する水冷縦置き80度Vツインは、冷却方式やVバンク角だけではなく、何もかもが別物だったのだ。
GL400[1978]──GL400/500が導入した独創的なツイステッドヘッドの技術は、後に形を変えてフラットトラックレーサーのRS750Dに転用された。
GL400/500のエンジンで最も特筆するべき要素は、クランク軸に対して吸排気ポート・バルブ・燃焼室を22度外側にひねったツイステッドヘッドである。前代未聞のこの構成を採用した目的は、ライダーの足とパワーユニットの干渉を避けつつ、吸排気通路のストレート化を図るためだが、当時の生産技術を考えると、よくぞここまで手間がかかるメカニズムを採用したものだと思う。
GL400[1978]──GL400/500の動弁系は、当時の日本車では珍しいOHV。その背景には、エンジンの上下寸法をできるだけ小さくしたいという意図があった。
また、クランクケースと左右シリンダーを一体鋳造したこと、動弁系がOHVでありながら4バルブヘッドと特殊合金製(当時の技術資料にはそう記されていたが、チタン合金だった模様)プッシュロッドを採用したことも、GL400/500を語るうえでは欠かせない要素だろう。
二階建て構造と重量物の逆回転
GL1000[1975]──パワーユニットの小型化に貢献する、二階建て構造を採用したGL1000の水平対向4気筒。クラッチの設置場所は後端で、1次減速にはハイボチェーンを使用。
さて、ここまでは各車各様の特徴を記してみたが、2種のGLに通じる特徴として興味深いのは、パワーユニットの前後長を短縮するため、ミッションをクランク下に配置する二階建て構造を採用し、縦置きクランク+シャフトドライブが発生するトルクリアクションを緩和する機構を導入したこと。後者をもうちょっと詳しく説明すると、重量物であるクランクシャフトとドライブシャフトに対して、GL1000は発電機、GL400/500はクラッチを逆回転させることで、乗りづらさの原因になるトルクリアクションを程よい塩梅で相殺していたのだ。
GL400[1978]──GL1000とはまったく異なるものの、GL400/500のパワーユニットもクランク下にミッションを配置する二階建て構造。1次減速はギア式で、クラッチは前部に設置。
ちなみに当時のモトグッツィ、そして縦置きフラットツイン+シャフトドライブのBMWは、エンジン前部にクランクと同軸の発電機、後部にクランクと同軸の巨大なクラッチ、その後ろにミッションを配置していた。そんな両社は近年になってパワーユニットの大改革を行っているが、現代のBMW・R1200/R1300系がGLシリーズを思わせる二階建て構造+クランクと逆回転するクラッチを採用するのに対して、モトグッツィの最新作となるコンパクトブロックは、基本的には昔ながらの構成を維持しつつも、クラッチの配置変更&小型化や、クランクと逆回転するフリーホイールの追加を行っている。
GL400[1978]──ミドルGLが搭載する水平V型2気筒の最高出力・最大トルクは、400:40ps/9500rpm、3.2kgf-m/7200rpm、500:48ps/9000rpm、4.1kgf-m/7000rpm。発売当時の価格は、1977年12月発売のGL500が44万8000円、1978年3月発売のGL400が43万8000円だった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
ME125W[1977]:オリジナルフレームの原点 レースが2ストローク全盛の時代に、ホンダCB125JXの空冷4ストローク単気筒SOHCエンジンを大胆にチューン。自然循環式のオリジナル水冷シリンダー[…]
ヤマハNMAX155試乗レビュー この記事では、ヤマハの原付二種スクーターから、NMAX ABS(125)の2018年モデルについて紹介するぞ。 ※以下、2018年7月公開時の内容に基づく 【NMAX[…]
初の対米輸出車にして初の4ストビッグバイク 1966年から発売が始まったW1シリーズは、近年ではカワサキの歴史を語るうえで欠かせない名車と言われている。それはたしかにそうなのだが、W1シリーズの開発経[…]
常識を塗り替えた最強の空冷Z いまやレーサーやスーパースポーツ車はもちろん、スポーツネイキッドでもメジャーなアルミフレーム。しかしその源流は、いちコンストラクターが作ったマシンにあった…。 モリワキエ[…]
あの頃の中型 青春名車録「2ストの台頭」(昭和55年) 1970年代(昭和45年~)、国内における250ccクラスの人気は低迷していた。車検がないためコスト的に有利だが、当時は車体設計が400ccと共[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
国内初のX-ADV(’21-23)用車検対応2本出しフルエキゾースト 日本はもちろん、欧州で人気のX-ADVは数々の輸入マフラーメーカーがさまざまな製品をラインナップしています。しかし、日本で車検対応[…]
“次”が存在するのは確実! それが何かが問題だ 2018年に発売されたモンキー125以来、スーパーカブC125、CT125ハンターカブ、そしてダックス125と、立て続けにスマッシュヒットを飛ばしている[…]
ホンダPCX/160(2020/2021)比較試乗レビュー この記事では、ユーロ5に対応するため全面的に刷新し、第4世代となった2021年モデルと前年にあたる2020年モデルについて比較して紹介するぞ[…]
「カブ」の名称は小熊を意味する英語から カブF型は自転車の後輪に取り付ける6kgの補助エンジンで、ホンダのオートバイ躍進の基盤を築いた機種。「白いタンク、赤いエンジン」の愛称で親しまれ、デザインでも人[…]
人気記事ランキング(全体)
“次”が存在するのは確実! それが何かが問題だ 2018年に発売されたモンキー125以来、スーパーカブC125、CT125ハンターカブ、そしてダックス125と、立て続けにスマッシュヒットを飛ばしている[…]
カバーじゃない! 鉄製12Lタンクを搭載 おぉっ! モンキー125をベースにした「ゴリラ125」って多くのユーザーが欲しがってたヤツじゃん! タイの特派員より送られてきた画像には、まごうことなきゴリラ[…]
疲れない、頭痛知らずのフィッティング技術! SHOEIの「Personal Fitting System(以下P.F.S.)」は、十人十色で異なるライダーの頭部形状に合わせたフィッティングを行う同社の[…]
セニアカー技術をベースとしながら、誰もが楽しめる乗り物へ スズキがジャパンモビリティショー2023(JMS2023)で出品したのが、16歳の高校生からセニアカーに抵抗のある高齢者まで、誰でも簡単に楽に[…]
40年の歴史を誇るナナハン・スーパースポーツと、兄弟車のR600 1985年当時、ナナハンと呼ばれていた750ccクラスに油冷エンジン搭載のGSX-R750でレーサーレプリカの概念を持ち込んだのがスズ[…]
最新の投稿記事(全体)
脇を冷やすことで全身を効率的にクールダウン 「THERMO-GEAR BELT」の最大の魅力は、なんといっても「冷暖対応デュアルペルチェ搭載」という点だ。一台で夏場の猛暑対策はもちろんのこと、冬場の厳[…]
クシタニが主宰する国内初のライダー向けイベント「KUSHITANI PRODAY 2025.8.4」 「KUSHITANI PRODAY」は、これまで台湾や韓国で開催され多くのライダーを魅了してきたス[…]
レストアでのつまづきはそこかしこに 古いバイクをレストアしていると意外なところでつまずいたりするものですが、今回引っかかったのが8インチのチューブタイヤの「リムバンド」。 こちらのホイール、別にリムバ[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
ガソリン添加剤の役割 ガソリン添加剤といってもその用途はさまざまですが、大まかなカテゴリーとしては 洗浄効果 性能向上 の2つに分けられます。 洗浄効果について 現在主流になっているPEA(ポリエーテ[…]