世界中で盤石の地位を獲得しているグランドツアラー。ホンダのゴールドウイングシリーズには、そんな印象を抱いている人が多いと思う。もっとも初期のGL1000とGL400/500は、とてつもなく革新的なモデルだったのだ。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●外部リンク:ホンダコレクションホール ※記事内の展示内容はリニューアル前のもの
ホンダならではの独創性
1970年代を代表するホンダのオートバイという言葉から、どんなモデルを思い浮かべるかは人それぞれ。1969年型CB750フォアに端を発する多種多様な並列4気筒車をイメージする人がいれば、“4ストのホンダ”という姿勢を捨てて生まれた2スト単気筒モトクロッサー/トレールバイクのエルシノア、ファミリーバイクの世界に革命を起こしたロードパルなどを連想する人もいるだろう。
とはいえ現代の視点で考えてみると、技術的に突出していて、ホンダならではの独創性が存分に感じられるのは、1974年にデビューしたGL1000、そして1978年から発売が始まったGL(ヨーロッパではCX)400/500ではないか……と思う。グランドツアラーとして盤石の地位を獲得している近年の姿からは想像しづらいかもしれないが、初期のGLはとてつもなく革新的だったのだから。
各車各様にして画期的な特徴
まずは“キング・オブ・モーターサイクル”というコンセプトを掲げて生まれたGL1000の説明をすると、このモデルの一番の見どころは言わずもがな、水冷水平対向4気筒エンジンだろう。歴史を振り返れば、1930年代にはドイツのツェンダップ、1950年代にはイギリスのウーラーが、空冷水平対向4気筒車を手がけていたものの、市販車として成功を収められなかったそれらとは異なり、日本車初のリッターバイクとなるGL1000は、このエンジン形式ならではのスムーズさや出力/トルク特性が高く評価され、主要市場の北米で大人気を獲得したのだ。
さらに言うなら、カムシャフトの駆動にコグドベルトを使用すること、左右分割式クランクケースとシリンダーを一体成型したこと、パワーユニット上部にエアクリーナーボックスや小物入れを設置したこと(ガソリンタンクの大半はシート下)なども、GL1000の特徴である。また、縦置きクランクというエンジンの構成を考えれば自然な流れなのだが、静粛性に優れるうえに頻繁な整備を必要としないシャフトドライブも、当時の日本車では画期的な機構だった(日本製大排気量ツアラーでシャフトドライブが定番化するのは1970年代後半から)。
一方のGL400/500に関しては、革新的どころか、登場時にはモトグッツィとの類似性を指摘する人がいたらしい。もっともこのモデルは、当時のミドルでは貴重なダイヤモンドタイプのフレームや、ホンダ独自のコムスターホイールを採用していたし、1960年型V7を起点とするモトグッツィの空冷縦置き90度Vツインと、GL400/500が搭載する水冷縦置き80度Vツインは、冷却方式やVバンク角だけではなく、何もかもが別物だったのだ。
GL400/500のエンジンで最も特筆するべき要素は、クランク軸に対して吸排気ポート・バルブ・燃焼室を22度外側にひねったツイステッドヘッドである。前代未聞のこの構成を採用した目的は、ライダーの足とパワーユニットの干渉を避けつつ、吸排気通路のストレート化を図るためだが、当時の生産技術を考えると、よくぞここまで手間がかかるメカニズムを採用したものだと思う。
また、クランクケースと左右シリンダーを一体鋳造したこと、動弁系がOHVでありながら4バルブヘッドと特殊合金製(当時の技術資料にはそう記されていたが、チタン合金だった模様)プッシュロッドを採用したことも、GL400/500を語るうえでは欠かせない要素だろう。
二階建て構造と重量物の逆回転
さて、ここまでは各車各様の特徴を記してみたが、2種のGLに通じる特徴として興味深いのは、パワーユニットの前後長を短縮するため、ミッションをクランク下に配置する二階建て構造を採用し、縦置きクランク+シャフトドライブが発生するトルクリアクションを緩和する機構を導入したこと。後者をもうちょっと詳しく説明すると、重量物であるクランクシャフトとドライブシャフトに対して、GL1000は発電機、GL400/500はクラッチを逆回転させることで、乗りづらさの原因になるトルクリアクションを程よい塩梅で相殺していたのだ。
ちなみに当時のモトグッツィ、そして縦置きフラットツイン+シャフトドライブのBMWは、エンジン前部にクランクと同軸の発電機、後部にクランクと同軸の巨大なクラッチ、その後ろにミッションを配置していた。そんな両社は近年になってパワーユニットの大改革を行っているが、現代のBMW・R1200/R1300系がGLシリーズを思わせる二階建て構造+クランクと逆回転するクラッチを採用するのに対して、モトグッツィの最新作となるコンパクトブロックは、基本的には昔ながらの構成を維持しつつも、クラッチの配置変更&小型化や、クランクと逆回転するフリーホイールの追加を行っている。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
ハイパワーだけでなく、本来持つテイスティさを損なわず、より“らしさ”を強調するストロークアップ エンジンを強化する際、排気量アップが効果的なのはたやすくイメージできるだろう。ハーレーダビッドソンはエボ[…]
直線基調の斬新スタイルへの挑戦 「デザインの源流はバック・トゥ・ザ・フューチャー」 好みにカスタムしたバイクで行きつけのカフェに向かい、日がな一日、気の合う仲間とバイクを眺め、バイク談義に耽る。 その[…]
【’09VMAX開発秘話】2リッター「音魂(オトダマ)」は失敗だった 新VMAXの開発には実に十数年の歳月が費やされた。このプロジェクトを長い間推し進めてきた中心人物は開発の経緯をおよそ次のように語る[…]
リグニスによるカスタムコンプリートのニューモデル『フリスコスタイル』とは 「これこれっ、これなんだよなぁ」と、エボリューションVツインを知る人はもちろん、もしかしたらハーレーダビッドソンに乗ったことが[…]
市販バージョンは750ccオーバー!? ホンダが世界に先駆けて量産直4マシン=CB750フォアを発売したのは’69年のこと。つまり、今年は直4CBの生誕30周年にあたるってわけ。そこで、提案モデルとい[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
126~250ccスクーターは16歳から取得可能な“AT限定普通二輪免許”で運転できる 250ccクラス(軽二輪)のスクーターを運転できるのは「AT限定普通二輪免許」もしくは「普通二輪免許」以上だ。 […]
1位:ホンダ新型「CB1000」8月時点最新情報まとめ ホンダがCB1000ホーネットをベースに、CB1300の後継機として開発を進めているというウワサの新型CB1000。その8月時点のスクープ情報ま[…]
大型二輪免許は18歳から取得可能! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外には“AT限定”免許も存在する[…]
しっかりとした防寒対策をすれば冬ならではの魅力が楽しめる! じっとしているだけでも寒い季節…さらに走行風を浴びるバイクって何が楽しいの? と思われる方も多いかもしれません。たしかに寒さの感じ方は、人そ[…]
6速MT仕様に加えEクラッチ仕様を設定、SエディションはEクラッチ仕様のみに 2017年4月に発売され、翌年から2024年まで7年連続で軽二輪クラスの販売台数で断トツの1位を記録し続けているレブル25[…]
人気記事ランキング(全体)
アッパーカウルはフランスで882.5ユーロ 1980年代のGSX1100S KATANAをモチーフにしたスペシャルモデルを製作することは、S2コンセプトのスタッフが何年も温めていたアイデアだった。それ[…]
【’09VMAX開発秘話】2リッター「音魂(オトダマ)」は失敗だった 新VMAXの開発には実に十数年の歳月が費やされた。このプロジェクトを長い間推し進めてきた中心人物は開発の経緯をおよそ次のように語る[…]
ライトグレーのボディにライトブルーのホイールが新鮮! ヤマハが「MT-25」の2025年モデルをインドネシアで世界初公開した。欧州で発表済みの兄弟モデル・MT-03に準じたモデルチェンジ内容で、現地価[…]
従来は縦2連だったメーターが横2連配置に ヤマハは、2004年に欧州で誕生し、2017年より日本を含むアジア市場へ(250として)導入されたスポーツスクーター「XMAX」の2025年モデルを欧州および[…]
欧州&北米で昨秋登場した新型YZF-R3の250cc版 ヤマハはインドネシアで新型「YZF-R25」を発表した。2024年10月に欧州&北米で登場した新型YZF-R3と同様のモデルチェンジ内容とした2[…]
最新の投稿記事(全体)
2001年登場の先代1800/2018年登場の現行1800に適合 ミシュランが新型スポーツツーリングタイヤ「MICHELIN ROAD W GT(ミシュラン ダブリュー ジーディー)」を発表した。20[…]
レーシングマシン「R90S」を彷彿とさせるシルエットとオレンジカラー BMWは、BMWモトラッドのヘリテイジカフェレーサー「BMW R12S」を国内200台限定で発売すると発表。1月22日より200台[…]
126~250ccスクーターは16歳から取得可能な“AT限定普通二輪免許”で運転できる 250ccクラス(軽二輪)のスクーターを運転できるのは「AT限定普通二輪免許」もしくは「普通二輪免許」以上だ。 […]
先日、バイク好きな友人と車でドライブしているときに(私は助手席だけれど…)ライダー同士がすれ違う際に、ピースをしあっている光景を見た。なんだか楽しそうなことしてるなーと思い、「あれって、車に乗ってる俺[…]
スパナプライヤー:刻みのないジョーが平行にスライド。スパナのように使えるプライヤー ストレートのスパナプライヤーは、細部の形状や仕上げは異なるものの、ヒンジの仕組みや特徴はクニペックスのプライヤーレン[…]
- 1
- 2