
ホンダの「Honda E-Clutch」なる商標が1月26日に公開された。この正体を探るべく、以前に公開されたクラッチまわりの特許や商標を探していってみると、クラッチバイワイヤシステムやその制御に関する記述に行き当たった。操作入力を電気信号に変えて作動させる機構では、どうやらバーンナウト時にも最適な制御が働くようだ。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ)
オートクラッチ操作とマニュアル操作を自在に切替可能?
2021年6月にお伝えした『クラッチもバイワイヤ! ホンダの新たな特許、指1本で軽々操作できる……だけじゃない?!』という記事を覚えている方はいらっしゃるだろうか。
この「クラッチバイワイヤシステム」は、従来のようにスチールケーブルまたは油圧で機械的にクラッチ機構を駆動していたものと異なり、クラッチレバーの作動軸に回転センサーと反力発生装置を備え、ライダーを操作を電気信号に変換してモーターでクラッチ機構を駆動するというもの。
「バイワイヤシステム」といえば、“スロットルバイワイヤ”=電子制御スロットル(略称として電スロと呼ばれることも)は最新バイクに採用される例が多い。ギクシャク感の少ないトラクションコントロールシステムの作動に不可欠なだけでなく、スロットル操作に対する反応やパワー特性、さらには最高出力さえもマッピングの設定で容易に変更できるため、当初はスーパースポーツを中心に広まった。さらに、ライダーのスロットル操作を超えたところで繊細なコントロールをして排出ガスを抑制したり(同じ原理ではあるが)燃費を向上したりするために、一般的なストリートバイクにも採用例が広がってきている。
大雑把に言えば、ライダーの操作をセンサーで拾い、電気信号に変えてワイヤー(配線)でECUに伝え、当該ユニットを作動させる、というのがバイワイヤ機構。これをクラッチ操作にも応用しようというわけだ。
以前の記事では、クラッチバイワイヤシステムによってライダーの操作をアシストしたりエンストを防止したり、また任意でオートクラッチとマニュアル操作を切り替えたりができそうという予想もお届けした。
今回は、その続報といってよさそうな情報が入ってきたのだ。
特許図に使用されているマシンはCB1000Rのようだが、最新型には見えないので、おそらくは特許図のためだけのものだろう。
商標「Pro Clutch」が昨年11/11に、「E-Clutch」が今年1/26に公開された
まずはホンダの2つの商標だ。ひとつは「Honda Pro Clutch」というものが2022年11月11日に公開され、もうひとつは「Honda E-Clutch」というものが2023年1月26日に公開された。
いずれも詳細は不明だが、前述のクラッチバイワイヤシステムに関係している可能性が高く、市販車への採用が近いことを感じさせる。
左の図は、発進時に通常発進なのかバーンナウトを狙っているのかを判定して、それに適した制御を行うフローのようだ。通常走行ではバルブ保持によって継続的なクラッチ接続を安定して行い、バーンナウトの場合は素早く作動できるアクチュエータ保持制御に切り替えている。右の図は、クラッチのモード切替が3種類あることを表している。
さらに、2022年8月26日に登録されたホンダの「鞍乗り型車両のクラッチ制御装置」という特許においては、ライダーが任意でバーンナウト(車両を停止した状態でフロントブレーキをかけながらリヤホイールのみをスピンさせる)を行い、これを急に終了(スロットルを戻すなど)した際に、自動クラッチによる切断動作の遅れを回避する方法が記述されている。
この特許の中に、「クラッチ制御モードは、自動制御を行うオートモードM1、手動操作を行うマニュアルモードM2、および一時的な手動操作を行うマニュアル介入モードM3」という記述があったのだ。ということは、前回の記事で予想したようなオート/マニュアル操作+アシスト機能が、本当に実在することになる。
たとえライダーの操作を電子制御がサポートすることになっても、ライダーの遊び心をなくさせない工夫。ここに“いかにもホンダ”を感じずにはいられない。
余談だが、バーンナウト終了時にクラッチを切る動作が遅れるとどうなるかというと、リヤタイヤが急にグリップを回復して車体が前に進もうとしてしまう。たいていはフロントタイヤが一瞬ズズッと数cm前に進む程度だが、うっかりパニックになると転倒することもあるかもしれない。これを回避するにはスロットルを戻すのと同時にクラッチを切ればいいのだが、自動クラッチでも同じことをしようというわけだ。
ヤンマシ編集部スクープ班が掴んでいる情報によれば、ある4気筒マシンが新しいクラッチ機構を採用して、早ければ今夏あたりにも登場しそうな気配があるという。候補はいくつかに絞れそうだが、果たして……?
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
回転センサーと反力発生装置を備えた「クラッチバイワイヤシステム」 アクセル操作を電気信号に変えて電子制御スロットルを操作する“スロットルバイワイヤ”は、ギクシャク感の少ないトラクションコントロールシス[…]
シートレールやトップ&ボトムブリッジなどをブラック仕上げに ホンダは、ネオスポーツカフェの長兄である「CB1000R」「CB1000Rブラックエディション」のカラーリングを変更し、2023年モデルとし[…]
タイトル写真のみ輸出仕様 新排出ガス規制に適合しつつ、価格上昇は最小限! ホンダのネオスポーツカフェ「CB650R」が、令和2年排出ガス規制に適合した2023年モデルにアップデートされた。カラーリング[…]
多用途に使えるスポーツ&ツーリングモデル ホンダは、ミドルクラスの4気筒フルカウルスポーツ「CBR650R」をマイナーチェンジ。エンジンを令和2年排出ガス規制に適合させるとともに、ニューカラーの「パー[…]
多用途に使えるスポーツ&ツーリングモデル ホンダは、ミドルクラスの4気筒フルカウルスポーツ「CBR650R」をマイナーチェンジ。エンジンを令和2年排出ガス規制に適合させるとともに、ニューカラーの「パー[…]
最新の関連記事(メカニズム/テクノロジー)
ファクトリーマシンが進化して帰ってきた! スズキは東京モーターサイクルショーのプレスカンファレンスで、2025年の『Team SUZUKI CN CHALLENGE』の体制発表を行った。メーカーとして[…]
実燃費の計測でおなじみだった「満タン法」だが…… エンジンを使った乗り物における経済性を示す指標のひとつが燃費(燃料消費率)だ。 「km/L」という単位は、「1リットルの燃料で何キロメートル走行できる[…]
1983年の登場当時、各雑誌媒体向けに紹介されたスズキRG250Γの全部品の分解写真。こうした写真をわざわざ撮影したことからも、同車に賭けたスズキの意気込みが感じられる。 フューエルインジェクション([…]
6段変速ミッション:スズキ T20(1965) 戦前はGPレーサーも4段変速までだったが、戦後の1952年にモトグッツィが5段変速を、1953年にドイツのNSUのレーサーが6段変速を採用した。そして国[…]
そもそもボア×ストロークって? 最近ロングストロークという表現をみる。エンジンのピストン往復が長いタイプのことで、バイクのキャラクターを左右する象徴として使われることが多い。 これはエンジン性能で高い[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
約8割が選ぶというEクラッチ仕様 「ずるいですよ、あんなの売れるに決まってるじゃないですか……」と、他メーカーからの嘆き節も漏れ聞こえてくるというホンダの新型モデル「レブル250 Sエディション Eク[…]
丸山さんのCB好きをホンダも公認! ヤングマシン読者ならおなじみのプロライダー・丸山浩さん。1990年代前半にはCB1000スーパーフォアでテイストオブフリーランス(現テイストオブツクバ)を沸かせ、C[…]
先進技術満載の長距離ツアラーに新色 発売は、2018年10月12日。ホンダのフラッグシップツアラーであるゴールドウイングは、2018年モデルで17年ぶりのフルモデルチェンジが実施され、型式もGL180[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
予選6番手から勝利を目指す! 2025年FIM世界耐久選手権(EWC)がいよいよ開幕。記念すべき第48回大会となったルマン24時間耐久レースは、4月18日(木)〜20日(日)にかけて開催され、60周年[…]
人気記事ランキング(全体)
一回の違反で免許取消になる違反 交通違反が点数制度となっているのは、よく知られている。交通違反や交通事故に対して一定の基礎点数が設定されており、3年間の累積に応じて免許停止や取消などの処分が課せられる[…]
足着きがいい! クルーザーは上半身が直立したライディングポジションのものが主流で、シート高は700mmを切るケースも。アドベンチャーモデルでは片足ツンツンでも、クルーザーなら両足がカカトまでベタ付きと[…]
2025年こそ直4のヘリテイジネイキッドに期待! カワサキの躍進が著しい。2023年にはEVやハイブリッド、そして2024年には待望のW230&メグロS1が市販化。ひと通り大きな峠を超えた。となれば、[…]
ホンダ新型「CB400」 偉い人も“公認”済み ホンダ2輪の総責任者である二輪・パワープロダクツ事業本部長が、ホンダ新ヨンヒャクの存在をすでに認めている。発言があったのは、2024年7月2日にホンダが[…]
振動の低減って言われるけど、何の振動? ハンドルバーの端っこに付いていいて、黒く塗られていたりメッキ処理がされていたりする部品がある。主に鉄でできている錘(おもり)で、その名もハンドルバーウエイト。4[…]
最新の投稿記事(全体)
約8割が選ぶというEクラッチ仕様 「ずるいですよ、あんなの売れるに決まってるじゃないですか……」と、他メーカーからの嘆き節も漏れ聞こえてくるというホンダの新型モデル「レブル250 Sエディション Eク[…]
ヤマハRZ250:4スト化の時代に降臨した”2ストレプリカ” 1970年代、国内における250ccクラスの人気は低迷していた。 車検がないためコスト的に有利だが、当時は車体設計が400ccと共通化され[…]
重厚感とユーザー寄りのデザインと扱いやすさが魅力本物のクラシックテイストがロイヤルエンフィールドの特長 1901年にイギリスで創業したロイヤルエンフィールドは、世界最古のバイクブランドとして長い歴史の[…]
SHOWAハイパフォーマンスシリーズキット体感試乗キャンペーン 東京都練馬区のK’s STYLE(ケイズ・スタイル)では、カワサキZ900/Z900RS用の高性能サスペンション「SHOWAハイパフォー[…]
丸山さんのCB好きをホンダも公認! ヤングマシン読者ならおなじみのプロライダー・丸山浩さん。1990年代前半にはCB1000スーパーフォアでテイストオブフリーランス(現テイストオブツクバ)を沸かせ、C[…]
- 1
- 2