ホンダの「クラッチバイワイヤシステム」なる特許が6月10日に公開された。今まではレバーからの入力をスチールワイヤーまたは油圧で機械的に伝達することでクラッチ機構を駆動していたが、これにより操作入力を電気信号に変えて作動させることが可能になる。
回転センサーと反力発生装置を備えた「クラッチバイワイヤシステム」
アクセル操作を電気信号に変えて電子制御スロットルを操作する“スロットルバイワイヤ”は、ギクシャク感の少ないトラクションコントロールシステムの作動に不可欠なだけでなく、スロットル操作に対する反応やパワー特性、さらには最高出力さえもマッピングの設定で容易に変更できるため、最新スーパースポーツを中心に採用が広まってきた経緯がある。さらに現在では、ライダーのスロットル操作を超えたところで繊細なコントロールをして排出ガスを抑制したり(同じ原理ではあるが)燃費を向上したりするために、ストリートバイクにも採用例が広がってきている。
パワーモードなどもスロットルバイワイヤがあればこそ。スズキがいち早く実現したS-DMSも、ダブルバタフライのスロットルが一種の電子制御スロットルだったからだ。そして最新のものになればなるほど、より繊細な検知や制御がなされるようになり、特にビッグバイクではエンジン出力のコントロールに欠かせないものになった。
大雑把に言えば、ライダーの操作をセンサーで拾い、電気信号に変えてワイヤー(配線)でECUに伝え、当該ユニットを作動させる、というのがバイワイヤ機構だ。四輪の世界では一般に二輪ほど繊細な制御が必要ないとされることから、早い時期に電子制御スロットルを採用してきた。一部ではブレーキバイワイヤもあり、EVやハイブリッド車における回生ブレーキ、アダプティブクルーズコントロールなどと組み合わせて使用されている。
そして今回、ホンダの二輪用クラッチバイワイヤシステムの特許が公開された。横置きポンプのマスターシリンダーようなレバー作動軸に、ピストンのような反力発生装置を備え、回転角センサーによってレバー操作の動きを検知し、これを電気信号に変えて、モーターでクラッチ機構を駆動するというものだ。
スーパースポーツへの搭載はDCTよりも現実的?
とはいうものの、最近のバイクはアシストスリッパークラッチの採用が(小排気量車を除いて)一般的になり、レバー操作は軽くなる一方。渋滞で左手が攣りそうになるバイクも少なくなってきた。また、一昔前はフィーリングに難があったアシストスリッパークラッチだが、近年は同機構を採用しているのかどうかをレバーのフィーリングだけでは簡単に判断できないほど、自然な操作感になってきている。
そんな状況でクラッチバイワイヤを採用するメリットとは何か。おそらく初心者には大きな恩恵があるのではないだろうか。たとえば予定よりも勢いよくクラッチを繋いでしまった場合でも、エンストしないようにスムーズな繋がりにコントロールしてくれたり、適切なスロットル操作が伴わず本当にエンストしそうになった場合はクラッチを切ってしまったりといった、“小さな緊急時”にさりげなくアシストすることも可能だろう。握力に自信がなくてもクラッチを正確にコントロールできたり、渋滞での左手の疲れをさらに軽減してくれたりといったメリットもありそうだ。
また、ホンダがデュアルクラッチトランスミッション=DCTの制御でやっているように、スロットルの開け始めや閉じ始めに、ほんのわずかの半クラッチ時間を設けることによってギクシャク感を回避したり、シフトアップ/ダウンのショックを電子制御されるクラッチによって緩和するなどのコントロールも可能になるだろう。そうすれば、駆動系のダンパー容量を減らすことができて、鼓動感を強く残しながらギクシャク感だけを減らす……なんてことすらできるのかもしれない。
その一方で、モーターでクラッチを作動させるということは、モード切替で完全なオートマチッククラッチにすることもできるはず。左手でレバーをマニュアル操作したい時はして、渋滞の際などはオートマチック制御に切り替えて左手をフリーに。さらにクイックシフターも装備していれば鬼に金棒だ。
スポーツ走行においても、ローンチコントロールと組み合わせたら最高のスタートが決められ……などと妄想は尽きない。
こうした技術がいずれ市販車に採用されるのかはわからないが、ライダー支援のためにあらゆる技術を研究する姿勢はいかにもホンダらしい。
いや待てよ、これが完成してAMT的なものでさらに小気味いい制御が可能になれば、DCTよりも簡素な機構でオートマが実現できて、そうなればスーパースポーツへの搭載も……なんていうのはいささか想像が膨らみすぎだろうか。
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