チャンピオン争いが緊迫してきた!

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.88「MotoGPマシンと全日本のマシンは別物……じゃない時代もあった」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第88回は、どんどん調子を上げるドゥカティ勢に立ち向かうヤマハのクアルタラロ選手、モト2のチャンピオン争いなど。


TEXT:Go TAKAHASHI PHOTO:DUCATI, SUZUKI, YAMAHA

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渡辺一樹選手はMotoGPの経験をEWCで生かしてほしい!

MotoGP第14戦サンマリノGPで日本のレースファンが注目したのは、何と言っても渡辺一樹選手だったのではないでしょうか。結果は皆さんご存じの通り、最終ラップでトップ2台にラインを譲って周回遅れになってしまいましたが、僕は「すごく頑張ったな!」と思いました。

前回も書きましたが、シーズン後半ともなると、各ライダーともマシンのベースセッティングが決まり、レース慣れも進み、簡単に言えばかなり速くなっています。そこに、乗り慣れていないMotoGPマシン、履き慣れていないミシュランのMotoGPタイヤ、そしてワールドスーパースポーツ参戦時代に経験があるとはいえ日常的に走っているわけではないミサノサーキット、という一樹くんがポッと参戦しても、厳しいレースになるのは当然です。

正直、シーズン開幕戦や第2戦ぐらいまでなら、一樹くんももう少しいいところを走れたんじゃないかと思います。それぐらい、シーズン序盤戦と終盤戦では各ライダーの仕上がり度合いが違うんです。そういう意味では「ちょっとかわいそうなタイミングだったかな」と思いますが、逆にチャンピオン争いにガチで取り組むトップライダーたちのガチ走りを間近で見られたわけですから、一樹くんも得たものが多かったのではないでしょうか。多いに刺激を受け、今までとは違うレベルの目標が、彼の中に芽生えたのではないかと思います。

急きょ参戦が決まった渡辺一樹選手。このタイミングでのレースは不利な要素も多かったが無事に完走した。

ライディングテクニックはもちろん、アレックス・リンスとレースウィークを過ごし、レースウィークの組み立て方や、マシンセットアップの仕方など、いろいろ勉強になったのではないかと思います。この後、一樹くんはEWC(世界耐久選手権)に参戦するとのこと。スプリントレースのMotoGPと耐久レースでは進め方や組み立ては異なりますが、より高いレベルのMotoGPを経験したことは、EWCでも生かせると思います。

昔からのレースファンの方の中には、「以前は世界GPにスポット参戦した日本人ライダーたちが活躍してたのになあ」と思う方がいるかもしれません。でも、僕たちの頃はGPマシンと全日本のマシンはほぼ同じでした。「違ったのはタイヤだけ」という状況なので、全日本でトップを走れれば世界でも通用したんです。

でも今、MotoGPマシンと全日本最高峰のJSB1000マシンは、まったくの別物です。レース専用に作られたプロトタイプマシンであるMotoGPマシンに対して、JSB1000マシンは市販車をベースにチューンナップしたものですから、素性が違い過ぎます。

’11~’18年にかけて、中須賀克行くんがMotoGPに何度かスポット参戦し、’12年の2位表彰台を筆頭に、6位、8位、9位……と、素晴らしい成績を残しました。でも彼は、ヤマハMotoGPマシンの開発ライダーを務めていた。中須賀くんの実力ももちろんありますが、普段からMotoGPマシンに乗っていたからこその好成績だったと思います。

そういう意味では、ほぼぶっつけ本番でもしっかりと決勝で完走した一樹くんが、かなり頑張ったことが分かります。全日本JSB1000では中須賀くんとトップ争いを繰り広げていますから、実力も確か。正直僕などは、「ケガするなよ……。とにかく無事にレースを終えろよ……」と、すっかり親心で観ていました。実際、自分の子供と言ってもおかしくない年齢差ですしね(笑)。

クアルタラロ選手が倒すべき壁は10台……!

MotoGP決勝はドゥカティのフランチェスコ・バニャイアが4連勝を果たしました。昨年の後半戦と同じような勢いに乗っており、気付けばランキング首位のファビオ・クアルタラロに30点差まで迫っています。ざっと計算してみましたが、残りのレースをバニャイアが全勝し、クアルタラロが全部2位だとすると、同ポイントでシーズンを終え、勝利数でバニャイアがチャンピオンとなります。

バニャイアの全勝はなかなか難しいと思いますが、クアルタラロも余裕があるとは言えない状況です。というのは、ここへ来てドゥカティ陣営がみんなすごく速くなってきているから。ポイント争いを有利に運ぶためには、もちろん25点を獲得できる優勝を狙うわけですが、今、クアルタラロが勝つためには、絶好調のドゥカティ勢に加え、上位フィニッシュが当たり前になってきたアプリリアの2台もかいくぐらなければなりません。つまり、10台もの「倒すべき壁」がそびえている、ということで、これはクアルタラロにとってかなり厳しい……。緊迫のチャンピオン争い、注目です。

最終ラップの接戦は見応えあり。バニャイア選手がエネア・バスティアニーニ選手を押さえ切った。

予選8位からのスタートで決勝は5位のクアルタラロ選手。今回は神がかった追い上げを見せられず。

Moto2では、アレンソ・ロペスが優勝。アウグスト・フェルナンデスが3位、小椋藍くんは5位で、ランキングはフェルナンデスがトップ、藍くんが2番手となりました。セレスティーノ・ビエッティが転倒リタイヤしたこともあり、チャンピオン争いはこのふたりが抜き出てきましたね。フェルナンデスが調子のいいコースでは藍くんがもうひとつ、そして藍くんの調子がいいとフェルナンデスがもうひとつ、と、ちょうど逆を行くようなふたり。ライダーとコースとの相性なのか、マシンのセットアップの違いなのか……。あと6戦、ぜひとも藍くんには頑張ってほしいところです。

Moto3は佐々木歩夢くんが引っかけられる形で転倒してしまい、残念でした……。日本人勢では鈴木竜生くんが6位と健闘。そして今回は、山中琉聖くんの調子がよかったですね。特に予選は好調。第12戦イギリスGPでは予選3位でしたが、今回は4位。しっかりと速さを身に付けています。決勝は13位でしたが、今シーズンはシングルフィニッシュも珍しくなくなってきました。今後に期待したいライダーのひとりです。

さて、モナコでの近況をお知らせすると、今は引っ越しの準備で大忙しです。これが本当に忙しくて、引っ越しにあたってはいろいろな許可が必要だったり、しっかりとバカンスを取るからなかなか進まない引っ越し業者との打ち合わせ、新しい家のための買い物などなど、パパ業全開です(笑)。

今の家は便利な立地で気に入っていましたが、景色がいいわけではありませんでした。今度の家は高台で少し不便にはなりますが、お城のすぐ近くということもあって、眺めは最高。F1コースが見渡せるようになります。もうすぐ僕は仕事で日本に行くので、引っ越しを我が家の女性陣にお任せすることになってしまうのが残念というか、ラッキーというか……(笑)。

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