国民的バイクのスーパーカブ。原付2種のシリーズで、最もレトロ&スタンダードなスーパーカブ110が大幅リニューアルを遂げた。新型エンジン/キャストホイール+フロントディスク/ABSと現代的な装備を入手したのだ。それはいいけど、カブらしい持ち味がどうなったのか気になるところ。従来型を買ったばかりのオーナーが興味津々でネチっこく新型と比較インプレッションしてみた!
●文:ヤングマシン編集部(沼尾宏明) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:ホンダ
【テスター:沼尾宏明】2輪誌やWEBなどで活躍するフリーの編集&ライター。従来型スーパーカブ110を昨年末に購入し、わずか4か月後に新型が発売される事態に。顔がちょっと涙目に見えるのは気のせいだ(笑)。値踏みするように新型を乗り倒した!
“カブみ”は残しつつ高速巡航が得意になった
ドゥルルーンという誰もが耳にしたことのあるサウンドを筆頭に、エンジンと車体から漂う丸みのある柔らかい乗り味。そんなカブならではのテイストを勝手に「カブみ」と筆者は呼んでいる。数ある現行カブシリーズで最もベーシックなスーパーカブ110は、そんな「カブみ」を最も濃厚に受け継ぐ1台だと思い、’21年12月に新車で購入した。
そんな矢先、’22年3月の大阪モーターサイクルショーで新型が発表。メカ的に大幅刷新を遂げた。クラッチ操作不要の自動遠心4速ミッションを継続しつつ、ロングストロークの新設計エンジンを搭載し、ギヤ比と1次減速比を変更。ホイールをスポーク→キャストとし、フロントブレーキはドラム→ディスクとなり、ABSも新採用した。さて、「カブみ」はどうなっているのか?
まず感じたのは、新型の乗りやすさだ。旧型はゼロ発進からほどほどに加速し、2速に上げていくと右手の動きに応じてダイレクトに加速していく。
対する新型は、停止状態から1速での発進が力強い。新旧で並走して何度も試したが、スタートでは新型が先行するのだ。ただし2速、3速とギヤを上げていくと加速感がマイルドになり、旧型に抜かれてしまう。
新型に比べれば旧型は中高回転域にかけてパワフルで振動も荒々しい。吹け上がりが早く、飛ばす際はポンポンとシフトアップし、早めにトップの4速に到達する。旧型はややもすればギクシャクしがちだが、新型はエンジン特性か、1速以外がハイギヤードなおかげなのかスムーズかつ振動も控えめ。また2速以降の守備範囲が広く、高回転まで引っ張って加速できる。
新型の美点が最も発揮されるのは高速域だ。4速60km/hで旧型はエンジンが少し頑張り始め、微振動が伝わってくる。一方の新型はほぼ振動がなく静か。3速で走れるほど余裕があり、まだ伸びそうだ。流れの速い郊外の国道を淡々と走るようなツーリングでは確実に新型の方が疲れにくい。
付け加えると、ギヤ操作時の節度感や滑らかさも新型が上。またギヤを3→2速、2→1速に落とした際、旧型はかなりエンジンブレーキが激しいが、新型は比較的穏やかだった。
総じて新型のエンジンは上質。同じ横型単気筒とはいえ、かなり印象が異なる。肝心の「カブみ」は正直なところ新型では控えめ。とはいえ、あのサウンドはしっかり聞こえるのでご安心を!
新型はカッチリスポーティに!
旧型も単体で乗れば十分柔らかいフィーリングながら、新旧で比較するとエンジンは旧型が「剛」、新型が「柔」の印象だった。一方でハンドリングや乗り心地は逆転。旧型が「柔」、新型は「剛」と言い表すことができる。
衝撃を吸収しやすく、しなやかな旧型のワイヤースポークホイールに対し、新型のキャストホイールからは高い剛性感が伝わってくる。直線ではそれほど感じ取れないが、コーナリングでは違いが顕著。旧型は体重移動などのアクションに対して反応がマイルドで、大らかな昔のバイクらしい感触だ。これも筆者は「カブみ」と解釈している。
新型はカッチリ感を伴ってスパッと自在に曲がり、バンク中も安定感が高い。これはホイールに加え、サス設定の違いも大きいハズ。ホンダに質問したところ、キャスト化によりバネ下重量が減ったため、前後のピッチングを抑えるサスセッティングに変更したという。車体挙動が抑えられ、よりシャッキリした乗り味になったのだろう。
段差を越えた際などの衝撃吸収性に関してはやはり旧型の方が優秀だが、乗り比べてわかるレベルの差だ。
ブレーキも同様に新型はカッチリしている。今やレアな旧型の前後ドラムブレーキは、初期制動がさほど効かず、二次曲線的に効いてくる。一方、新型のFディスクは初期からライダーの意志に忠実に制動力を発揮し、効力も一定。リヤはドラムを踏襲するが、この組み合わせに違和感はない。レトロな旧型に対し、新型はまさに現代的だ。
よく効くブレーキとキャストホイールが相まって、新型のハンドリングは扱いやすくもスポーティ。旧型より中間加速が大人しいものの、確実にコーナーが待ち遠しくなった。
そして忘れてはならないのがメーターだ。新型は液晶パネルを採用し、時計/トリップを追加。特筆すべきはギヤポジション表示だ。ロータリー式はギヤ段数がわからなくなりがちだけに、実に羨ましい装備。メーターに関しては断然、新型を支持したい。
装備と乗り味に昭和のテイストを色濃く残した旧型に対し、新型は現代的な外観と走りになった。ツーリング適性が一段と高まり、スポーティさまでアップしている。しかも価格はわずか2万2000円アップに過ぎない。
その上で「カブみ」は確実に残っている。大事にすべきものを護りながら、時代の要請に応じて変化してきたのが歴代スーパーカブ。味わいは少し薄くなったものの、多くのライダーに受け入れやすい進化を果たしたのだ。悔しいけど、旧型オーナーとしては正直、新型も魅力的。うーん増車するか…!?
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