原付一種扱いという話は何処へ……?

免許不要で、ヘルメット着用義務もなし? 電動キックボードの規制緩和に大きな疑問!〈多事走論〉from Nom

2021年12月23日に報道された、電動キックボードの規制緩和に関する話題。速度が20km/h以下の車体については免許を不要とし、ヘルメット着用も任意だといいます。また、特定の条件下では歩道や路側帯も通行可能に。ところがこれ、すでに東京都内ではレンタル事業にともなう特定区域内における特例措置として実施されているのです。なんとも釈然としないのですが……。

道路の左端が無法地帯になりかねない?!

年末も押し迫った昨年の12月23日、ちょっとにわかには信じられない報道がありました。

それは電動キックボードに関する規制緩和の件で、警察庁の検討会(有識者によって構成されています)が、速度が20㎞/h以下の車体については免許を不要とし(ただし、16歳以上。16歳未満の利用はそれ自体が禁止)、ヘルメットの着用は義務ではなく任意とする。また、原則として走行場所は車道だが、最高速度を6㎞/h以下に制御できる場合は歩道や路側帯も通行可能にする、というものでした。

電動キックボードに関しては、昨年1月に、電動キックボードのレンタル事業者から経済産業大臣に特定のエリアを走行するレンタル用キックボードについて特例措置の要望書が提出されました。

この背景にあるのは「産業競争力強化法」で、急速に低下している日本の経済競争力を規制緩和などにより強化することが盛り込まれていて、さまざまなことから注目が集まっている新たな小型モビリティを積極活用していこうとする狙いのようです。

これを受けて、車体の大きさおよび構造等(最高速度が15㎞/h以下等)が定められた基準に該当し、かつ、認定を受けた新事業活動計画に従ってレンタルされるもので、同計画に記載された当該新事業活動を実施する区域内の道路を通行している電動キックボードを「特例電動キックボード」とし、小型特殊自動車と位置付けること、ヘルメットの着用を任意とすること、自転車道を通行できるようにすること、一方通行および指定方向外進行禁止の道路を通行できること、普通自転車専用通行帯を通行できるようにすることを認める特例措置が、昨年の4月から今年の7月まで東京都内で実施されています。

電動キックボードに関しては、コロナ禍の影響もあるのかもしれませんが、昨年からかなり使用する人が増えていて、原付扱いなのにヘルメットをかぶらないまま乗っていたり、ナンバープレートを付けていなかったり、さらには道路交通法を無視するような走り方(一方通行無視や蛇行、歩道走行など)までと、朝のワイドショーなどで実際の違反行為の映像とともに頻繁に報じられていました。

その報道に対するコメンテーターの論調は、原付相当なのにかかわらず、自転車の延長のような考えで運転している人が多く見られ、危険極まりない、ルールを守って使用して欲しいというものが大半でした。

しかし、一方では、産業競争力強化の特例措置として、ヘルメットをかぶらずに自転車道を通行したり、一方通行を逆走したりすることが一部のレンタル業者が提供する電動キックボードには許されていたわけです。

何とも釈然としませんが、レンタルに限ったこととして考えれば、レンタル業者が交通ルールや安全運転の指導も行うことも前提になっていて、それがある種の安全担保になっているのかなと思っていました。

しかし、昨年末の報道では、20㎞/h以下の電動キックボードは免許不要、ヘルメット着用義務もなし、歩道通行も可能と、これまでのルールを大きく覆すようなことが報じられたのですから、驚かれた方も多かったと思います。

また、通行帯にしても、バイクは道路の左端を走る「キープレフト」と教習所で習ったはずですが、いまやその左端には「自転車専用通行帯」や「優先帯」が数多くできていて、基本のキープレフトを守ることすらおぼつかない状況です。

現在でも、写真のようにヘルメットをかぶらずに電動キックボードを使用する人がいるのだから、もし、レンタルキックボードに限ってヘルメット着用は任意とするような取り決めになっても、仕様している電動キックボードがレンタルなのか、その人の所有物なのかの判断はどうやって行うのだろう。さらに、20㎞/h以下でも、転倒して頭部を強打したら重症になる可能性もあるというのに……。

とくに、法定速度が30㎞/hの原付バイク、平均速度が15㎞/h程度と言われる自転車(電動アシスト自転車含む)、そして20㎞/h以下の電動キックボードが道路の左端に集中すると、道路の左端には超過密な混合交通が生まれてしまいそうです。なおかつ電動なのに免許は不要となると、キックボードの運転者は自ら進んで安全運転教育を受ける義務もないわけですから、道路の左端がまるで無法地帯のようになってしまうのではと危惧します。

ヘルメット着用にしても、着用を義務付けるとシェアリングを含むレンタル事業の普及の障害になると考えられるそうですが、なんでもビジネス優先でいいのかとても疑問です。

警察庁のウェブサイトで公開されている、「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」の報告書(令和3年12月)には、電動キックボードを含む新たな小型モビリティについての検討が記載されていますが、正直、筆者には電動キックボードの各種規制緩和という結論ありきの議論がなされていたように思えてしまいます。

この報告書に記載されている、令和3年1月23日、30日、2月6日、21日に、埼玉県警察運転免許センターで行われた電動キックボード走行実験(電動キックボードを運転したことがない16歳~60歳以上の100人を被験者、半数が運転免許所持者)の結果では、指定場所不停止や信号無視、右側通行といった違反を犯すのは圧倒的に免許を持たない人が多かったそうです。

また、ネットリサーチ(500件)と運転免許試験場来場者に対する調査(1736件)の結果では、電動キックボードが歩道を通行してもよいと思うかの質問に対して、思わないが59%で、よいと思わない理由が危険だからと答えた人は約90%に上っています。

このアンケートの結果から考えても、免許不要で歩道走行可能という結論がなぜ出るのでしょうか?

バイクも有用な小型モビリティ。さらなる活用方法もあるのでは?

そして、この有識者検討会で話されていたのは、新たな小型モビリティだけですが、コロナ禍で多くの人から注目を集めたように、バイクも実に有用な小型モビリティです。

実績もあって、ルールも確立している小型モビリティとしてのバイクの有効活用法も考えるべきなのではと、二輪業界の関係者は誰しも思うのではないでしょうか。

今回の報道では、電動キックボードは免許不要にすると言われていますが、産業競争力強化という名目でいとも簡単に規制緩和の方向に突き進んでいるように感じてしまいます。

バイクを振り返ってみると、たとえば普通二輪小型AT限定免許を2日間の教習で取得可能にすることを実現するためにどのくらいの年月が必要だったか。

コロナ禍でバイクの通勤・通学ユースが増えたが、主に使用されているのは30km/h制限がなく、二段階右折も必要のない原付2種バイク。手前が原付で、後方が原付2種で、見た目の大きさはほとんど変わらないが、使い勝手は大幅に異なっている。現在、原付二種スクーターを運転するために必要な普通二輪小型AT限定免許は、最短2日間で教習が終了して免許を取得できるが、国が小型モビリティを活用する方向であるのなら、自動車免許で原付2種まで運転できるようにすることも前向きに検討してもらいたい。

あるいは、EUと同様に、自動車免許で原付2種まで運転できるようにする規制緩和を長年、二輪業界の各団体が要望していますが、実現の見通しは現在のところまったくありません。

最近は、学校ではほとんど安全運転教育を行っていないようですから、交通社会のルールを学んだことのない人が、16歳以上だからといっていきなり公道デビューするのは危険極まりないことじゃないでしょうか。

その点、自動車免許を保有している人は、一定の安全運転教育を受けていて、路上教習で公道デビューもしているわけです。それなのに、法定速度30㎞/hの原付は運転してもよくて、大きさもさほど原付と変わらない原付2種は運転できないというほうが不合理ではないでしょうか。

ここのところ、バイクの免許に関する大きな動きはありませんが、この電動キックボードの件が起きたことで、そっちが規制緩和するなら、バイクも緩和してくれという動きが起きないものか(あるいは、起こしたほうがいいのでは)と思います。

警察庁に質問状を送付済み。回答が届き次第、ご報告します

実は、この報道を見て、年明けに警察庁の広報室に電話で取材を申し込んだところ、メールに質問状を添付して送るように言われました。

そして、基本的に質問に関する回答は2週間後になるとも。

電動キックボードに関する報道が流れたのは12月24日くらいですから、すでに3週間も経過しています。この間、メーカー関係者などにもこの件について話を聞いてみましたが、ほとんどの人が寝耳に水で、電動キックボードとバイクの規制緩和に関する大きな対応の違いに驚くとともに、混合交通での安全担保に不安を抱いていました。

警察庁からの回答期日は1月20日で、この記事の締め切り後になってしまいますから、まずは筆者がこの報道のどこに違和感を覚え、どこが問題だと感じるのかをみなさんに知っていただくことにして、記事を書いてその校正がアップされた……というまさにその時に、警察庁からの回答が届きました。

回答を熟読して、免許問題や二輪車の事故問題に取り組んでいる業界の方の意見もお聞きした上で、あらためてこの問題についてご報告することにします。

→回答編はこちら


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