原付バイクや自転車とどうやって棲み分ける?

電動キックボードの規制緩和に関して、警察庁からの回答は……〈多事走論〉from Nom

2021年12月23日、電動キックボードの規制緩和に関する報道があり、速度が20km/h以下の車体については免許を不要とし、ヘルメット着用も任意とするほか、特定の条件下では歩道や路側帯も通行可能にするというものでした。これについて当コラムでも記事化したうえで、警察庁に質問状を送りました。その回答が届きましたので、詳しくご報告したいと思います。


●文: Nom(埜邑博道) ●イラスト: 田中斉

混合交通の中での危険性に不安を覚えるユーザーの声

2022年1月20日に投稿した「電動キックボード」に関する記事ですが、Yahoo!ニュースに転載されると160件を超すコメントが寄せられました。

その大半は、免許不要、ヘルメット着用は任意という点に対し、安全面の不安を訴えるものでした。

ヤングマシンの記事ということで、コメントしてくださったのは実際にバイクに乗っている方が多く、混合交通の中でのバイクの危険な面も十分承知していて、それゆえに今回の電動キックボードに関する規制緩和の報道に違和感を覚える方が多かったのだと思います。

20日に投稿した記事に書いたように、警察庁から記事の校正が終了した19日の午後に回答がメールで届きましたので、その回答をご紹介しながら、今回の電動キックボードの規制緩和について考えたいと思います。

また、警察庁からの回答はニュアンス含め正確に伝わるように、省略などを一切せずに全文を掲載したいと思います。

質問①

どういう目的で免許不要・ヘルメット着用は任意で電動キックボードの公道走行を可能にするのでしょうか。また、今年の国会で道路交通法改正案を提出するとのことですが、それはいつごろになりますか。

回答

一般的な電動キックボードは、現行法上は原動機付自転車等に区分されていますが、その使用実態をみると、性能上、歩行者や自転車並みの速度でしか走行できないものもあるところです。このような実態を踏まえ、当庁の有識者検討会の報告書においては、
○ 一般的な原動機付自転車等と必ずしも同様に扱うことが適当ではないと考えられる場合があることから、
○ 最高速度や車体の大きさに着目して車両の区分を定め、それに応じた交通ルールを定めることが適当である旨の提言がなされたところです。
そこで、現在、当庁では、電動キックボード等のうち、性能上の最高速度や大きさが自転車と同程度のものを原動機付自転車から切り出して、自転車と同様の交通ルールを定めることを検討しているところであり、これにより、守るべき交通ルールが明確化され、その内容を周知徹底することにより、交通秩序の確立につながるものと考えています。
一方、性能上の最高速度が原動機付自転車等と同程度の電動キックボードについては、引き続き、原動機付自転車等に区分することとしています。
このように、今回検討している道路交通法の改正案は、電動キックボードの性能や、使われ方等を踏まえて、それぞれにふさわしい交通ルールを定めることとしたものです。
なお、上記の内容を含む道路交通法改正案につきましては、本年の通常国会に提出することを予定していますが、具体的な時期は未定です。

質問①に対する回答ですが、まず「一般的な原動機付自転車等と必ずしも同様に扱うことが適当ではないと考えられる場合がある」という回答の意味が正直理解できません。

電動キックボードは、小径タイヤでさらに立ち乗り姿勢ですから、原付などと比較しても安定性に欠けるのは明らかで、もし同等に扱うのが適当ではないというのであれば、より厳しい規制をかけるというのが本来ではないでしょうか。

さらに、「性能上の最高速度や大きさが自転車と同程度のものを原動機付自転車から切り出して、自転車と同様の交通ルールを定めることを検討しているところ」という部分に関しても、どうやって自転車と同程度のものと判別するのでしょう。

バイクの場合は厳密な型式認証制度があってそれが性能や安全性を担保していますが、電動キックボードにはそのようなものは存在しません。さらに、製造しているのも中国などの海外メーカーが多く、警察庁が言うように自転車と同程度の性能であることを保証できるのかはなはだ疑問ですし、メーカーが製品の安全性をしっかり担保してくれる保証も低いと言わざるを得ません。

また、自転車と同等の性能の電動キックボードと、原付等に区分されるキックボードをどうやって見分けようとしているのでしょうか。

ご存知のように、電動キックボードはネット通販などで誰でも簡単に購入できますから、原付等に区分される性能のものを購入して無免許、かつノーヘルで乗り回す人が続出しそうな気がします。

この点について聞いた質問②とその回答です。

質問②

免許不要は16歳以上とのことですが、どうやって運転者の年齢を見分けるのでしょうか。取締まりの強化や運転希望者に対しての安全運転指導などは考えているのでしょうか。

回答

同様に運転免許が不要な自転車の指導取締りの場合における年齢確認の実施方法も参考としつつ、指導取締りの際の的確な年齢確認に努めてまいります。
なお、違反者は交通反則通告制度の対象とした上で、自転車と同様に、違反を繰り返す者に対して講習の受講を義務付けるなどして、違反に対しては厳正に対処することで違反の抑止を図っていきたいと考えています。
また、電動キックボード等に関する交通ルールをまとめた資料を作成して広報啓発を実施するとともに、事業者に対し、当該資料等を活用した交通安全教育の実施を促していきたいと考えています。

免許不要の自転車に対し、電動キックボードは免許が必要なものと不要なものが混在するわけですから、本当にいちいち年齢確認などできるのでしょうか。ナンバープレートが必要なのかについては触れられていませんが、もし自転車と同等の性能のものはナンバーなしでOKということにでもなったら、原付と同様の性能のものとどうやって見分けるのでしょう。時速20㎞以上出る電動キックボードなら、警察官の静止を振り切って簡単に逃げられてしまいそうですし、さらにそういう事態になった際、歩道の通行人やほかの車両との衝突といったアクシデントも発生しそうです。

また、「事業者に対し、当該資料等を活用した交通安全教育の実施を促していきたい」とありますが、これも特定のレンタル業者を想定したものとしか思えず、海外の輸出メーカーに対してはどのような指導をしていくのでしょうか。

質問③

電動キックボードの車道での通行帯はどこを考えているのか。自転車専用通行帯ができ、ただでさえバイク(モーターサイクル)がキープレフトをするのが難しくなってきている現状で、自転車、バイク、電動キックボードの混合交通における安全性をどう担保するのでしょうか。

回答

大きさや性能最高速度が一定以下に抑えられている電動キックボード等の通行場所については、自転車道及び普通自転車専用通行帯を含む車道とすることを検討しています。
新たなモビリティのみならず、他の交通主体を含めた多様な交通主体の全てが安全かつ快適に通行することを可能とし、また、社会的な理解・合意を得られる交通ルールの在り方について、引き続き検討してまいります。

電動キックボードの走行エリアは、基本的には車道ということになるようですが、小さく、それゆえ小回りも効く電動キックボードが車道を走ることに対しては、「バスの場合、停留所での停止後、後写鏡等で乗客の安全を確認しドアを開けるが、自転車より狭い場所を通り抜けられる電動キックボードでは、接触等の険度が増すことが懸念される。また追い抜き等において、バスによる接近回避時の車内事故の発生を危惧している」と日本バス協会も懸念を表明しているようです。

バイクの規制緩和についてはまったくのゼロ回答

そして、どうしても納得できないのが、電動キックボードの規制緩和には躍起になっているように見えるのに対し、バイクの規制緩和はまったく進展がないこと。

スモールモビリティの普及を図りたいというのなら、安全性も性能もしっかり担保され、交通教育も施された免許取得者が運転するバイクをもっと有効活用できるようにする規制緩和を行ってはどうでしょうか。

質問④

原付バイクはヘルメット着用、時速30キロ制限、2段階右折などさまざまな制限がありますが、原付に関して規制緩和をするつもりはないのでしょうか。

回答

現時点、原動機付自転車一般について規制を緩和することは予定しておりません。

質問⑤

電動キックボードの免許不要での公道走行を可能にするのは、自動車などに代わるスモールモビリティの普及が念頭にあると思いますが、原付一種、二種も十分スモールモビリティの条件を満たすと思いますし、原付二種に関して普通自動車免許で運転可能にしてほしいと二輪業界は以前から訴えていますが、この件についての見解をお教えください。

回答

現行制度上、排気量が50cc未満の原動機付自転車(原付一種に相当)については、簡便に運転できる乗り物であることから、特段の技能試験は必要とせず、普通免許等を保有している者であれば運転可能とされている一方で、排気量が50ccを超える普通自動二輪車については、車体や排気量がより大きく、原動機付自転車と比べて高度な運転技能を要することから、普通免許保有者であっても、別途、普通二輪免許等の取得を必要とし、技能試験により運転技能を確認することとされています。
したがって、普通自動二輪車について、技能試験を行うことなく、普通免許で運転可能とすることについては、道路交通の安全確保の観点から適当ではないと考えていますが、普通自動二輪車のうち、排気量125cc以下の小型二輪車(原付二種に相当)については、免許取得に当たって国民の負担が過度なものとならないよう、小型限定普通二輪免許という区分を設け、より少ない教習時限数で免許を取得できるようにするなどの措置を講じております。

上記のように、想定はしていましたが、バイクの規制緩和についてはまったくのゼロ回答。

新しいモビリティに関しては柔軟で、前向きな考え方を示す一方で、日本の基幹産業であり、世界一のシェアを持つ二輪車をさらに利用しやすくして、渋滞の緩和や地方における有効な交通手段として活用する気はさらさらないようです。

また、「道路交通の安全確保の観点から適当ではないと考えています」という言葉も、電動キックボードの規制緩和前提と思われる発言の数々を読むと、なんだか非常に矛盾した言葉に思えてしまいます。

バイクの規制緩和については、引き続き業界団体などがしっかり取り組んでいってくれると思いますが、まずは電動キックボードの規制緩和が混合交通での安全性をしっかり担保し、事故が起きないようなルールの上で運用されることを願うばかりです。

それには、やはり運転免許は必要でしょうし、運転者の安全を守るためにもヘルメットの着用も必要。さらには、ナンバープレートやブレーキ、灯火器類、バックミラー等を装備し、他車から認識されやすい状態で走行することを義務付けるべきだと思います。

また、どうしても免許不要、歩道走行可にしたいなら、現在、東京で行われている実証実験のように走行エリアを限定すべきでしょう。まあ、それでも違反者は続出するでしょうけれど。

この後の動きですが、消息筋によると、3月の通常国会に道交法改正案が提出され、同時にパブコメの募集が始まるのではないかとのこと。

ルールを無視するような電動キックボードが大挙して公道を走りだし、バイクやクルマの運転者である我々が万が一にも加害者になってしまわないように、適切で、誰もが納得するルールができるようしっかりと訴えていきましょう。


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